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イタリア

結婚20周年記念の旅行として夫と楽しみにしていたイタリア旅行。
2020年の7月にミラノ、フィレンツェ、ナポリの各都市を巡る予定だった。
航空券は早めに購入し、宿泊するホテルも念入りに調べてきれいで景色の良い、朝食がおいしい評判の良いホテルを予約した。
初めてのヨーロッパ、初めてのイタリア。
予約をした瞬間から楽しみで毎日心が踊っていた。
しかしその旅行は実現することはなかった。
そう、パンデミックのあのタイミングに完全に当たってしまったのだから。

旅行の予約後すぐにイタリア語の勉強を始めた。
NHKのラジオ講座や数冊の市販のテキストで文法と単語を懸命に覚えた。
更年期障害のブレインフォグと不眠症で暗記は他の人の少なくても10倍は多くやらないと覚えられないと悟った。
初級の勉強が終わったところで、初めてイタリア語教室に入会した。対面のイタリア語会話では、びっくりするくらい話せなかった。あれほど勉強したのに、どうして言葉がすっと出て来ないんだろうと、かなり落ち込んだ。
ただその時はおそらく今までの人生のうち1番コントロール不能な脳の状態だったと思う。つねに異常に緊張していた。手が震えて、頭の中が真っ白になってしまう。
おまけにホットフラッシュで、数分置きに燃えるような熱さに襲われる。
私は最悪の身体状態の時、新しい語学を始めた愚か者なのである。
イタリア語の個人レッスン費用は結構よい金額だ。経済的に月に2回通うのが限界だった。

旅行中止から2年後、私はイタリアに少なくても半年は留学することを決めた。
理由は別の機会に「いつもマイノリティ」に書きたいと思う。
義母が2021年に他界し、腰椎圧迫骨折で入退院を繰り返していた実母が概ね回復。義父は私たちの結婚2年後に他界していて、89歳になる実父はすこぶる健康だった。
行くなら今しかないと直感した。

留学先はトスカーナ州のピザ。
日本のイタリア語教室の先生の出身地だ。
州の位置や治安の良さで決めた。
そして6ヶ月の留学を2回に分けることにした。
理由は
①ヨーロッパの情勢がロシアによるウクライナ侵攻でとても安心できる状態ではないこと
②まだまだコロナが流行していること
③海外旅行保険が3ヶ月の場合、クレジットカードの自動付帯で充分事足りること
④留学ビザをとるのが意外と面倒なこと
⑤やはり年老いた両親が心配なこと
⑥夫とも、さすがに半年離れたままではかなり彼を疲弊させてしまうという懸念。かわいい魚たちの世話も相当大変だということ

1回目に出発したのは2022年の11月2日。
帰国したのは今年の1月31日。
自分自身の考えでコロナワクチンは2回でやめていたので、この時は帰国の際に陰性証明が必要な時期だった。

イタリアの生活に少しだけ慣れてきた11月の中旬に私はコロナに見事に感染してしまった。
不安で気が狂いそうになったが、ちょうどその1ヶ月前にやはりコロナに感染したアメリカに住む姉がいろいろアドバイスをしてくれたり、励ましてくれていたのでとても心強かった。
コロナは順調に回復したが、なかなか陰性にならなかったため、語学学校には2週間通うことができなかった。

語学学校のグループレッスンではさまざまな国から来た、さまざまな年齢の人たちと友だちになれた。
イスラエル、パレスチナ、ロシア、ウクライナ、イギリス、オランダ、スイス、オーストラリア、カナダ。
私がとにかくドンくさいので、隣の席のイスラエルとパレスチナの男の子たちがしょっ中助けてくれた。
私はコロナ回復後の1ヶ月半後にインフルエンザにも感染してしまったのだが、その時に宿題のプリントのスクリーンショットを休み時間にいつも送ってくれたのはロシア人の女の子。
スイス人の男の子は私に電車のチケットの買い方や乗り方を教えてくれた。
彼らは今でも大切な友だちだ。

イスラエルの男の子は獣医になるために、パレスチナの男の子は放射線技師になるために、それぞれイタリアの大学入学を目指していた。
彼らもロシア人の女の子も今イタリアにはいない。
絶望、失望、怒り、悲しみ、、、どんなネガティブな言葉でも説明できない感情をもった。
なぜ世界が平和になることがこんなにも難しいのか。
なぜこんなにも簡単に逆行してしまうのか。

1回目の滞在を終え、約8か月ぶりにイタリアに戻って来た私。
今回もまた新たな出会いがあった。
ポーランド、アメリカ、メキシコ、スウェーデン、コロンビア、トルコ。
素晴らしい人たちであふれていた。
でもなぜか前回出会った子たちとのような関係を作りたいとは思えなかった。

叶うものならもう一度、あの時の、あのメンバーで、少しマシになったイタリア語で冗談を言いあって爆笑したい。

イタリアの晴れの日は本当にポジティブな素晴らしい気分になるが、天気の悪い日は世界のネガティブが一気に押し寄せるような、とても苦しい日に変わる。

それでも、それでも、前に進む。
それでも、それでも、笑って行く。

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