巨人

夜11時にバイトが終わり、駅から家へと続く長い道のりを重たい足取りで歩く。硬いアスファルトの道は、ジャリジャリとした感触で、冷たい街灯に照らされ、その凸凹した表面がくっきりと輪郭を表し、微生物が寄りあつまってざわざわ蠢いているようにみえ、不気味だった。

前から僕の横を通りすぎる人影。後ろから僕を追い越す人影。どれも、形がおぼつかない。心なしか、皆、夜のぎらついた闇に染まってしまわぬよう、急足で歩いているように見える。

小学校の傍に差し掛かったところで、大きな笛の音が聞こえた。金属の擦れるような、キンキンした音、それは笛ではなく、街を駆け抜ける風の音だった。同時に雨が滴る音が頭上から聞こえたかと思うと、道を挟んで向かい側の、背の高い街路樹の葉が、わらわら風に揺れていた。その葉叢は、街灯に淡く照らされ、大きくぼんやりした男の影を写していた。その大きな巨人は僕の影だった。僕は、自分より何十倍も肥大化したもう一人の自分を右へ、左へ動いて操ってみた。巨人は、葉叢の上で愉快そうに踊った。しばらくそんな風に遊んでいると、僕は足元にあった小石に気づかず、仰向けにこけてしまった。さかむけた左肘を気にしながら、ゆっくり起き上がり、ふと例の木を眺めると、巨人の体は、街路樹からはみ出て、頭の部分が見えなくなっていた。ああ、もう一人の僕よ!君は、このさざめく星々に埋め尽くされた、夜空へと、旅へ出たんだ!

私は闇に吸い込まれていった。

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