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【2020.04.28】過度に他者へ同化してしまう"feeling into another"ではなく、自身の足場をしっかりとさせた上で本当に他者のためになる同調をする"feeling for another"へ。

初となるオンライン読書会が無事終了。直前のリハ→修正→リハ→修正→リハ......は、まるで文化祭のような雰囲気だった。企画のメイン担当の方がものすごい奮闘を見せてくれ、見事やり遂げることができた。さっそく次回参加を望んでくださる方もいて、とても嬉しい。イベントが終わったあと、運営メンバーみんなでガッツポーズをしたくなるような気持ちになった。こういう感じ、好き。

僕らが届けたい本は、読んで終わりのものではない。After Publishing、After Readingの学びをデザインしていきたい。Publishの定義を、著者の想いや知恵を公(Public)にし、そしてみんなが使える公共の(Public)知恵に高めることまで広げて考えるのならば、今回の取り組みは"After" Publishingではなく、むしろPublishingそのものだと思ってもいいのかもしれない。

そうして公共の知恵となったものが、社会をポジティブに変化させていく原動力になっていってくれたら嬉しい。

特に、今日扱った本である『Compassion(コンパッション)──状況にのみこまれずに、本当に必要な変容を導く、「共にいる」力』(ジョアン・ハリファックス著、英治出版)は、まさにいまこの情勢で読んでもらい、活かしてもらいたい知恵が詰まっている。


他者に役立つための基盤として、この本では次の5つの資質が挙げられている。

利他性:本能的に無私の状態で他者のために役立とうとすること。
共感:他者の感情を感じ取る力。
誠実:道徳的指針を持ち、それに一致した言動をとること。
敬意:命あるものやものごとを尊重すること。
関与:しっかりと取り組むが、必要に応じて手放すこと。

これらの資質は「エッジ・ステート(瀬戸際の状態)」と本書では呼ばれている。

なぜ瀬戸際なのか。

それは、これらの資質は、一歩間違えると害を及ぼすものとなってしまうからだ。それぞれは、以下のように変化してしまう。

●利他性→病的な利他性:承認欲求にとらわれたり、相手を依存させてしまったりする状態。
●共感→共感疲労:相手の感情と一体化しすぎて自分も傷つく状態。
●誠実→道徳的な苦しみ:正義感に反する行為に関わったり、目にしたときに生じる苦しみ。
●敬意→軽蔑:自身の価値観と異なる相手を否定し、貶めること。
●関与→燃え尽き:過剰な負荷や無力感にともなう、疲弊と意欲喪失。

この本の原題は"Standing at the Edge"。崖の瀬戸際は最も見晴らしが効き、多くのものを見通せる場所。一歩踏み外せば崖下に落ちてしまう危険性もあるけれど、そこに踏みとどまることができれば、最も他者の役に立てる場所でもある。

崖下に落ちることなく踏ん張ることができ、もしも落ちてしまったとしても、その苦難を学びに変えて再び登ってこられる力を与えてくれるもの。それが本書がいう「コンパッション」だ。

各章で、5つの資質それぞれにおける育み方や危険性が、多くの物語・実際のエピソード・科学的研究結果とともに語られる。この題材の豊富さは、禅僧であり、社会活動家であり、人類学者でもあるという著者ジョアン・ハリファックスさんの特異な経歴のなせる技だと思う。


僕自身が今年一番影響を受けている本で、どの章の学びも伝えたいことだらけ。そのなかでも特に「共感」のパートには頷きが止まらなかった。

健全な共感と、行き過ぎた共感疲労を分けるもの。これは、まさに共感疲労の最たるものとも言える病に陥ってしまった7年半前の自分に読ませたかった。

過度に他者へ同化してしまう"feeling into another"ではなく、自身の足場をしっかりとさせた上で本当に他者のためになる同調をする"feeling for another"へ。

自身が動けなくなるほどに痛んでしまう共感は、他者へのintoであり、本当の意味での他者への"for"にはならない。

この一言だけでも届けたかった。

だからこそ、第二・第三の自分を生み出してしまわないように、この本は熱意を持って届け続けたい。

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