思い返す冬
空っ風が体に染みる、すっかり見慣れた締められたシャッターが並ぶこの道は僕が小さい時から通った思い出の道だ。
とはいえ、今はその思い出の場所は人気もなく、枯れ葉が風にピューピュー吹かれて行き場を失って片隅に固まっていて、それが妙に物悲しく感じる、それだけの場所になってしまった。
待ち合わせ場所によく使っていたよく分からない何かの銅像も酸性雨にやられてちょうど瞳から涙でも出すように白く変色している。
何年ぶりだろうか、久しぶりに帰ってきた地元はすっかり閑散としていて、その代わりに我が物顔で鎮座しているデパートだけが煌々と光っていて、それがさらに寂しさを助長する。
少し歩くとよく遊んでいた公園があった、ジャングルジムは錆び付いていて、ブランコは油を指していないんだろう、キィキィと耳に付く音を立てながらゆらゆら揺れる。
誰もいないわけではないが、間違いなく僕の脳内にあるそれとは違っていて、間違い探しを作るとゆうに100箇所くらいは答えが見つけられそうなぐらいに変わり果ててしまっていた。
近くの自販機で缶コーヒーを買ってベンチに座る、よくここで長話をしたなぁなんて灰色に曇った空を見上げながら熱くて苦いコーヒーを体に流し込んだ。
喉の奥にへばりつく妙な苦味は、まさに今感傷的になっている僕を表しているようで、暖を取るために買ったのに早々に飲み干した。
少し回想する、初めて手を繋いだ場所も、キスをしたのも、ここだったっけ。
僕の古い思い出は全て僕の小規模な世界で巻き起こっていて、少し大人になって振り返るとそれは波が立てば崩れてしまうような砂の城のように儚くて過ぎ去れば一瞬の出来事だった気がする。
残酷なぐらいに年月は過ぎてしまい、あっという間におっさんなんて言われる年になって、いまだに僕は古い思い出を河原に落ちていた綺麗な小石のように抱きしめ過ぎてここまで来てしまった気がする。
ふと、頬に熱い感触が触って思わず振り返った。
一瞬おさげの君が見えたけど、ふと視線を振るとそれ相応に大人になった君がいて僕はびっくりしてしばらく沈黙した。
ただ、笑うと目が細くなる癖は今も変わらないらしい。
「おかえり」
「ただいま」
たった一言で僕らはあの頃に心だけ戻って、また他愛のない話をした。
缶コーヒーよりもよっぽど苦いが、よっぽど暖かい。
思い出は目に見えるものだけじゃないらしい。
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