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雨あがりて #11

☆-HIRO-☆ 第11話
2024年7月25日(木)

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第11話 帰りに聞いた事

「あっ、それはボクが片付けます」
石野さんが手にした空きカップを受け取ると、自販機脇のダストボックスに捨てに行く。そして博多朗が振り返ると、石野さんの姿はもう見えなかった。
“あれま、キビキビと動きの早い人だな…”と感心していた。

玄関ホールに行き長椅子に座って待つ。受け付けカウンターはもうシャッターが下りていた。
5分とかからず石野さんが現れる。
「あれ? 早かったですね…」
「白衣脱いでカバン取ってくるだけだもの…それじゃ行きましょ…」
石野さんは落ち着いた色の洒落たワンピースを着ていた。

玄関を出て右に進む。建物すぐ前は職員専用の駐車スペースのようだ。それを示す表示が枠内に書かれている。石野さんの車は右ハンドルのドイツ車だった。
「わっ、外車ですね…スゴイなあ…」
「中古を安く譲ってもらったの…大した事ないわ…さあ乗って下さい」

静かながら力強いエンジン音で車は走りだす。石野さんは駐車場を出ると、すぐ隣りの敷地へとハンドルを切る。
分祀殿の駐車スペースに車を停めると…「ちょっと待ってて…」と言い残して車を降り、分祀殿の方に入って行った。どうするのか尋ねる間も無かった。

しばらくして石野さんが小さい封筒を手に戻ってきて、博多朗に手渡した。何だろうと封筒を見ると“御守護”と筆書きしてある。中を見ると白いお守りが入っていた。
「あっ、これは…お代は幾らですか?」と財布を出しかけたが…
「あら、いいわよ…今日は検査費とか沢山かかったでしょう…今度、本殿にお参りしてその分お賽銭多めに納めてくれればいいわ…」
博多朗はしばらく出しかけた財布を引っ込める事もできずにいたが、何を言っても受け取って貰えそうにないなと感じ、また鞄に収めた。

「それじゃ帰りましょ…とりあえず診療所の方に向かえばいいのね…」
「はい、診療所に入る筋の少し手前を入って貰えばいいんだけど…近くまで行ったら言いますので…」

車は神社に続く道に出て下って行く。真っ直ぐ海岸まで続く道はそろそろ暗くなりだしている。所々にある外灯が点灯し始め、滑走路みたいに見えた。

「しばらくの間、そのお守りは身につけていた方がいいわよ…鞄とかに仕舞い込まずにね…寝る時も枕元に置いて置く方がいいと思うわ…
とにかく邪悪なものが近づけないようにしておく事ね…邪悪なものは一度引き離されてもまた憑いてやろうと狙ってるから…スキを見せたらダメよ…」
「はあ、そうします…こういう事にもお詳しいんですね…」
「ええまあ…医者になる前、若い時は巫女もしてたのよ…その頃色々と教わったわ…」
なるほど、道理で何か毅然とした清々しいものを感じさせる訳だ。

「厄除けのお守りというものは、まとめて祈願して…誰にでもご加護あるようにと…あらかじめ作られる、いわば大量生産の既製品みたいなものね…今日はもう時間的に無理だけど、一度本殿にお参りして護符を授けてもらう方がいいと思うわ…」
「はあ…護符ですか」
「護符というものは、その人の訴えを聞いて、それを神様に奏上した上、御霊を込めるという…その人だけのためにあるオーダーメイドみたいなものね…実際に何らかの災いを受けてしまった人にはこちらの方が良いかと思うわ…」
「へえぇ、それはまたご利益がありそうですね。今度是非お参りしてお願いして来ます」
「そうね…聞いたところ、須崎さんに憑いたのはそれほど位の高くない弱い邪鬼のようだけど…一度憑かれた人にはまた別のものが寄ってくるとも言われるから…厄徐けのご祈祷受けておいた方がいいかもね…」

博多朗はしばらく黙って考え込んでいた。
「昨日、帰ったら飼い猫がボクのこと警戒して近づいて来なかったんですよ…やはり何か感じたのかな?…普段懐いてる子が寄って来なくて寂しい思いをしましたよ…」
「まあ、賢い猫ちゃんね…飼い主に“いつもと違うよ“と知らせてたのよ…全部が全部とは言わないけど、飼い犬や飼い猫の中には霊感の鋭い子も少なくないそうよ…」
「今日帰ったらまたソッポ向かれないか気になって…」
「それは大丈夫だと思うわ…神域の本院に入ったんだから…よほど力のある邪鬼でなければ逃げ出したろうし…お守りも身に付けていれば、もう近寄れないでしょうよ…」
「へえぇ、本院自体も神域だったんですか…」

ここで車は海岸沿いに出て、左の国道方面に向かって行く。


次回は 第十二話「話しの続き」
ご期待下さい。

#創作大賞2024 #ホラー小説部門



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