見出し画像

「きょうだい」とはあの兄弟由来の名!曾我梅林の杉田系希少種、ハート型がかわいい「五郎梅」来る(神奈川県小田原市産五郎梅その1)

曾我の梅農家さんから「五郎梅」という品種の梅を買った。初めて聞く名である。

つやつやしてとても綺麗な梅たち。
先の方が少しとんがりして、ハート型にも見える実に可愛らしい梅だ。香りも爽やか。

この形状は、やはり曾我梅林で育てられる杉田梅に似ている。今回買ったきっかけも、初めての品種だったからでもあるが、それ以上に「杉田系」だったから。私は酸味の強い杉田梅が好きなのだ。梅は酸味の強い品種ほど、それに比例するように独自の旨味を併せ持つように思う。山形の谷沢梅然り。

そんな五郎梅、何故その名前?と疑問に思ったところ、購入元の梅農家さんによると「十郎梅のきょうだい種です」とのこと。いやでも十郎梅とは随分特徴が…と思い、軽く調べて驚いた。
そうか「きょうだい」って名前のことか!

今まで全く知らずにいたが(十郎梅の名前の由来を調べたことがなかったから)、十郎梅および五郎梅の名前は「曾我物語」の主人公、曾我兄弟に由来する。一昨年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」にも登場した他、歌舞伎や能、文楽等の「曾我物」でもおなじみの兄弟だ。父の仇討ちに散る、絆の強い若き兄と弟。

神奈川県最大の梅産地、曾我梅林で独自品種を生み出すにあたり、当地が舞台となった物語の主人公の名をいただいた訳だ。しごく納得。ものすごく納得。
しかも十郎梅の特徴は、言い伝えられる十郎のキャラクターと不思議と合致している。風雅で優しく、草花や和歌を好む思慮深い美男子。一方で五郎は生まれついての乱暴者とされるが、兄のことが大好き。兄もまた弟の五郎のことが最も大事で何よりも優先させる。

この兄弟の絆は、実の父親を殺された後に母親の再婚先となった曾我家で「もらいっ子」とさんざんいじめられ、邪魔者扱いされたことでより強まったとされる。幼い二人がひそかに仇討ちを決意したことにも、そうした身の上が影響しているかも知れない。

おとなしい十郎と違って乱暴者の五郎は、将来を案じた母親の考えで(この性分ではいずれ仇討ちをするのではないか、そうなれば曾我家は幕府により罰せられ、取り潰されるかも)箱根の寺に入れられる。十七の頃、意に反して出家させられそうになったところを何とか逃げ出し、兄に助けを求めた。
請け合った兄は五郎を連れ、まだ夜が明けきらないうちに北条時政の屋敷へ向かい、頼み込んで親に知られぬうちに弟の元服式を済ませた。(五郎の名も、この時十郎がつけた。十郎という「どうでもいい」名をつけられた自分とは違い、立派な名をつけてやりたかったという)激怒した母から五郎は勘当されるが、それからはずっと兄弟二人で暮らし、やがて仇討ちに至る。

性格や個性は異なるが、非常に絆の強い兄弟。この物語が長く好まれ、様々なジャンルの題材になるのもわかる気がする。
そんな由来名を持つ五郎梅は十郎の次に発見された、若しくは品種改良により生み出された品種ということだろう。

それで思い当たったことがもう一点。
先般山北町の直売所「とれたて山ちゃん」で見つけた「虎子姫」という、これまた他では全く目にしたことのない品種の梅干し。

これも十郎の恋人「虎御前」から来ているのだろう。虎御前は大磯の遊女とされるが、敢えて姫と名付ける辺りにも採用した方の思い入れを感じる。
もしかしたら、今後曾我梅林で出て来る品種は可能な限り曽我物語に由来する名がつけられるのかも知れない。ちょっと楽しみ。

さて、そんな五郎梅、届いた時点でまだ少し青かったので追熟させた。

ざる2枚に分けて広げ、その下もなるべく風通しの良い環境にと心掛けていたのだが、2日後の午後、梅の水分(蒸気)がたまってざるの一部にカビっぽいしみが!大変!!

慌てて梅を避難させ、洗いたいので該当箇所とその近くにあった梅、熟が進んでいる梅をより分けて塩漬け。幸い梅にはカビは見られなかった。まだ青いものもあるので、それ以外はもう少し待つことに。

漬ける前にも丁寧に洗ったが、念のためややしっかりめの塩分15%で漬ける。

残りの追熟分は、熟のばらつきが大きいのか、2日経ってもまだかなり青いものも。
オリーブみたいな青さだ。

でもそれから1日で香りがぐっと完熟らしくなった。色はまだ青い感じもあるが、そろそろ漬けないと乾燥してしまいそう。

熟した五郎梅の香りは、十郎梅と比べて爽やか。フレッシュなとても良い香りだ。
そして、色はまだ青くても、実はかなり柔らかくなっていた。元々それほど黄色くならない品種なのかも知れない。

こちらはやや低めの塩分12%で仕込んだ。
五郎梅は希少なので、長期保存したくて全て梅干しにしたが、初めての品種なので早く食べてみたい気持ちも。
塩分15%だと塩が落ち着くのに数ヶ月はかかるので、干したてでも美味しいやや低塩でも漬けてみた。10%にしようか迷ったが、やはり安全策をとって12%。

もうすぐ予約した杉田梅も届くので、そちらとの比較も楽しみだ。

今年は住んでいる神奈川の梅を多く入手できて嬉しい。いつか虎子姫が手に入る時も来るだろうか?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?