幸福否定の研究ー3 "幸福否定”に興味を持つことになった経緯 1

*この記事は、2012年~2013年にかけてウェブスペース En-Sophに連載された記事の転載です。

【幸福否定の研究とは?】
勉強するために机に向かおうとすると、掃除などの他の事をしたくなったり、娯楽に耽りたくなる。
自分の進歩に関係する事は、実行することが難しく、“時間潰し”は何時間でも苦もなくできてしまう。自らを“幸福にしよう”、"進歩、成長させよう”と思う反面、“幸福”や“進歩”から遠ざける行動をとってしまう、人間の心のしくみに関する研究の紹介。

~不思議な患者さんたち~

私が最初に修業に入った東洋医学系の治療院は、院長先生が気功もやるということで、半分以上が癌の患者さんでした。

病院がお手上げになった末期癌の患者さんが多いので、どうしても改善率というのは低くなりますが、それでも何人かは、順調に腫瘍マーカーの値が下がっていき、抗ガン剤や放射線治療で弱っていた身体も回復していきました。

ところが、ここで大きな問題が出てきます。

化学療法で改善せずに、代替医療をはじめたのに、また抗ガン剤などの化学療法をはじめてしまうのです。医師は化学療法が効いたと思ってますから、再開しようとします。

その時点で、患者は断るはずなのですが、

"言い出せなかった”
"断れなかった”
"お医者さんが一生懸命やってくれるから”

など、自分の命を優先せずに、"一生懸命やってくれる相手に悪い"という事で、自分には効かないとわかっている治療を受けしまうのです。

私自身が担当した末期癌の患者さんは、骨髄から、眼底、脳、胃と転移しており、視力低下(ほとんど見えない)、頭痛、食事が満足に摂れない、その他身体の痛みなどの症状がありました。

何回か施術し、頭痛の軽減、視力もある程度回復し、体調もかなり良くなりました。

この時点で、癌が小さくなったのかはわかりませんが、頭痛の軽減と、視力が良くなってきたことから、検査をして癌が小さくなっていれば、改善する可能性があるかもしれない、と期待をしていました。

ところが、ある日"やっとホスピスの順番がまわってきたから入らなければいけない"と、患者さんから話がありました。

ホスピスには入らなければいけないが、体調は良くなっているので施術は続けたい、と言うのです。

ホスピスは交通の便の良いところにはないので、往復するだけで一日かかってしまいまいます。とても出張療法で行ける距離ではありません。

"希望者が多いなら、逆にキャンセルしても迷惑にはならないはず。もし、当院の施術に手ごたえがあるならホスピスをキャンセルして、施術を続けてみてはどうか?”

という主旨の事を話しましたが、"ホスピスのキャンセルは申し訳なくて
絶対できない”の一点張りで、結局ホスピスに入ってしまいました。

この件に関しても、私自身としてはどうにも理解し難い経験でしたが、その後、何度か同じような経験をすることになります。

後々、幸福否定の勉強をしてからわかった事ですが、"自分より他人優先”というのが癌の患者さんの特徴だからです。

三分の二程の癌の患者さんに当てはまる性格的傾向ですが、

・自分のために何かをする(癌を患った場合は自分のための治療)事が難しい

・権威に対して弱い(逆に見ると、自己犠牲的に見える)

という特徴があるようです。

インターネットを観ると、癌の治療経過を細かく記述し、亡くなった後に自分の失敗を役に立ててほしい、というようなサイトを観る事ができます。

他の病気 ー 例えば、脳卒中や心疾患、他の臓器の疾患の患者さんが、
"自分の失敗を役に立ててほしい”という目的で、経過を書き続ける事はほとんどありません。

本来ならば、自分の失敗例を後世に残す時間があれば、治った人の例や、
他の治療法を探す事に時間を使ったほうが良いだろうと考るでしょう。しかし、それが癌にならないタイプの人と比べると、極端に難しいと推測できます。

これらの件が、私が最初に患者さんの行動や治療選択に興味を持つ
きっかけとなりました。

(続く)

補足:そんなに簡単に癌は小さくなるのか?
癌が小さくなるという前提で書きだしているので、そもそも、そんなに簡単に癌が治るのか?という疑問を持つかもしれません。
私の経験では、癌を得意にしている"名人”と言われる治療家、施術家は、
思ったよりも数は多い、という印象です。(但し、それでも10人に1人以下)
しかし、小さくなる、というところまではできても、"完治”(その後、放っておいても再発しない状態)は非常に難しいと言わざるをえません。"がんが小さくなった”"がんが消えた”という話も聞くけど、"再発した”という話もよく聞きます。幹細胞が癌化した場合、いくら自然治癒力や免疫力があがっても、癌化した幹細胞自体は修復できません。

・がんが小さくなる現象は一般の人が思っているよりも起こりやすい
・がんを完治させることは一般の人が思っているよりも難しい


というのが代替医療(の中で、ある程度の成績をあげている治療家、施術家)の現状だと推測します。


補足2: 癌治療における、西洋医学と代替医療
上記の文章は抗ガン剤治療、放射線治療全般に否定的な文章に見えますが、化学療法全体を否定する意図はありません。
癌の種類によって、化学療法の効き方が全く異なるのですが、必然的に病院でうまくいかなかった癌患者が代替医療に来ることになり、そこでうまく治療できたのに、一度失敗した治療を"断れない”という理由で受けなおすのは、通常では考えにくいという主旨です。
尚、慢性白血病については、薬価の問題があるようですが、癌を押さえる薬が開発され、また、肝臓癌のラジオ波治療などは、私のような代替医療従事者からみても、代替医療よりは確実なのではないかと思います。
また、代替医療を受ける際にも、"名人”を探すのが難しい事と、再発は伏せて寛解は宣伝するなど、病院ほどしっかりしたデータを出さない点も問題があります。但し、自分に合う治療家、施術家を見つける事ができれば、辛い副作用に悩まされる事なく痛みをとったり、うまくいけば癌を小さくすることもできるのではないかと思います。

文:ファミリー矯正院 心理療法室 /渡辺 俊介

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