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インド 失恋編

出会いから別れまで全部トントン拍子だった

出会いは唐突
インド旅行に行った時に彼の兄に話しかけられてガイドを持ち掛けられた
現地でガイドをしてもらった後、他の日本人と一緒に飲みに行き、その時からアタックが始まっていた
その時は誰にでもそう言っているのだと思っていた

いつから付き合っていたのかは分からない。
毎日電話でやり取りをしていて、付き合いたいと言われる度に「次会った時ね」と言っていた。
いつしか「彼女だから」「彼氏やろ?」と言われ始めて冗談かと思っていたがあれは本気だったらしい。
ビデオ通話中スッピンでも、髪がボサボサでも、パジャマでも…どんな自分も可愛いと褒めてくれるし、ぶりっ子してももちろん褒めてもらえるので通話が楽しかった。
ただそれが本当に恋なのか分からなかった。自分を褒めてくれる人が好きなだけで、彼自身のことに惹かれている訳ではない気がしていた。

日本に帰るとインドが恋しくて仕方がなかったが、彼と電話しているとインドに帰ったような気持ちになれた。
私が去った後のインドも相変わらずインドだし、その刺激を受けている真っ只中の日本人を観察するのもまた自分の過去を見ているようで楽しかった。
彼ではなく、インドという国自体に恋をしていただけかもしれない。

毎日通話していると、自分は知らなかった彼の一面や、彼を取り巻く人間関係も分かってきた。
彼は本当に自由だ。日本人と話してたかと思えばおもむろに散歩しに行く。
ちょっと歩くとすぐ知り合いに会う。会話する。時々私とも会話させる。またすぐ歩き出す。ビールが飲みたくなれば友達の家に行く。
とにかく顔が広く、見ているだけで孤独を感じる事はない。
彼は幼い頃に父親を失っているが、その代わりとなるような人達は十分いた。

恋愛的に好きではなくても、彼の愛が上辺だけでも、なんか楽しいこの関係がずっと続くならそれもまた人生かなと思えてきた。

付き合ってから私の日常は彼に染っていた。
それまでの生活は、在宅勤務ということもあって朝起きて直ぐにパソコンに向かい、12時になればさっさと前日の晩御飯を温めて食べ、また時間になるので仕事。19時頃になるとスーパーの割引が始まるのでお米をセットして散歩がてらスーパーへ。料理だけが唯一の気分転換。楽しみというか、自分に言い訳せずに罪悪感なくできる仕事以外の作業だ。
作って食べてお腹いっぱいになったら少しtwitterを見てまた仕事に戻る
21時頃になったら仕事終了。ダラダラyoutubeを観てから時間になったら寝る。
もはや自分が人間なのか、何のために産まれてきたのかを問う日々。

そこにインド人彼氏の刺激が入る。朝スマホを確認すると、夜中に酔っ払った彼からの着信履歴と「I miss you」のLINE。
10:00頃になると今日のガンジス川の朝日の写真が送られてくる。
昼休みはご飯を食べながら今のインドを見せてもらい、夜になればイチャイチャビデオ通話をしたり、彼の仲間に「チビや!元気?」と話しかけられる。
彼を通してインド人の知り合いが何人もできた。
少しでも時間があれば構ってくれて、日常に彩りが出た。

でも徐々に彼は変わっていった。
私は仕事があるのでインドに行けない。不可能ではないが、行くとなると部署の人に迷惑をかけたり、時間的にも金銭的にもかなりのコストがかかる。
それでも彼は来て欲しい、本当に愛があるならできないことは無いと言う。それの一点張り。
そして下ネタも極端に増えてきた。
彼とは頻繁に喧嘩をしていた。内容はいつも似ていて、彼は「会いに来て」と言うが自分は「年末にしか行けない」と答えて「それは愛じゃないね」と拗ねる。
なぜコストがかからない人に責められないといけないのか…

現実的に考えて、はじめからインド人との長期的な恋愛は犠牲になるものが多すぎると分かっていた。
インドで住むならトンデモ文化を受け入れ、仕事もなく家庭を守らなければならないし、日本で住むなら彼はヒモになりうるし、産まれてきた子供も結婚や就職の時に間接的な差別を受けて大変な人生になると思う。
それに、これまで浪人してまで大学に入り就活を頑張った日々が全く意味を成さないものになる…
私はそこまで覚悟できるほど彼を愛していなかった。ただただインドが好きで、彼の人間性、取り巻く環境が好きだった。
だからこそ「インドまた行きたいなぁ」と言ったことに対して「俺は要らんのね。」と言われるとキュッとなる。彼は繊細で見透かされている気がした。

彼が浮気しそうという疑惑はいつでもあった。インドに来る日本人は若い人が多い上、自分に一晩でタイプと言い寄ってきたのだ。
それに、帰りのリキシャーで一緒になった日本人男性から彼が多くの日本人女性と連絡をとっていることを自慢されたことを聞いていた。

そんなこともあり私は常々浮気しそう、信じられないという話をしていたがそれに対しては至って誠実だった。
今日本人がいればどういう人か教えてくれるし、女性一人旅のガイドを依頼された時は私が嫌がるからと他の人に委託してくれた。
ある時は彼の携帯を他の知り合いに預けてもらい、彼のことを教えてもらうと「彼はあなただけをいつも考えている」と言うようなことを酒の勢いと共に語ってくれた
その情熱的な語り口はとても彼の為に嘘をついているようには見えなかった。

私がメンヘラムーブをかますと彼はしっかりと応えてくれた。通話できない時はその事情を説明してくれて、いつになったら連絡できるか教えてくれる。電話が出られなかった時はその理由を教えてくれる。
全部面倒くさがらずに受け入れてくれた。これまで付き合ってた人には無い安心感を得ていた。

付き合っていることが分かってから、私は別れるタイミングを伺っていた。
どうせ辛い思いをするなら早い方が傷は浅く済むと思ったから。
そしてその時は突然やってきた。いつものように険悪なムードになり、1度電話を切る。勝手な想像だが、彼と友達が作戦会議をしていたのではないかと思う。
こちらは彼と面識のないインド人の女の子に電話してインド人全体の性格や今の彼の話をしたら猛反対されたw
それを聞いて自分の感情も落ち着いて潮時かな、と思った。この勢いを使わなければきっと別れられなくなると思い、何度も着信が来ていたが話すことはなくお別れのメッセージを送った。

次の日の朝、いつものように「I miss you」「I love you」のLINEが来ていてキュッとなる。辛くなるからもう引き止めないでくれ。
そんな思いで冷たくあしらって、終わった。


彼と話さなくなり、傷心している自分を見るとやはりあれは恋だったのかなと思う。
今からでも連絡をすればきっと彼は受け入れてくれて、また面白いインドと仲間たちを見せてくれるだろう。
彼の居なくなった日常でずっとモヤモヤして連絡したくて悲しくなってる。でも始めたものは終わりがある。もうこの苦しみを繰り返したくない…

ヒンディー語で大人数で話しているところに自然と入っていき、ニヤニヤ笑いながら話を聞き、話し出すタイミングを伺っている彼、真剣な顔で誰かと話したあと、目を閉じて首を傾げるインド人特有のの合図地をする彼、日本人を見つけると話しかけに行って知り合いの店をセールスする彼、日本人に警戒されてすぐに引く彼、全部可愛かった。

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