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「食料・農業・農村基本法」改悪「食料自給率」を捨てた農水省の愚◉高野孟(紙の爆弾2024年7月号掲載)

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『高野孟のTHE JOURNAL』

#食料自給率 #農政の憲法 #食料・農業・農村基本法 #農政の失敗の歴史 #安全保障 #県単位の食料自給率 #自給自足


「食料・農業・農村基本法」を25年ぶりに改正する法案が、4月19日に衆議院で自公両党と維新の賛成で通過、5月29日に成立した。
「農政の憲法」と呼ばれる同法の改正は、我々の暮らしの基盤である農と食についていかなる未来像を描き上げ、その実現に取り組んでいくのか。農家ばかりでなく全国民的な大議論のテーマであるはずだが、その割に国民はほとんど無関心で、マスコミも中身に踏み込んだ報道をほとんどしていない。
 このままでは多くの人々が知らない間に農水官僚が机上の空論で描いたシナリオ通りに同法の骨抜き化がまかり通ることになろう。

格下げになった「食料自給率」目標

 この改正案の何よりの問題点は、1999年制定の現行基本法で前面に掲げていた「食料自給率の向上」の看板をこっそりと降ろそうとしていることにある。
 いや、取り下げたいなら取り下げればいいのだが、その目標を掲げて25年間取り組んできて、現行法制定当時40%だった自給率が現在38%の微減という無惨な結果に終わったのはなぜかの総括をキチンとしないのは、卑怯というものだろう。
 その目標を掲げたこと自体が間違いだったのか。そうではなく、そのための施策が適切でなかったのか。それとも何やら制定当時には想定されなかった事象が生じて阻害されたのか。そこをはっきりさせなければ、この国は2度と「自給率」について真面目に語り合うことができなくなってしまう。
 しかし、農水に限らず官僚にとっては無謬性神話の維持ほど大事なことはない。ひとたび誤りを認めてしまえば誰かが責任をとらなければならず、それは官僚人生の破滅を意味する。だから、ありとあらゆる屁理屈を捏こねて、うやむやの内に方向転換をしてしまおうと悪戦苦闘しなければならない。
 とはいえ、さすがに「食料自給率の向上」の言葉をいきなり消し去ることは出来ないので、結局、改正案では「食料安全保障の確保」を前面に出し、その中に「食料自給率の向上」も含まれるという形で誤魔化そうとした。
 それに対しては、当然にも、自民党の農林族から反発の声が上がった。そのため「自給率その他の食料安全保障の確保の目標を設定する」というように文言としては蘇らせて族議員を納得させはしたものの、食料自給率に「あんまり触れないようにしよう」という本音は変わらないだろう。
 なぜ触れたくないのかといえば、そこを見れば農政の失敗の歴史が否応なく浮き彫りになるからである。

食料自給を諦めた?農政の失敗の根源

 1961年制定の旧農業基本法は、池田勇人内閣の「所得倍増計画」が都市サラリーマンだけを豊かにするもので、農業者はじめ第一次産業従事者は置いてきぼりにされているという批判が強まり、「いやいや、そんなことはありませんよ」という弁解のために急遽立ち上げられたものである。
 それが弁解的というよりも詭弁的だったのは、実は「農業近代化」の本当の狙いは、経営の大規模化・機械化・化学肥料化・効率化によって農村をまとめ上げ、そこで余った小農的な貧農層を都会の第2次・第3次産業へと総動員するところにあったというのに、その「農業近代化」があたかも農業と農村にとって「良いこと」であるかに言い繕って人々を騙したことにある。
 こんなアクロバット的な政策がうまくいくわけがなく、1960年に1766万人だった農業従事者は1975年に1373万人、1990年に849万人、2005年に196万人、そしてついに2020年には60年前のほぼ10分の1の160万人にまで激減した。

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