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備忘録・歴創同人誌

2023年12月、人生初となる本格的な同人誌を発行した。

「夢のあと」

死ぬほど簡単に言うと、20世紀初めシュールレアリスム運動に参加した詩人ロベール・デスノスの、運動内での一時代を追う話。せっかく本を書いたので、忘れないうちに一部始終を記録してみようと思う。こう描いた!というよりは、こういう経緯で本ができたぜみたいな感じの記事。


何?

何それ?と思っている人!お姉さんが教えたるからこっち来なさい。

・シュールレアリスム
20世紀初めに発生した文学・芸術運動。詩人アンドレ・ブルトンが提唱した。フロイトなどから影響を受け、人間の無意識状態に価値、そして精神の解放を求める(心の底にしまい込んでいる自分本来の感覚って、理性による制限をかけられていなくてよくない?)。

・ロベール・デスノス(1900〜1945)
フランスの詩人。シュールレアリスム運動に参加し、夢における無意識の価値の探究に大きく貢献した。眠る人間から無意識状態の声を直接聞き出す試み「催眠実験」の中心人物だったが、のめり込みすぎて大変なことになる。

・催眠実験
眠る被験者に質問をする、一人語らせる、ものを書かせるなどの方法で、被験者の無意識状態をリアルタイムに探る。被験者の見る夢だけにとどまらず、誰か別の人間を憑依させてそれに語らせるというパターンもあった。
案の定精神衛生上良くない。被験者が自己/他者に危害を加えかねなくなったため、ブルトンが直々に実験の中止を決めた。

発端

全ては私がいきなりデスノスにハートを射止められたことに起因する。

全ての始まり。ろくでもない。

その後彼の著作「自由か愛か!」を勢いで購入。そしてここが運命の分かれ目なのだが、まず解説を読んでしまった。オタク……そういうところである。

え?

   解説にとんでもねぇことが書いてある。

彼の氾濫させる夢は、俄然、血とテロルの色合をおびはじめた。やがてこのファナティックな傾向は行動の形でもあらわれ、あるとき、例によって眠りに入ってから、ナイフを握ってポール・エリュアールに迫り、ブルトンやエルンストが制止する暇もあらばこそ、庭まで追いつめてエリュアールを刺し殺そうとした、などという事件まで起っている。

ロベール・デスノス「自由か愛か!」より解説(著:巖谷國士)

オイオイ。オイオイオイ……。いやいやいや……。

      どうしろってんだよ!!

アウトプットしないと死ぬ体質なので漫画を描くことにした。

そしたらこうなった。


情報元をたずねて三千里

本を出すにあたって漫画を描き進めつつ、情報をかき集める作業も行う。先程引用したデスノスのエピソードを中心に話を組み立てたのだが、よく考えたら二次資料じゃんあれ。あのテキストは詩集に寄せられた解説にすぎず、それにあたっての参考文献が明記されていない。自力で探せってことォ……!?

仕方ねぇなぁ!!!!困ったヤツだぜ。

今回新たに導入した資料は主に
「霊媒の登場」(ブルトン著、1922年のテキスト)
・「ブルトン、シュルレアリスムを語る」(1952年にブルトンが出演したラジオの文字起こし、新潮社より出版)
の二つ。ありがとうメルカリ、ありがとうどっかの人。あとは以下の論文を参考にした。
・泉谷安規「アンドレ・ブルトン『通底器』における夢の記述の一読解の試み(Ⅰ)」
・中田健太郎「アンドレ・ブルトンの自動筆記の誕生一無償の言語と他者の言語の狭間で一」

ちなみに「アンドレ・ブルトン『通底器』における──」には、めちゃくちゃ振り回されることになる。


「霊媒の登場」

このテキストの存在を知ったきっかけは「『通底器』における──」だったように思う。

(前略)
ルネ・クルヴェル、バンジャマン・ペレ、そしてロベール・デスノスが被験者となり、催眠状態、一種の睡眠状態に入った彼らに、そこに居合わせた参加者がいくつか質問 をし、被験者がそれに答える、といった、19世紀末にヨーロッパ全土で流行をきわめた、心霊実験、霊媒体験を模した試みであり、その実験の様子を報告した短いテクスト
(以下略)

泉谷安規「アンドレ・ブルトン『通底器』における
夢の記述の一読解の試み(Ⅰ)」

運のいいことに、たまたま日本語訳が掲載された雑誌を入手することができた。運よすぎる。

キャー!催眠実験の詳細が載っている!!キャッキャ、キャッキャ!!

え……実験の破綻の話はないんだ……。

そりゃ実験の破綻は1923年、このテキストは22年のものなのだから当然ではあるが、当時の私は悲しんだ。何かしらの言及があるものと思っていたのだ。雑誌に掲載されているのは一部かもしれない、ブルトンの集成には全文が載っているのでは!?と図書館に取り寄せて読んだが、私が読んだものが全文に間違いなかった。

どうすんのよ…………

「Le Message automatique」

論文中では「自動現象のメッセージ」として紹介される、ブルトンが1933年に記したテキスト。どうアクセスすんだよと思っていたらフォロワーさんが閲覧できるサイトを教えてくださった。お陰様で生きております。その節はホンマお世話になりました。

催眠実験の詳細には特に触れていない。

ア〜〜?オ…?せっかく教えていただいたのに……私……何……?何してんだ……?

↑それはそうとこちらから閲覧可能。
いや実は「『通底器』における──」の注釈にて、

[前掲書、pp.86-99]。概略を示せばこうである。催眠、睡眠実験がエスカレートしていくと、被験者であるデスノスやクルヴェルが自己あるいは参加者に対して危害を加える恐れがでてきたというものである。

と説明されていた「前掲書」がおそらくこの「Le Message automatique」なのだ。私の読解力の悪さが全ての元凶だったら、マジですいません。えホントか?今更何もわからなくなってきた。


「ブルトン、シュルレアリスムを語る」

そんな翼の折れた私に、またもや先程のフォロワーさんからの情報提供が飛び込んでくる(さすがに貢ぎたい)。

「これぽくないですか!?」

(中略)
VI。──実験活動。《第二状態》の体系的調査。──ロベール・デスノスの能力。
VII。──催眠の障害・《危険な風景》。
(以下略)

「ブルトン、シュルレアリスムを語る」目次ページ

え!?これじゃん。

買った。

また別な折、パリ郊外のエリュアールの家で夕食を囲んだのち、眠りに陥ったデスノスがナイフを振りかざしながら庭でエリュアールの後を追いかけたので、私たちは数人がかりで彼を取り押さえなければならなかったのです。

「ブルトン、シュルレアリスムを語る」p.98

載ってた。

やっぱ信じるべきはブルトンとフォロワーですよ。とても良い気分だ……。こうして参考文献問題は解決を迎える。ありがとう!迎えてくれて。


執筆

そんなことがありながら、ちゃんと本編も描いていた。作業の流れをざ〜っくり書いてみようと思う。なんかかっこいいからね。

使用アプリ
・マンガネーム
(ネーム)
・ibisPaint X
(下書き・ペン入れ・仕上げ・諸々)
・pages
(データ制作)

全体を通してiPadで作業を行った。まずマンガネームでネームを切る。ざっくりでええねんざっくりで。このアプリ、特別使い勝手が良いわけではないが全く気張らずに描ける。

面倒ですね 部屋ね

できたネームをibisPaintで取り込み、透明度を下げて〜〜めんどくせぇのでそのままペン入れをします。下書きなんてしてたら日が暮れます。整うまで頑張ったらええねん。

ちゃんとこうなります

グレースケールで色々調節したら完成。簡単ですね簡単。いけるいける。ウソです描きたくないコマいっぱいあった。

pagesはよくわからん。印刷所がPDF入稿の形をとっていたので、これでデータを作成した。なんかわからんけど最初からiPadにいた。わりと使い勝手いいよ。

だいたい9月末くらいからネームを切り始め、10月の頭で本編を一気に進める。私事だがその時期にいい感じに休みがあり、とにかく時間をつぎ込んだ。ラッキー!!そして10月の半ばに本編が完成、11月頭に本の中身が大体できた。しかしなんか調子に乗ってその後ページを増やし、11月末入稿、12月頭に販売開始となった。楽しかった…。

最初に切ったネームは全24pだったのだが、本にすると決めたばかりにページがどんどん増えていく。最終的にプロローグ4p本編24p、全部嘘のマンガを8p、エピローグ6pにあと諸々合わせて全52pという布陣になった。正直かなり狂っている気がするが、今後どうなるかわからんしね。かわいい頃もあったもんだと思う可能性もある。


入稿他

できてもうた、マジ?すでに寂しい。自分の生活のメインクエストとなっていた原稿作業がなんと、終わってしまう……。寂しすぎたのでおまけのポストカードを描いたりしてしのいだ。
せっかくなので製本とかの詳細を書いておこう。今回お世話になった印刷所はちょ古っ都製本工房さん。異常に安い。

10営業日コースを使ったのだが、私がそんなコースを使えるのは最初で最後な気がする。絶対そうじゃん。表紙はサテン金藤、本文は上質70kg(これかなり薄かった!ちょっと奮発した方がよかったかも)。あとはこれといって特殊なことはしていない。何がなんでもマットな表紙にしたかったのでサテン金藤を使ったが、あまり高級感はない…でも手触りはなかなか。

いや〜〜ホントにね、実物を見た感想が嬉しい!!!!の次に薄い!!だったのでアタシ悔しいよ。本文の紙にはこだわった方がいいよみんな。

でも最高じゃね!?!?自分の漫画が本になってるんですけど!?!?!?実体がある……。感慨深っ。やめられねぇなこれ。絶対やめられねぇやつだよ。あと見た目は薄いけど、読んでる時はかなりボリュームを感じられるのでなんとか助かった。


私感

催眠実験とかいうなかなか癖の強い動向を扱っているので、できる限り飲み込みやすく描いたつもりではある。解説もバリバリ書いたし……。
しっかし本編の始まり方とかページ数の都合で、プロローグがかなり駆け足になってしまった。私はもっと…実験の発端の話とか描きたい……!!!!あと被験者の1人であるルネ・クルヴェルを扱えなかったのがマジ・心残りである。
それと超うれしいのが、いろいろな方に読んでいただけたことだ。同じく美術史好きの方をはじめ、いろんなあたりの歴史創作の方、創作の方、いろんな方なんなら友人にも読んでもらえた。うれしい〜〜〜〜っホントにありがとな。ホントに。好きです。


今後

マンガ、描けるじゃんと思った。描いてやります。
いやそんなこと置いといて2024年はシュールレアリスム宣言100周年の激アツyearなのである。今年は去年に負けず劣らず調子に乗っていきたい。調子乗りに磨きをかける。また本出したい絶対出すマジで。分厚いやつ。最近特殊印刷のこととかかっこいい装丁のことが頭を離れない。


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まだ在庫あるのでよかったら見てみてね。
それでは良い夢を!

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