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大親友で最高のライバル秋斗へ 【おっさんずラブリターンズ】

 今回の主人公は、六道菊之助。現役公安警察官であり、和泉の教え子で同居人。そして、移動販売「おむすびころりん」の店主です。

 私は秋斗派のため、菊之助には感情移入できませんでした。ここにきて「菊之助は、秋斗を親友以上の存在として見ていた」との結論に達し書いています。あくまでも友人として男として魅力を感じでいたということであり、恋愛感情とは少し違います。

 秋斗と菊之助は性格は違えど、勤勉で真面目、成績優秀。同じ人を好きな親友です。秋斗は、「菊には絶対に渡したくない」と思うほどに、和泉に対して強い思いを抱いていました。秋斗は菊之助以上に勉強し、一番である続けることに固執します。それは、教官である和泉に自分をアピールする手段の一つであったのは間違いありません。どこか冷めていながら、子供っぽいところもある秋斗は、教官に歯向かうリスクを成績で埋めていたのだと思います。やることが「ガキ」ですが、思惑通り強いインパクトを和泉に残したのは間違いありません。そんな秋斗に敗北感を感じながら、よきライバル・大親友として菊之助は大切な時間を過ごしました。

 「圧倒的一番」
 
 警察学校でも常にトップの秋斗に嫉妬しながら、彼の真っ直ぐで嘘をつかない性格を菊之助はとても好きだったと思います。社会に出れば、自分をよく見せようとしたり嘘をつく人が多い。人から好かれたいよく思われたい欲が生まれるからです。ところが、秋斗は唯我独尊、天下無敵のヒーロー。菊之助と同じように正義感が強く、理不尽なことには真っ向から立ち向かっていく強さもありました。自分と似たものを持ちながらも影があり、それを人に見せない秋斗の理解者として側にいたのでしょう。何をやっても勝てない、くやしいけれど相手が秋斗なら真向勝負くらいの気持ちでいたと思っています。

 警察学校を卒業し、教官であった和泉とは、顔を合わせる機会がどんどん減っていきます。休日には元気のない秋斗を誘って、旅行したり遊び回ったのかなと想像すると微笑ましいです。菊之助は世話焼きな一面があるため、何かと秋斗の面倒を見ていたはず。警察学校時代に築いた友情は、卒業後、公安に配属されても続きました。公安に配属になり、二人は教官であった和泉と再会します。恋した人を前に、二人はどんな会話をしたのでしょうか。秋斗は高鳴る胸を抑え、菊之助の前では冷静に振る舞っていたかもしれません。師弟関係から先輩後輩、上司と部下になったことで、より親密な関係を作り上げていきます。ところが、公安のエース和泉のバディになったのは秋斗でした。
 警察学校時代より大人になった秋斗は、菊之助の前では「任務だから」とクールに話していたに違いありません。しかしながら、二人の距離はバディになったことで急接近し、恋人同士になってしまいます。それでも菊之助は、大好きな二人が幸せに過ごしていることを嫌だとは思わなかったはずです。甘酸っぱい気持ちを抱えながら、二人を見守っていたのでしょう。もしかしたら、3人で遊びに行くことのあったのかな?と考えたりもします。

 黒澤部長の家にお世話になった時には「兄さん」と呼んでいたことから、上下関係が厳しい環境で育ち、年上に対する憧れが強いのでは?とも考えています。名前からして、実家が本家か分家で、茶道か日舞あたりのお家柄ではないでしょうか。名前をつけたのは、祖母か祖父で年の離れた兄弟か従弟がいるかもしれません。それか「兄弟子」かな……。
 身近に憧れの年上がいる、父親との関係が希薄な場合、年上にその愛情を求める傾向があるからです。秋斗に関しては、一人っ子で両親との関係は希薄。もしかしたら、父親の愛情を受けていなかったのではないかと想像しました。これは、和泉に対して愛情を確認するような言動があり「自分は愛されている」「愛されていることを確認したい」のかなと感じたからです。あれだけ愛されているのに、なんて欲張りなんでしょうね。

 和泉は秋斗に惜しみない愛情を注いでしました。突っ走りがちで、人の言うことは聞かない(特に和泉)のも、愛されているゆえの甘えです。和泉が自分を追いかけてくることをわかっているからこそ、無謀な賭けにでたのかもしれません。
 「もう、あんたの生徒じゃねーんだよ」は、自分を頼って欲しいから出た言葉を思っていましたが、もしかしたら和泉を動揺させるだけの言葉遊びだったかもしれないと思い始めています。愛されているのに、そのさらに先を求め、愛している男を守るために盾となった。対等ではなく、自分の方が和泉を愛している気持が強いことを、命をかけて証明してしまったわけです。
 複雑な愛情は、この二人にしかわからないことなので、想像がつきません。ただ、言えることはお互いがいない世界には、なんの未練もないくらい深い繋がりがあったのは確かです。この二人には「武士道」に近いものを感じます。

 大親友であった菊之助が、秋斗の性格を熟知していないわけはありません。「愛するがゆえに命を失った」、深い悲しみと共に彼の和泉への愛がそこまで深かったことを理解してなかった自分を責めたと思います。たぶんですが、普段から「俺、和泉さんのためなら死ねるわ」とか言ってたんでしょうね……。「何いってんだよ」とか菊之助が怒ると「あ、騙されてやんのー」とかふざけてたんだろうな。本当に、そんなことできる・やるとは思わなかったのでしょう。大親友で最高のライバルだった秋斗が愛した人を、自分が守らなければならない。それが、秋斗の供養になると考え、気持を押し殺して和泉とバディを組みながら任務に励んだはずです。必ず犯人を捕まえる気持も人一倍強かったでしょう。死んでしまった相手には、一生勝つことができないから。

 秋斗が受けた銃弾の衝撃、冷たくなっていく恋人の体は、和泉を壊してしまうには十分でした。和泉は秋斗を失った事で、まるで廃人のようになってしまった。ロボットのように任務に向かう姿は「死に場所を求めている」ようにしか見えなかったはずです。何とかして生きて欲しかった、和泉さんが死んでも秋斗は喜ばない!そう思いながら側で支えてきたと思います。しかし、死に取りつかれた和泉には「復讐」するしか生きる手だてはなかった。

 和泉は「犯人を自分の手で殺したい」復讐したいわけです。それは、警察官としての自分の正義に反する言葉・行為です。相反するものを抱えて生きることは、本当に苦しかったに違いありません。最終的に、彼は自分の正義より秋斗への愛を取り、警察をやめ復讐の鬼となり毎夜アジトに潜入するようになりました。

 菊之助にはそんな和泉を止めることはできません。自分も犯人は憎い、けれど、自分の正義を曲げることはできない。前向きにならない和泉に感じる苛立ちは、亡くなった秋斗にも向けられます。「お前が生きていれば」「どうしてあんな無茶をしたんだ」写真やお墓に向かって何度も問い続けたはずです。和泉は秋斗への愛ゆえに、菊之助は大親友だった秋斗を失った喪失感を埋めるために、強く秋斗を思うしかなかった。大親友で最高のライバルだったからこそ「どうして和泉さんを解放してくれないのだろう」に変換してしても仕方はありません。好きな人が苦しむのは辛いし、なんとかして立ち直って欲しいわけです。自分の気持を押し殺してまでも、和泉と秋斗の関係を認めていた。だから、その反動が愛憎に変化してしまうのです。ですが菊之助が何をしても、解決はできなかったと思います。なぜなら、秋斗が死んだときに和泉も心も死んでしまったからです。別人のようになった和泉の頭の中には「復讐」しかありません。愛ゆえの悲しい、出来事です。

 「そろそろ前を向いてもいいんじゃないですか」「過去に縛られるのは、もうやめてください」。これだけ聞くと、秋斗は忘れて自分を見て欲しいように思えます。でも、秋斗を忘れられないのは菊之助も同じです。これは、自分自身に言い聞かせて来た言葉だったのかも知れないと思いました。「秋斗を忘れろとは言えなかった」。そうでしょうね、自分も忘れることはできないのですから。和泉が秋斗を忘れる時は死ぬときだけで、そうすると自分は秋斗を2回も殺すことになるわけです。それも大親友を自分の手で。
 警察学校で親友になり、勤務も多分近い区域でルームシェアしてたかもしれません。いつも隣にいて、笑ったり怒ったりして長い時間を一緒に過したのでしょう。和泉さんが秋斗を忘れられないのが辛いのではなく、秋斗がいないことに焦燥感を抱いていたからこそ、秋斗の話をするときにはトゲを感じてしまうのです。

 菊之助と秋斗の友情も、そのへんの薄っぺらいものではなかったからこそ、抱え込んで辛かったのでしょう。好きな人は秋斗を愛し、彼の中で永遠に生き続けることになった。そして、それを助けたのは自分でなく秋斗と瓜二つの春田だったのも辛いところです。和泉をどんなに好きで告白しても、秋斗と春田には勝てなかった。3年間復讐だけを考えてきた和泉を前に向かせたのは、同じ顔で性格が違う春田だった。今後は、和泉が菊之助に対してどのような答えを出すかが注目されます。

 人を支えるのは愛情ですが、それが必ずしも恋人としての愛とは限りません。武蔵が春田を好きで、でも牧といる春田が幸せなら自分はそれを見守るため自分を押し殺した深い愛、人の為に泣き支え、お日様のような笑顔で和泉を前向きにした寄り添う愛など様々な愛のカタチがあります。

最終回はどんな結末でも、秋斗と和泉が見せてくれたアイのカタチはゆらぐことはありません。菊之助の秋斗への友愛、そして菊之助の和泉への献身的な愛情が、どのようなカタチで着地するのか放送を楽しみにしています。