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愛しき君へ捧げる珍劇場・開演

これは、穏やかで春爛漫な4月11日の出来事でございます。


私は目を覚まして「うわ!しまった!」と思った。
30分程昼寝をしようと思っていたのに、目が覚めたら4時間も寝ていた。
呪いのかかった紡ぎ車の針に指を刺された記憶はない。いつの間に私は眠れる森の美女になったのか。流石に寝過ぎである。
思わず現実逃避しそうになるのを食い止めて、慌てて起き上がった。

本日は、愛するマイダーリンの誕生日なのだ。
彼が仕事から帰ってくるまでに、準備しておかなくてはいけないことが山程あるのに、大幅な時間ロスを生み出してしまった。

「ようやく起きたか!この寝坊助め!早く準備に取り掛れ!ついでに我々と遊べ!」
とにゃんにゃん申し立てしてくる3匹の猫たちを左手で宥めつつ、右手で筆を持ちサラサラと彼への愛を書き綴る。

『名探偵夫へ!愛しの妻からのプレゼントは、我々スリーキャッツが頂いた!
返して欲しければ、プレゼントの隠し場所を見つけてみせよ!!    怪盗スリーキャッツ🐾』

ラブレターならぬ謎の犯行声明をスラスラと書きあげる私。
部屋を走り回る3匹の猫たち。
舞台は埼玉県にあるごく平凡なアパートの一室。

夫が仕事から帰ってくる21時30分に、我々の珍劇場が幕を開けるのである。


劇場支配人のトト・ミシェール・ツマハです。
皆さま準備はよろしいかな?

2024.4/12

ガチャリ、と玄関の扉が開いた。21時30分。
夫が仕事から帰ってきた。「ただいま〜」

「あら〜、いらっしゃい。お待ちしておりましたわ」
フォーマルな緑色のワンピースを着て、義理の母から頂いた真珠のネックレスとイヤリングを身に付けた私が、居間から出て夫を出迎える。
居間へ続く扉には、和紙でできた看板に「スナックはるちゃん」の文字。
靴を脱ぎかけて、目をパチリと瞬かせる夫。
「あ、あれ?すいません、部屋を間違えました?」
「いやだわ、そんなご冗談を〜。ここであってますよ、夫さん」
「あ、あぁ、、そうでしたかね。スナックはるちゃんですか?いつの間にできたんだろう、、」
「私がスナックのママ、はるちゃんです〜。ささっ、中へどうぞ!夕食のご用意できてますよ〜」
強引にスナックへと連れ込む私に途惑いながらも従う夫。

臨時スナックとなった居間へ入り、辺りをキョロキョロする夫は、こちらを興味深く見つめてくる3匹の猫を見つける。
「あの、こちらの猫ちゃんたちは?」
「うちの女の子たちです。私が忙しい時にはヘルプで接客してくれます」
「へ、へぇ〜。猫カフェみたいですね」
「いえ、スナックです」
ただいま〜おチビさん、といつも通りの挨拶で猫の頭を撫でようとする夫の手に、ココはカプッと噛みつき、プイっとそっぽを向く。
「あの、この子、全然相手にしてくれないんですけど、」
「ココちゃんはツンデレが売りなんです」

本日の夕飯は腕によりをかけて作った。
唐揚げ、梅きゅうり、生姜ご飯、春菊の豚肉巻き、鯖とアボカドとたくあんを混ぜて海苔に巻いて食べるつまみ。
自分で言うのもなんだが、どれも絶品である。
夫の隣りに座った私は、夫のグラスにビールを注ぐ。
「私も一緒に頂いてもよろしいですか?」
「えぇ!もちろん!こんな綺麗なママさんと一緒にご飯を食べられるなんて幸せだなぁ」
「へへっ、ありがとうございます〜」
普通に照れて素で笑ってしまった。

鯖を狙いだした猫たちを宥めて、夫は楽しそうに飲んで食べてくれる。私はとても嬉しい。
「料理どれもおいしいですね」
「それは良かったです。今日は夫さんの誕生日だから腕によりをかけて作りました。誕生日おめでとうございます!」
「ありがとうございます!」
「あの、それでですね、私、夫さんに誕生日プレゼントを用意したのですけど、、」

さぁ、舞台の盛り上がりはこれからである。

私はおもむろにスマホを取り出し、音楽を流す。
🎵タラタ〜ラ〜、タラタ〜ラ〜、タタ、🎵
流れ出したのは、身体は子ども頭脳は大人っ!で有名な某名探偵のテーマソングである。
「え?え?なに??」
私はポケットから1枚のメモ取り出した。
「夫さんに渡そうと思っていたプレゼントがなくなっていて!代わりにこのメモが置いてあったんです!!」
夫はそのメモを読んで笑い出した。

『名探偵夫へ!愛しの妻からのプレゼントは、我々スリーキャッツが頂いた!
返して欲しければ、プレゼントの隠し場所を見つけてみせよ!!    怪盗スリーキャッツ🐾』

「はるちゃん、俺の誕生日を祝う為に、色々考えてくれたんだねぇ〜ありがとう」
そう言ったメタ発言はここでは無視である。
「やだ怖いわ!怪盗スリーキャッツって一体何者かしら?」
夫はチラリと、私たちの後ろで各々寛いでいる3匹の猫たちへ視線を向ける。
「、、、何者なんだろうねぇ」
「ねぇ、名探偵夫さん!怪盗スリーキャッツからプレゼントを取り戻してください!お願い!」
🎵タラタ〜ラ〜、タラタ〜ラ〜、タタ、🎵

これは流れに身を任せるしかないぞ、と悟った夫は立ち上がった。
「よし!プレゼントを探すぞ!」
「おぉ〜!」 


スナックはるちゃんに所属
ツンデレが売りのココちゃんです


怪盗スリーキャッツからのメモには、プレゼントを隠した場所のヒントが書いてあった。

『ヒント①
  君の奥さんは絵を描くことが好きだよね!
  我々はあのぴょんぴょん跳ねる絵がお気に入り!』

「あ!はるちゃんが描いたうさぎの絵のことか!あそこに飾ってあるね!」
居間に飾られたうさぎの絵を調べた夫は「あ!またメモがある!」と絵の後ろから1枚のメモを取り出した。
メモにはまた次の場所のヒントが書いてある。

「なるほどね〜、どんどん場所を当てていくパターンね」

夫は笑いながら次のメモを読む。

『ヒント②
君の奥さんが前に言ってたぞ!
「あの青と白のシャツを着た夫くんは、いつもよりかっこよく見えるんだよね」だってさ!
隠しポケットがあるって知ってたかい?』

「青と白のシャツってあれかな〜?」
居間を出てクローゼットへと向かう夫を追いかけて行く私。ちなみに私の右手には夫のスマホが握られ、それで夫のことを撮影している。もちろん左手には自分のスマホを持ち、某名探偵のテーマソングをずっと流しているのである。我ながら名監督さな柄の動きである。
「おっ!わかったのか名探偵!」「くそぉ、怪盗スリーキャッツめ!許すまじ!」という茶々入れも、もちろん忘れない。

クローゼットを漁る夫は、正解の青と白のシャツを見つけたが、隠しポケットの存在を知らなかったようだ。
私はアイロンがけしている時にたまたまその存在を知った。
「え!こんな所にポケット付いてたんだ!知らなかった〜。はるちゃんは、よくこんなポケットあるってわかったね!」
夫は隠しポケットから、小さく折り畳まれた新たなメモを取り出す。
「洗濯してくれた時に気づいたの?いつも洗濯してくれてありがとうねぇ〜」
なんだか日頃の家事を褒めて貰う為にここへ入れたかのようになっているが偶然である。しかし嬉しい。

『ヒント③
さぁ、次の場所が分かったら、1つ目のプレゼントが置いてあるよ!なんとプレゼントは2つある!
先程、うさぎの絵が出てきたが、実はこの家にはもう1匹うさぎがいるんだ!
どこにいるのかわかるかな?』

「お!これはすぐわかるぞ!よ〜し!こっちだな!」
夫も段々とノリノリになってきた。
人差し指をピンと立てて頭の横に持っていき、彼はカメラに向かって決めポーズをきめた。
🎵タラタ〜ラ、タラタ〜ラ〜、タタ🎵
BGMも空気を読んで盛り上がりをみせる。

夫が向かったのは玄関横の部屋だった。
そこには、2年前に私が酔っ払ってつい買ってしまった大きなうさぎのぬいぐるみがおいてあるのである。
「1つ目のプレゼント見つけた!」
ぬいぐるみの後ろに小さな箱が置いてあった。

私から夫への誕生日プレゼントだ。
「開けていい?」
「もちろん!」
箱の中から出てきたのは、布でできたクジラのキーホルダー。
「クジラ?」
「うん、クジラだよ。可愛いでしょ」
「へぇ〜ありがとう!なんでクジラなの?」
「だって、夫くん、生まれ変わったらクジラになりたいって言ってたから」
以前に何故クジラになりたいのか理由を尋ねたら、「海の王様だから」と答えられたのだ。海でてっぺん狙うぜ!ということなのかどうなのか。
なので取り敢えず、夫くんが来世でクジラになれますように!と願いを込めてクジラのキーホルダーにしたのだ。まぁ、見つけたのは偶然だけど。
ちなみに、ちゃっかり私もお揃いのキーホルダーを買った。私もクジラが好きだからである。それに、お揃いの物が欲しかったのだ。

暫くクジラのキーホルダーを見つめてほのぼのする2人だが、まだBGMは止まらない!
2つ目のプレゼントも怪盗スリーキャッツに隠されているのである。
うさぎのぬいぐるみの後ろには、もう一枚、メモが落ちていた。隠し場所のヒントが書いてある。

「くそぅ!怪盗スリーキャッツめ!2つ目のプレゼントも隠したなんて!この調子で2つ目も見つけ出してください!名探偵!」

ということで、まだまだ珍劇場は終わらない!
次回に続く!!

助演女優賞を受賞したララちゃん
隠れ名演技過ぎてもはや何処にいるのかわからないことで有名



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