見出し画像

★「キャリントン」 その2

以前感想を書いた映画「キャリントン」、日本版のDVDがリリースされていなくてがっかりしていましたが、結局海外版のDVD(英語字幕付きの米版)を購入して、もう何度も見ています。登場人物のキャラクターだったり、キャリントンによる、カラフルでいかにもブルームズベリー・グループらしいインテリア(資料が少ないので、殆どはイメージを駆使して作り出したとか)だったり、細かい描写が本当に素敵です。主役二人とも、見た目は凄くそっくりというわけではないのに、原作のイメージぴったりになりきっています。ジョナサン・プライス演じるリットンの歌うような話し方は、実際のストレイチー家の人々の特徴だったとか。エマ・トンプソン、生き生きとした演技でキャリントンのボーイッシュな外面を、女性的で複雑な内面を表情でうまく表現していて、引き込まれます。

画像2

♦︎

日本公開時のパンフレットがなかなか充実していて、スクリプトの採録もあるので、参考になりました。彼らが暮らしたTidmarshとHam Spray House、撮影時どちらも現存していたみたいですが、建物も外の風景も当時とは変わってしまっていたので、当時の雰囲気を残す建物で撮影されたそうです。インテリアに使われている絵画は全て複製で、肖像画は実物のコピーではなく、演じる俳優に合わせて描かれたそう。言われてみればそうですが、ごく自然だったので、気付かなかったです。

画像1

左:実際のHam Spray House(Michael Holroyd著の原作より)

右:映画のパンフレットより。


ストーリーについては、見た後いつも、ぐるぐると考えてしまいますが、これが彼らの実際の人生だったわけで(日本でいうと大正〜昭和にかけて)、もっと後の時代だったら違った結末になっただろうと思います。何が彼らを殺したかといえば、当時の社会(モラル的なことや、第一次大戦〜第二次大戦前の世界情勢、未発達な医療なども含め)ではないかと。キャリントンの人生にスポットを当てて描くために、ブルームズベリー・グループについては、ほぼミュートされていますが、良心的兵役拒否やLGBTなど、リベラルな彼らの思想については、エレメントとして織り込まれていて、興味深いです。

ブルームズベリーの自由で進歩的な考えやクリエイティブで自分らしい生き方が評価され始めたのが1960年代以降とのこと。平和主義でアートと自然を愛するボヘミアン的な生き方が、当時のアーティストにも影響を与えたのだろうと思います。100年経った今の時代にこそ受け入れられるし、輝きを増している気がします。


♣︎両方書くつもりでしたが、思いの外長くなってしまったので、映画の原作になったMichael Holroydの「Lytton Strachy  The New Biography」の感想は、他のブルームズベリー関連の書籍と共に、次回に。。。700ページ以上ある分厚い本なので、まだ全部読めていませんが、とても面白いです。リットンの死後のキャリントンについて書かれた最後の章を読み返して、彼女の悲劇的な運命と、友人たちの思いにも感動して、涙がこぼれてしまいました。