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雨の中の宇宙飛行士

小学1年生の頃、他所の家の屋根に登ったり、マンションの立ち入り禁止の場所へ入り込んだりする事が楽しくて仕方がなかった。
今のお淑やかな私からは想像できない程、かつてはスリルが大好きなわんぱく少女だった。
前世は猿でした?というぐらい、どんな梯子も、どんなフェンスもするする登り、壁をよじ登り、高い場所など臆ともせず走り回った。
めちゃくちゃ犯罪である。小学2年生の頃には足を洗ったのでご安心いただきたい。

しかし、三つ子の魂百までとはよく言ったもので、今でもまだ見ぬ屋上や階段の先に淡い憧れを抱いている。断じて不法侵入などはしないが、妄想だけは自由である。

あの先にはどんな景色が待ち構えているのだろう?
いつだって、此処ではない何処かを夢見て、何かを探している。
そして其処は何故だか懐かしい匂いのする場所なのだ。

森絵都の「宇宙のみなしご」を中学生の時読んだ。
主人公たちも、何かを探して屋根に登っていた。
あまりにも自分と似ていたので驚いた記憶がある。


桜が散って桃色の絨毯ができてた

2024.4/9

本日は、風と雨が元気よく桜を散らしている。
昨日ぐらいがちょうど桜は満開で、春爛漫って感じだったから、とても散らし甲斐があるだろうな、なんて風と雨の立場で考える今日この頃である。要は暇なのです。

図書館へ行き、また森見登美彦の本でも借りたいと思っているのだが、私の気持ちなど梅雨知らず、雨風は精一杯に空を荒らしているので、ぼんやりと窓の外を眺めていた。こうして雨が降ると、たまに思い出すことがある。

それは、雨の中の宇宙飛行士についてだ。

話は私が中学生だった頃。
剣道部だった私は、部活終わりに自転車小屋の下で途方に暮れていた。
その日は雨が激しく降っていたのだ。
傘を忘れた私は、ずぶ濡れ覚悟で正面玄関から勢いよく飛び出したものの、あまりの雨の激しさに怖気づいて、玄関近くの自転車小屋の下へと逃げ込んだ。

仲の良い友人が運良く通りかかることもなく、当時は携帯電話を持っていなかったので、親に連絡して迎えに来てもらうこともできず、どうしたものかと考えていた。

そうしていると、激しい雨の向こうから、白いシルエットの何かがこちらに向かって歩いて来るのがぼんやりと見えた。
その白い何かは、私が怖気付いたこの雨の中、堂々と歩いているではないか。
段々と近づいてくるその者を見て私は思った。
「え?宇宙飛行士??」と。

「あれ?はまつさん?」
宇宙飛行士から話しかけられて驚く。
よくよくその宇宙飛行士を見ると、なんと同じ剣道部のマエダ君であった。
マエダ君は、当時とても華奢な体型をしていた。骨太でがっしり体型の私からすると羨ましい程、身体の線が細く、しかも顔も小さい。羨ましい。
そんな彼が、白くて大きなカッパを着て、その上から大きなヘルメット(彼は自転車通学だった)を被っていたので、遠くから見ると本当に宇宙飛行士のようだった。

なんだか気が緩んで私は思わず笑ってしまった。
マエダ君は不思議そうな顔をする。
「なに?」
「ううん、なんでもない。てか、雨やばいね」
「やばいねー。傘ないの?」
「うん、ないけど、この雨の中走って帰ろうと思ってた」
「うわぁ、気をつけてね、、傘あったら貸してたんだけど、」
「ううん、大丈夫。雨の中走るの楽しそうだし」
「そっか」

宇宙飛行士マエダは、自転車に跨った。
ロケット発射準備完了である。
「じゃあ、お疲れ」
それはそれはとても真剣な眼差しで、彼は宇宙へと飛び立った。
一体君は何処の惑星へと向かっておるのかね?と聞きたくなるぐらい真剣な鋭い眼差しで、自転車を漕いで行ったマエダ氏。

私はその宇宙飛行士の背中を見て、とても楽しくなった。怖気付いていた気持ちは、彼が宇宙へと飛ばしてくれたらしい。

よっしゃ!と気合いを入れた私は、自転車小屋から飛び出し、激しい雨の中走りだした。


、、、そんなことを何故だかずっと覚えている。
雨の日の思い出だ。


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