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進路希望調査に「小宮果穂の思い出の人になりたい」と書いた話

「お前は進路希望調査になんて書いたの?」

「秘密…」

「なんだよ〜俺にはおしえてくれてもいいじゃんか〜」

「絶対笑うから…」

「笑わないよ、応援するから!」


「声優…」


「声優か〜」

「声がいいわけでもないただのオタクが、声優になりたいだなんて…笑えるだろ?」


「笑わないよ」

「お前も知ってると思うけど、声優を目指して成功する人なんて、ほんのひと握りなんだ。」
「才能のない俺が目指しても、成功する可能性はほぼ0だ。」

「でも、俺は応援する」

「いつも声優に元気をもらってるから、今度は自分が人に元気を与える側になりたいって…思ったんだけどさ…現実見ろって話だよな、お前もそう思うだろ?」


「現実…か…」


「現実…ね…」


「なんだよ…」
「思ってることあるなら言ってくれよ。」


「俺が小学6年生になるタイミングで、俺のいる小学校に小宮果穂が入学してくる。」


「は?」


「1年生は6年生とペアを組んで学校内を案内してもらうことになるんだ。」


「何?急に」


「もうお分かりだと思うが、そこで俺は小宮果穂とペアを組むことになる。」


「もうお分かりだと思うが、じゃなくて。」


「それをきっかけに小宮果穂は俺に懐き、休み時間になるといつも、一緒に遊んでほしいと言ってくるようになる。」

「もちろん俺は小宮果穂と一緒に遊ぶ。」


「あの…」


「抱っこしたりおんぶしたりして」


「抱っこしたりおんぶしたりして、じゃないのよ。マジで。」


「しかし小宮果穂は1年生で、俺は6年生。」
「一緒に遊べる日々はわずか1年で終わってしまう。」

「5歳離れているから、中学でも、高校でも、一緒になることはない。」

「もう、実質的に会う機会はないんだ。」



「そもそも会ったことないよね。」

「1年生の小宮果穂は、好きな人を聞かれると、俺の名前を答える。」
「もちろんまだ恋愛感情なんてわかっていないし、一緒に遊んでくれるから好き、くらいにしか思ってないんだけどね。」


「小宮果穂の気持ちをお前が勝手に決めるな。」


「しかし、小宮果穂は学年が上がっていくにつれて、好きな人の名前を答えるのが恥ずかしいことなのだと気づいていく。」

「好きな人を聞かれても答えなくはなったが、そのとき頭に浮かぶのは、やはり俺の顔だ。」


「やはり、じゃないんだよ。マジで。」


「もちろん、このときも小宮果穂は恋愛感情をわかってはいない。」

「ただ、自分が1年生の頃にたくさん遊んでくれたお兄さん、それなのに気づいたら会うことがなくなってしまっていたお兄さんが頭から離れないだけなんだ。」

「会うことはないけど、忘れられない存在として、記憶に残り続ける。」

「思い出の人。」




「これよ。」



「これよって何!?!?!?!?!?!?!?」



「はやくこれになりたい。」


「なんの脈絡もなくわけわかんないこと話し出すなよ!!!!!」


「脈絡ならあった。」
「進路希望調査の話、してただろ?」


「それがなんだって…」



「まさか!?」


「書いたよ。」

「書いたのか!?」

「書いた。」

「進路希望調査に!?」

「うん。」

「小宮果穂の思い出の人になりたいって!?」

「おう。」

「嘘だろ…」

「大マジ」

「だって!そんなの、進路じゃないじゃん!!」

「退路だね。」

「退路!?」

「退路。」
「現実からの。」

「はぁ…」

「お前、さっき、声優になりたいと思っている自分は、現実が見えてないみたいなこと言ってたよな。」

「ああ…」

「本当に現実が見えてないのはどっちだ?」

「お前だよ!!!!!!!」

「って言いたいところだけど、お前は度が過ぎているだけで、現実が見えてないのは俺も同じだ…」


「まだそんなことを言ってるのか。」

「俺はな、いつだって、叶う可能性が0の夢を見ている。」


「可能性が限りなく0に近くても、0じゃないなら、その可能性を気が済むまで追いかけ続ければいい。」


「いい話風にするなよ!!!!!」

「自分の方が現実が見えてないと言って、俺を勇気づけようとしてくれてるのかもしれないけど、お前は現実が見えてない以前の問題なんだよ!!!!!」

「妄想なんて、言ったもん勝ちなんだよ!!」



「言ったもん勝ちか。俺はそんな生半可な覚悟で言ったつもりはない。」

「俺は、本気で小宮果穂の思い出の人になりたいと思っている。」


「なるためだったら、悪魔にだって魂を売る覚悟はできている。」



「その、覚悟ができている…っていうのも言ったもん勝ちなんだよ。どうやったってなれないから。」



「でもな、夢を叶えた人たちは皆、並大抵ではない覚悟を決めた人たちだ。」

「覚悟ができないようでは、叶う夢も叶わない。」

「お前も、本気でなりたいんだったら、覚悟決めろよ。」


「限りなく低い可能性でも、諦めずに追い続けるって覚悟を。」


「だからいい話風にするなって!!!!!」

「お前の言ってることが正論でも、妄想を垂れ流しただけで、なんの覚悟も決めてないやつに上から目線で言われたくないんだよ!!!!!」


「覚悟ならできている!!!!!」


「なんのだよ!!!!!」

「一生オタクとして生きていく覚悟だ!!!!!」

「話になんねえよ!!!!!」

「小宮果穂は6年生のときに、スカウトされてアイドルになるんだ。」


「おい!!!!!まさか!!!!!また脈絡もなく!」

「小宮果穂は心のどこかで、アイドルになればあのときのお兄さんにも見つけてもらえて、また会えるかもしれない、と思っている。」

「いや、ごめん、思ってたらいいな。」


「おい、さっきまでの勢いはどうしたよ。ちょっと自信なくしちゃってるじゃん。」
「てかそもそもすべてが妄想なんだから今更自信なくす意味がわかんねーよ」

「まあ、小宮果穂が俺に会えるかもしれないと思っていてくれているとしよう。」

「でも、それは逆なんだ。」


「逆って?」


「アイドルになったら、逆に会いにくくなる。」


「まあ、忙しくもなるだろうし、個人的にファンに会うってのもできないしな。」


「それもそうだが、本質的な問題は、そこじゃない。」


「じゃあ何?」

「俺だ。」


「俺自身が問題なんだ。」

「俺は高校2年生。もう進路希望調査を書く時期だ。」

「小宮果穂は、まだ小学生6年生なのに、アイドルとしてたくさんの人に夢と希望を与えている。」

「親友は、声優になるという立派な夢を持っている。」



「それなのに…ッ!!」



「それなのに!俺は…ッ!!」



「現実が見えてない以前の問題だ…!!!」



「小宮果穂に…合わせる顔なんて…」



「あるはずがない…!!!!!」



「自覚あったんだ。」


「小宮果穂の中での俺は…いつだって、”一緒に遊んでくれた優しいお兄さん”であってほしい…!」


「綺麗な思い出として残り続けたい…!」



「でも、今の俺に…あの頃の面影はない…!」



「そもそもあの頃がないんだけどね。」



「誰か…」




誰か!!!!!!!!俺を救ってくれ!!!!!!!!
俺は!!!!!高校生ですらない!!!!!!!!声優になりたい親友なんていない!!!!!!!!!

ノンフィクションなのは「小宮果穂が好き」ってことと「一生オタクとして生きていく」ってことだけ!!!!!!!!誰か!!!!!!!!助けてくれ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!

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