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ウイスキーをめぐる冒険 episode4 ハイランドパーク

「いやー、よくわからない映画だったけど、なんかよかったね」
彼はそう言うと、残りわずかのウイスキーをクイっと飲み干した。

ポン、と小気味よい音でコルクの栓を開け、空いたグラスにウイスキーを注いだ。

「これが最後の1杯。明日も早いしね」

この言葉が真実になった試しは一度もない。

「一体この映画は何を伝えたかったの?」彼が私に尋ねた

「わからない。きっといつかわかる時が来るんじゃないかな?わからないから面白いんだよ、きっと」
映画通になりきれない私と友人は、こんなくだらない話をしながら、夜な夜な、空き瓶だらけの私の部屋で語り合っていた。

彼と私のウイスキーはいつも同じ。私はタリスカー10年、そして彼がいつも飲んでいたのが「ハイランドパーク12年」彼もまた、Barでも家でもハイランドパークばかり飲んでいる同胞だ。

彼は会社の同僚。歳は同じだが入社が2年彼の方が遅かった。
そのため、会社では彼は私に敬語を使うが、ウイスキーの席ではタメ口でなんでも話す仲だった。
私と彼は、同じ勤務場所であったが、部署が違う関係で休日や業務時間は異なっていた。そのため、休みにどこかへ行ったり、休日前に酒を浴びるほど飲むといったようなことはしない間柄だった。
勤務中そんな二人がよく顔を合わせた場所が、喫煙所だ。

「お疲れ様です」
私がタバコを燻らせていると、彼がやってきた。少しだるそうで、それでいて明るいその声色は彼の特徴的な声だ。
私たちは少々仕事の話をし、一息ついたところで彼が言った

「今日どう?」
彼はウイスキーグラスをクイっと飲む仕草をし、少し恥ずかしそうな笑顔で語りかけた。

「いいね」私は答えた。そして続けた。
「また新しい映画のDVDを買ったんだ。まだ見ていないからそれを見よう」

「お、いいじゃん、それにしよう!今日は残業なしで仕事上がれると思うので終わり次第連絡します」

タメ口と敬語が混じり合った彼の言葉は初めは違和感しかなかったが、今ではもう慣れっこになっていた。

「じゃ、連絡待ってる、お疲れ」
「お疲れ様です」
私は先に喫煙所を離れ、残りの業務に取り掛かった。

2杯目のウイスキーを注ぎ終わったところでインターホンが鳴った。

いつものように、彼はハイランドパーク12年を右手に持っていた。
しかしこの日は左手にはグレンケランのテイスティンググラスを握っていた。
私がそのグラスに目を向けると

「買っちゃった」
ハニカミながら彼は言った。
「2個買ったから1つはここに置いていくよ。毎回持ってくるの面倒だしね」
「そりゃいいアイディアだ」

2人はそれぞれのグラスにウイスキーを注ぎ、グラスを軽く持ち上げた。

乾杯

タバコに火をつけ、DVDをセットし、映画が始まった。

狭い部屋は、ウイスキーとタバコと映画色に染まっていた。

時は流れ、、、
彼な転勤で遠くの地へ行ってしまい、私は結婚し家族ができ、引越しをした。
夜な夜な、あの狭い部屋で映画を見ながらウイスキーを飲むことはもう失われてしまった。

しかし、そんな今でもハイランドパークを飲むと、あの狭い部屋の景色や笑い合ったこと、時には言い合いをした時のことを思い出す。

私をセンチメンタルな気持ちにさせてくれるウイスキー、それがハイランドパーク。
ウイスキーの味って、記憶や経験にも左右されるんだな、奥深い。

今ではタバコもやめ、病気を患いウイスキーも飲めなくなってしまった。
あの頃とは全く違う状況になってしまったが、

彼のそのグラスは今でも他のグラス達と並んでいる。
ハイランドパークが注がれるのをじっと待っているかのように。

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