Hot Early Winter

「ねぇ、私っていつまでも幼馴染のままなの?」
その言葉に対して僕は返事を打てずにいる。
なんなら小さい頃から同じ釜の飯を食ったような間柄で、あどけない笑顔を間近で見続けてきた僕にとって彼女はただの幼馴染のはずだった。

ところが最近、ふとした瞬間にドキッとすることが増えた。
春風に揺れるポニーテール、夏の暑さに負けないぐらい爽やかな白い半袖Yシャツ、少し肌寒くなってきた頃に着てきたカーディガン、ただの幼馴染のはずだった彼女のふとした瞬間に心の奥がざわざわする自分がいることに最近気付いてからはこの感情を言葉にすることを躊躇って、少し不躾に、ぶっきらぼうになっている自分がいることにも気付いていた。

そんな時に心を見透かすようにまたざわざわするような言葉を僕に送り付けてきた彼女に対して、僕は言葉を紡ぐことを躊躇っていた。
深夜1時、眠れぬ夜をもやもやと、ただ確実に僕の心の中のざわざわは姿を変えて、指を携帯電話に向かわせる。
まだ次の言葉は来ていない、僕は既読も付けずに、ひとりざわざわと戦っている。
眠ってしまえば明日が来てしまう、明日が来ればこのざわざわは言葉として僕の口から出てくるのだろうか。
そもそも、来てしまうとは、何だ。
良いじゃないか、言葉にしてしまえば。
僕の心の中のもう1人の自分がそう問いかける。
しかしながら言葉にできず時計の針はチクタクと進んでいく。

気付けばカーテンの隙間から朝日が差していた。
流石に眠くなっている僕はぼやぼやとした頭の中である種の決着が付いていた。
味がしない朝ごはんを平らげる、半ば飲み物で流し込み身支度をする。
とうとう家を出てしまった、曲がり角の先にはいつも通りなら彼女が待っている。

決着が付いているはずなのに、手が少し汗ばむ。
喉が渇く、心拍が上がり、血液が猛スピードで体を巡っているはずなのにうまく酸素が行き渡っていない感覚がして、足が地面から浮いてまるで宙に浮いているような、そんな感じ。

待ち合わせ場所にいた彼女は、今日はハーフアップで待っていた。
せっかく少しだけざわざわが落ち着いていたのに、また音を立てて心が震え出す。
口に出してしまえばこの関係性が終わってしまうような、でもこの言葉を口にすればこの関係性がまた変わっていくのでは、どんな方向に転ぶかどうかなんてわからないけれど少しばかり希望があるのに、おはようすら口に出せぬまま目の前まで来てしまった。

「…おはよう」
「…おはよう」
「…」
「…」
「あのさ」

ふと目の前を見ると、自分と同じように目を合わせられないのだろうか、俯きモジモジする彼女が目の前にいた。

とてもとても、愛らしかった。

そう思ったら次の言葉がポロポロと口から溢れていった。
ひとしきり心の中のざわざわを吐き出すと、そうしたくなったのか僕は彼女の手を取った。
びっくりしたのか、それとも別の感情なのか、彼女は瞳を目の前に定められないまま僕を見つめた。

「僕の彼女になってください」

返事はほんの少し、朝ご飯はバターを塗ったトーストだったのだろうか、ほのかにその香りがした。

今日、少し肌寒い、冬というには少し早いこの日に彼女は彼女になった。
握った手のひらから伝わる温度は、陽だまりの中のように柔らかく暖かかった。

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