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日本とヨーロッパのイラストの仕事は全く違うよという話 その3

ドイツで働く能力がない自分に嫌気がさす。

語学学校で一緒だった友人などはB1をクリアした後、B2の資格を取り(一般に働くのに必要な語学レベルはB2と言われている)、老人ホームで働いたり、ソーシャルワーカーとして働いたりしている。いくら隣国から来ているとは言え、ドイツに来てたかだか2、3年で働き始めるのだからすごい。というか、就労する目的で来ているのだから当然と言えば当然なのだが。。。

やはり語学は必須である。ただ夫のように英語で十分コミュニケーションが取れる場合かつ大都市の場合は英語だけでも職種によっては十分働けるケースもあるのだが、一般にドイツで就労したいのであればドイツ語は必須だと思った方が良い。ただ、英語もドイツも全くできない状態でドイツに来ることだけはやめた方がいい。運が悪ければ悪い日本人に捕まってこき使われてしまう危険性がある。その国の語学も常識も就労条件も法律も知らない同胞は、一部の人にとってはいい鴨なのである。

話は逸れたが…

まあ、下手に燻っているより今はできることをしよう。

というわけで、しばらくはドイツ語学習にハマることになる。夫からは「一体どっちの方向に向かっているのかい?」と不思議がられるほど猛勉強していたが、如何せん語学のセンスが悪いのか頭に本当に入らない。特に数字がものすごく苦手で数字の聞き取りにも死ぬほど苦労した。(なんと未だに子供の生年月日をたまに間違えてしまうほどなんです…)

が、上述したようにドイツ語をドイツで学ぶことは間違った方向ではない。病院や役所手続き、現地校に通っている子供の保護者会や個人面談。全てドイツ語でこなさねばならないので必須と言えば必須なのである。

そんなある日、長男クラスの「Stammtisch』(シュタムティッシュ)というものに参加した。Stammtischとはドイツ語で「常連席」という意味なのだが、学校のクラスの保護者たちだけで飲んだり語ったりする会(いわゆるカジュアルなママ会、パパ会みたいなもの)の意味もある。日本では仲のいいパパ友ママ友とだけでやることが多いかもしれないが、ドイツでは親睦を深める会としてクラスの先生も交えて父母のどちらかもしくは両親が参加する。この日はピザレストランでだった。ドイツ語ができるとこういう会にも気軽に行きやすい。とは言え聞く時は耳をダンボにしないと聞き取れないし、それでも知らない単語の連続だったりもするので実は相当緊張もしているのだけど。

なので上手いドイツの生ビールをどんどん飲んで、自分を明るい気持ちに持っていく。するとなんとなく饒舌に喋れるのだ。沈黙が少し怖くて、今まであまり人に言っていなかった「自分がイラストレーターだ」という余計なことまで喋ってしまう。

そこで聞かれるのが「どんな絵を描いているのか?」だ。

これは当然の質問なのだけど、ドイツ人から見えれば私の絵なんて「落書き」なんだろうな。そう思うと説明に躊躇してしまう。というより日本とドイツ間でイラストレーターの仕事内容も違いすぎるのでこれまた説明が難しい。なので日本を知らない外国人に自分がイラストレーターだと言ってしまったら、どんな仕事をしているか、またどんな絵を書いているかをうまく伝えられるよう頑張った方がいい。そこで盛り上がれば楽しい交流になること間違いなしだから。

その夜はそんなこんなで楽しく飲み、解散した。

次の日、クラスの役員をしているお父さんからメールが来た。

「昨日イラストレーターって言ってたでしょ?うちの奥さんデザイナーなんです。今度の夏祭りのポスター描ける人探していて…よかったら一緒にやりません?」と。

びっくりした。

なぜなら自分がイラストレーターだなんて言ったかなんて緊張のあまり覚えていなかったからだ(笑)。

が、嬉しい。めちゃくちゃ嬉しい。もちろんノーギャラではあるが、2つ返事で引き受け、そのデザイナーの奥さんと打ち合わせをした。(この彼女がものすごくいい人でお友達なるのだが…それはまた。)ちなみに今回の夏祭りのテーマは「Flower Power」。70年代のヒッピーがテーマらしい。

日本での依頼なら私はそれだけのわずかな情報だけですぐ描き始めることができた。しかも学校で行う夏祭りというのも日本ならば想像がつく。が、文化をさほど知らない場合は、そこをまず知ることから始めなければいけない。これはイラストレーターとしての基本であると思う。そこで今までのポスターを見せてもらったり、HP上に載っている過去の夏祭り写真などを見てイメージを膨らませる。長男の通っていたギムナジウムは小学5年生から高校3年生までの一貫教育であり、ドイツでは16歳からビールが飲めるので、なんとビールスタンドまで出ていることが判明した。

と、いうわけで日本とは全く違う夏祭り。躊躇はしたが、すでにドイツ滞在も3年以上経っていたため、その経験も手伝って思った以上に筆は進んだ。自分がもしどんなに私が絵がうまくてもドイツ文化を全く知らない人間だったらこのポスターは作れなかったと思う。

ポスターのために2案ほどアイディアを出した。彼女はいいじゃない!と喜んでくれたが、果たして他の人はどうか。

この2案を持ってさらに保護者の夏祭り実行委員会的なところでプレゼンを行う。ドキドキして皆に見せたところ…素晴らしいわ!いいじゃない!となんと称賛の嵐(は大袈裟です。笑)。や、やった〜!!

「ちょっとこの女の子の胸が…出過ぎだから、ちょっと引っ込めた方が…」とお堅いママさんに指摘されたのでそこだけは直すことに。ドイツにも、漫画とかに出てくるような日本のお堅いPTAママみたいな人がいるんだなと苦笑。

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*この左上の女の子の胸ですね

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*こちらはダメでした。結構気に入ってたのだけど(笑)

そしてポスターが完成。文字はデザイナーの彼女が入れてくれた。

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*この下の余白の部分にはスポンサーが入ります。地元のお店がスポンサーになってくれるのです。

このポスターは学校だけでなく近所の商店街にも貼られた。このポスターを見てなんだか感動してしまった。こんな遠い異国から来た私たち日本人家族がドイツの現地校に受け入れられたこと、そして私のイラストがノーギャラといえども「通用」したこと。なんだか自分の今までやってきたことが報われたような気がしたからだ。

とにかく嬉しかった。

これを機に自信を持ち、再び絵に挑戦してみようと思ったのである。

その4に続く

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