幸福否定の研究ー4 "幸福否定”に興味を持つことになった経緯 2

*この記事は2012年~2013年にかけてウェブスペース En-Sophに連載された記事の転載です。

【幸福否定の研究とは?】
勉強するために机に向かおうとすると、掃除などの他の事をしたくなったり、娯楽に耽りたくなる。自分の進歩に関係する事は、実行することが難しく、“時間潰し”は何時間でも苦もなくできてしまう。
自らを“幸福にしよう”、"進歩、成長させよう”と思う反面、“幸福”や“進歩”から遠ざける行動をとってしまう、人間の心のしくみに関する研究の紹介。

~不思議な患者さんたち~

次の例も10年以上前に経験した患者さんの例の紹介です。(注1)

20代で精神分裂病と診断された(注2)40代の男性は、うつ症状で休職、復職を繰り返していました。うつ状態で何度目かの休職中に、あと一カ月で復職しないと仕事を辞めないといけない、と、後がない状態でご家族に連れられて来院しました。

数回の施術で、思ったより早く改善がはじまり、約2週間後には動けるようになり、一ヶ月後には無事に復職をしました。

精神分裂病という診断も20年前の診断なので、もう一度病院を変えて診断する事になりました。、予想通り、精神分裂病ではないだろう、という事になり、ご家族や親せきの方々にもようやく理解をしてもらえた、と喜んでいました。

私も、経験も浅かったので、予想以上に早く改善して良かった、仕事を辞めずに済んで良かった、これでしばらくは普通に働けるだろう、と思っていました。

ところが、もう大丈夫だろうと思った数ヵ月後から問題が起き始めます。

会社の鍵を無くしたり、書類を紛失したりと何回かトラブルを起こし、あっさり会社をやめてしまったのです。

幸福否定をしらなかった私も、健康になった途端に会社を辞めてしまうとは
どういうことだろう?と唖然としたのを覚えています。

ここで、

①病気で苦しんでいた時には、よほど頭の働きが悪いにも関わらず紛失などのトラブルはなかったこと
②致命的なトラブルではなく(注3)、始末書程度のトラブルなのに自ら会社を辞めてしまったこと

と不思議な点が2点あります。

①のような症状は、紛失するものが限定されるという特徴があります。

この場合は、"会社"、"ほどほどに重要"という条件に当てはまるものだけ、
紛失(厳密には置いた場所の記憶を自ら消してしまう。置いた時はしっかり片づけているので、たいていは引き出しの中などから出てくる)することになり、重要度の低いものは対象になりません。

また、②のように、休職、復職を繰り返していた20年では、自ら会社を辞めるような事は一度もなかったのに、始末書で辞めてしまうのは、どういう基準なのだろう?と、傍から見ると理解できない事が起こってきます。

この患者さんは、その後数年に渡り(注4)、うつ症状に関しては再発せず、就職しては辞める、という事を繰り返す事になります。

(続く)

注1:プライバシー保護のため細部を変えさせて頂きます。

注2:私は医師ではないので診断する立場ではありませんが、休職しながらも20年仕事を続け、普通の会話ができる(話の筋が通る)ので、個人的には精神分裂病という診断は疑問です。もし、本当の精神分裂病であれば、簡単に寛解するものではないので、私の施術で良くなるという事もなかったと推測します。但し、普通のうつ病の患者さんとも違うので、何らかの
人格的な問題は抱えていると思われます。

注3:幸福否定で起きる紛失の場合は、置いた場所を忘れる事が多いので、
後で出てくる事が多く、この例も結果としては社内で慌てたというレベルで、致命的な問題にはなっていません。

注4:身内の方が来院していたので、後々の様子を聞くことができました。
"数年に渡り”というのは、身内の方が来なくなって以降はわからないので、
このような表現にしました。

文:ファミリー矯正院 心理療法室 /渡辺 俊介


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