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   #創作大賞2024恋愛小説部門        タヒチの星の下 5話 BL        

             タオの愛

寝る間も惜しんで仕事をしていたタオから電話がきた。
ボクからは、よほどの急用でなければ電話をしない。何故ならタオの仕事を邪魔をしたくないからです。顔が見たくて仕方ない時は決まって誕生日の日のことを思い出していました。
10年分の嬉し涙を出したから満足だった。会いたいに決まってるけれど、会えないからこそ会った日の喜びは数百倍の喜びに匹敵する。そしてあれこれと妄想して日々を過ごします。

街に買い物で出た時、いるはずもないのに似たような人を探していた時は
自分でも笑えます。
でも、今日は電話がきたので素直に嬉しい。久しぶりに聞くタオの声は、弾んでいていつもとは違う気がしました。思わず「何が嬉しいの?」と尋ねるとようやく目標が達成できたとか何とかでボクの声を聞きたかったそうだ。

一瞬トムの言葉が浮かびましたが分からないので「よかったね」しか言えませんでした。「週末に訪ねるから楽しみにしてろ」というばかりだったのです。10分ほど話して「体に気をつけろよ」といつもの「愛してるよ」の
連発でした。本当にアメリカ人は、「愛してる。私もだよ」を必ず言う。日本人のボクは最初は照れもあり中々言えなかったが慣れたというか慣れさせられました。彼は体を求めることはせずハグとキスのみでボク達は過ごしてきたので、回りから見れば公表することでもないけど、滑稽に感じる友人もいたかもしれませんね。

大事な人、恋人として友人達に公表してからは、日本にいる家族や友人達よりも長くタオとは暮らしていくのだと確信がありました。5月の心地良い風の中、世界中の花たちがボクらに咲いているのではないかと思えるぐらい毎日がドキドキしていました。迎えた土曜日13時予定より10分も早くビービーというクラクションが鳴って慌ててエントラスに降りることになった。両手を開いて抱きしめられた。そして~

「Oh my gosh my tony! I miss you hanging for long  time! I love you!
どんなにか寂しかったか・・・長く会えなくてオレのトニー愛してるよ!」

苦しいぐらい抱きしめられて・・・タオの匂いが一面に漂って大きな両手でボクの顔を包み強くキスをされた。車に乗り込みキスは止むことはなく信号で停車する度にタオはキスを求めてきた。隣に止まった車のおばあさんは、ニコニコして微笑み返しをしてくれていました。



           ナイチンゲール症候群

ナイチンゲール症候群という言葉を知ってますか?
フローレンス・ナイチンゲールは世界初の看護学校の設立や病院建設など医療制度の改革に大きく貢献しました。 彼女の功績としては、1853年から1856年の間に行われた「クリミア戦争」での貢献が有名で、フローレンス・ナイチンゲールと看護婦団の働きにより死亡者数が大幅に減らされたと言われています。歴史に残る偉大な働きを残し現代でもその功績は計り知れません。精神的、肉体的に傷ついた人達を心から看護ていた訳ですが、看護される兵士たちは彼女に恋ごごろを持つようになります。精神的に弱くなっている人が優しくされて心から尽くされると恋愛感情に変化する様をいいます。
回復するにつれその感情は薄れるといわれますがボクの場合を重ねるとトムから紹介されたタオが正しくそれに合致します。
                          
                              


            ボクの物語


幼少期から、ボクは自分のアイデンティティに違和感を抱き続けていました。同性に恋心を抱く自分を受け入れられず、精神的に自分というものを見失っていました。男なのに男が好きだということが病気だと思わざるを得ず、誰にも心の内面を見せることなく、親によって敷かれたレールの上を進むことだけが人生だと思っていたのです。

そんなボクの人生が大きく変わったのは、アメリカへの留学でした。新しい環境でタオに出会い、友人たちもボクをそのままの自分として受け入れてくれました。LGBTQの人々が、現代では多くの国や文化で公に自己を表現できるようになってきたことに、ボクは少しずつ希望を感じるようになりました。

しかし、同性を好きになることは本当に罪なのでしょうか?自然の摂理に反していると感じる人もいるでしょうし、「気持ち悪い」と言われて苦しんでいる人がいることも事実です。ボクは何度も自問しました。タオはなぜボクを愛してくれたのかと。

タオとの初めての出会いでスパークが走ったのはボクでした。東洋人の血が入るタオに親近感を覚えたのかもしれません。会う度に、タオはボクの性格を好きになってくれたのでしょう。様々なことを考えましたが、最終的にボクはこう思うようになりました。愛には国境も人種もない、そしてその理由を探す必要もないのだと。

タオとの愛を通じて、ボクは愛の喜びを知りました。ある日、イジメに遭っている黒人少年をタオが助けた場面を目の当たりにしました。泥だらけになっている少年の体を拭いてあげながら、「味方は必ずいる。君は一人じゃないんだぞ!」とタオの優しい口調の声が聞こえました。この言葉は、ボクにも言われたことがある同じ言葉です。

泣いていた少年がタオをハグし、手を振って帰って行ったことを思い出します。アメリカではカラーピープルへの差別が現在でも根強く残っています。アジア人も例外ではありません。LGBTQであれ何であれ、人間です。ボクはタオという人に出会い、愛され、愛しました。それは偶然という言葉は相応しくなく、必然だったと今、感じます。

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