クリミアの天使と統計学ナイチンゲール

クリミアの天使
ナイチンゲール
おおくの人が知っていると思います。
 
でも、
彼女がなしとげた偉業ってなんでしょう？

少女時代
1820年5月、フローレンス・ナイチンゲールはイギリス貴族の娘として生まれました。
12才から教育熱心なお父さんに、
フランス語・ドイツ語・イタリア語・ギリシア語・歴史・哲学などを教わります。
哲学は、人生や物事についての根本的な問題を研究する学問です。
たとえば「神様は私に何か期待しているのだろうか？」というような問題です。
また、ナイチンゲールは近所に病気の人がいると聞くと、
お見舞いを持ってかけつける世話好きな性格でもありました。

数学と統計学
1840年20才、ナイチンゲールは「数学も勉強したい」とお父さんに言いました。
しかし、「女の子に数学など必要ない！」と反対されてしまいます。
ナイチンゲールは家族が寝ている夜中にこっそり数学と統計学を勉強しました。
統計学は社会で起こっていることを数学で理解しようという新しい学問です。
たとえば、おおくの人の身長・体重を調べると、
その身長に対する標準的な体重の目安が得られます。
今でも使われるBMI＝体重（㎏）÷身長（ｍ）÷身長（ｍ）の式は、
ナイチンゲールが勉強した統計学の本の作者ケトレーが考えました。

大好きな乳母
1844年24才の時、大好きな乳母が病気になりました。
ナイチンゲールは必死に看病しましたが、乳母は亡くなってしまいます。
そこで、近くの病院できちんとした看護の方法を学ぼうとしますが、
お父さんお母さんに「娘が看護師になるなんて家の恥だ！」
と反対されてしまいました。
当時は、女の人が働くことは恥ずかしいこととされ、
また、ちゃんと訓練を受けた看護師が少なかったこともあり、
看護師という職業自体もいやしいものとされていたのです。

看護の道へ
1851年31才の時、
ナイチンゲールは友人たちの協力をえて、
ドイツのカイゼルスベルトの病院で３か月の実習を受けました。
フランスのパリの病院も見学し、
あちこちの病院に質問状を送り、
医学の知識をたくわえました。
1853年8月33才の時には、
親友のハーバート夫妻の病院の責任者を任されました。

クリミア戦争
1853年、冬に凍らない港がほしいロシア帝国は、
トルコ領だった黒海のクリミア半島に攻め込みました。
ロシア帝国の南下を止めたいイギリス・フランスもクリミア半島に軍を送(おく)り、
戦争が始まりました。
おおぜいのケガをしたイギリス兵が、
クリミアに近いスクタリの野戦病院に送られました。
野戦病院はケガをした兵士を入院させるところですが、
ここで問題がおこります。
病院にはベッドの用意もなかったのです。
このことは大ニュースとして新聞にのりました。

スクタリの野戦病院
1854年10月、イギリスの戦時大臣だった親友のハーバートは、
ナイチンゲールに「看護師をつれてスクタリの野戦病院に行ってほしい」
と頼みました。
ナイチンゲールも「この仕事こそ、神が私に与えた仕事だ！」と確信しました。
11月に到着した病院はまさに地獄でした。
ひどい下痢をおこす赤痢がはやっているのに、
おまるもタオルも石けんもありません。
ナイチンゲールは新聞社が集めた寄付金を使い、
イスタンブールの市場で必要なものを買いあさりました。
 
病院には2000人以上の患者さんがすき間なく寝かされ、
看護師(かんごし)たちの必死の看護にもかかわらず、
１日に70人もの人が亡くなりました。

衛生委員団
1855年３月、スクタリのナイチンゲールの病院に、
イギリス政府から衛生委員団がやってきました。
衛生委員団は換気口をつくり、トイレをそうじ、消毒し、水道をきれいにし、
汚れた水を下水に流す設備を作りました。
ほかにも野戦病院ができたので、
クリミアの戦場から運びこまれる患者さんの数がへってきて、
ベッドとベッドの間をあけられるようになったころでもありました。
ナイチンゲールたちも患者さんの体を洗い、
床そうじ・害虫駆除などをがんばっていましたが、
水まわりや換気まで手が回らなかったのです。
この後、病院の死亡率は急に下(さ)がります。

 鶏のとさか
1856年３月に戦争が終わった後、
ナイチンゲールと統計学者のウィリアム・ファー博士は
野戦病院で亡くなった患者さんについて調べました。
赤がケガで亡くなった人、青は赤痢やコレラなどの感染症で亡くなった人です。
感染症で亡くなった人の方が何倍も多いことが分かります。
さらに、衛生委員団が水道や換気を改善し、患者さんの数が1000人くらいにへり、
ベッドとベッドの間をあけられるようになった後、
死亡率が40％から２％まで下がっていたことが分かりました。
ナイチンゲールは決意します。
「私の病院で死んだ5000人の兵士たち。
　私の子どもたちの死を無駄死ににしてなるものか！」

上下水道と換気ができる家
当時、水道や換気ができる窓がある家に住めるのはお金持ちだけでした。
ナイチンゲールは、
「そんなのおかしい。
イギリス国民全員が上下水道と
換気できる窓がある家に住めるようにしなくてはいけません。」
と女王や政治家たちに手紙を書き送りました。その数、1万通にのぼります。

きれいな水と風
1875年、法律が変えられ、
上下水道と風が通る環境が全国にいきわたりました。
この頃は子どもの半分が５才になる前に感染症で亡くなっていたので、
イギリスの平均寿命はとても短く40才でした。
水道の整備が終わったころから感染症になる子どもがへり、
平均寿命は1930年代半ばにはなんと59才までのびたのです。
 

看護学
1860年、セント・トーマス病院にナイチンゲール看護学校が設立されました。
看護の訓練をし、病院を管理するリーダーを育てる学校です。
ここで学んだ看護師たちは世界中で活躍しています。
 
※学校によっては、
　看護学科の学生は患者さんのお世話の実習の前に
　看護師の卵としてふさわしいと認められた証として
ナースキャップをかぶせてもらう戴帽式を行います。
ナイチンゲールの像からもらうロウソクの灯りには、
あたたかいナイチンゲールの思いやりの心を
忘れないようにとの意味があります。

その後
1863年、アンリ・デュナンの国際赤十字がケガをした兵士の救助を始めました。
彼は
「赤十字を作ることができたのはナイチンゲールという見本があったから」
と話しています。

 現在
おおくの国に水道が普及し、安全な水が飲めるようになっています。
今日では、看護師は尊敬される職業の一つになりました。
今、看護師になるには大学か専門学校で勉強、訓練を受け、
国家試験に合格する必要があります。
また、赤十字の戦争や災害でケガをした人を助ける活動は、
いまや192カ国に広がっています。

 おぼえよう　命を守る　手洗(てあら)い
きれいな水で、病気にならないために何をしますか？
まずは、手についたばい菌をぜんぶ流す手洗いの方法をおぼえましょう。
かめさんと　おやまにいったら
　おおかみさんを　ぶんぶんバイクで　つかまえた♪
水でぬらして　せっけんつけて　おててをあわせて　かめさんとかめさんと♪（手の甲を洗う）
おやまにいったら（指の間を洗う）　 おおかみさんを　おおかみさんを（爪を洗う）

ぶんぶんバイクで（親指を洗う）　　　　 つかまえた（手首を洗う）　　 　　 お水でながして
ぶんぶんバイクで♪　（親指を洗う）　　　 つかまえた（手首を　　 　　　　 　 ピカピカだ♪

 
参考文献
著者　デミ　訳者　さくまゆみこ（2016）フローレンス・ナイチンゲール　光村教育図書
著者　斉藤洋　絵　植垣歩子（2012）はじめての伝記えほんナイチンゲール　講談社
監修　渡辺美智子（2017）親子で学ぶ！統計学はじめて図鑑　日本図書センター
著者　早野美智代（2009）子どもの伝記11ナイチンゲール　ポプラ社
編纂　プロジェクト新・偉人伝（2009）
この人を見よ！歴史をつくった人びと伝18ナイチンゲール　ポプラ社
監修　長谷川敏彦　漫画　真斗（1996）学習まんが人物館ナイチンゲール　小学館
著者　川嶋みどり（2019）
親愛なるナイチンゲール様　あなたが弱き者とともにあったように　合同出版
編集　窪木淳子（2013）
科学感動物語　先駆者　信じる道をつき進んだ科学者　学研教育出版
著者　ヒュー・スモール　訳者　田中京子（2003）
ナイチンゲール神話と真実　新版　みすず書房
  
奥付
ナイチンゲール　クリミアの天使と統計学
2020年 ２月 ９日初版発行
2021年10月22日改訂版発行
文・絵　島本真帆子
発行所　茨城県立医療大学地域貢献研究アイラボキッズ
連絡先　m.shimamoto@outlook.jp

 
 犠牲なき献身こそ
真の奉仕
ながく大好きな人の役に立ちたいなら、
自分が犠牲になってはいけません。
Fromフローレンス・ナイチンゲール