秋谷 麻

秋谷 麻

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『逃亡くそたわけ』と逃亡くそたわけごっこ

 痛快なタイトルですよね。内容もだけど。 『逃亡くそたわけ』 書店でアルバイトをしていた時に、お客さんがレジに持ち込んだ一冊に目を奪われたことを覚えています。 イカすタイトル、買ってみようと。 亜麻布二十エレは上衣一着に値する。 頭の中の声に追われるようにして、青春病院を抜け出す二人、夏の終わり。 数々の事件を起こしつつ衝突しつつ、車は福岡から南へ南へ。 ロードムービー風の物語としてとても面白い。 精神病院に入院していた二人だから不穏さを孕むけど、青春はそれ自体に仄暗さを

    • 『水は海に向かって流れる』の榊さん

      祝・映画化。 どちらかというとまだ知る人ぞ知るといった作家さんなので、周知されるきっかけが増えるのは喜ばしいことですね。 主演も広瀬すずさんと。 という訳で元々田島列島さんと原作のファンだったので観に行きました。 言ってしまえば原作ファンからするとあまり……。 そもそもがわりと独特な作風なんですよ。 ひょんなことから高校生の男の子とOLのお姉さんが、相手が親の不倫相手同士の子どもだと知ってしまうというヒューマンドラマなんだけど、基本的には雰囲気が前編通してゆるくユーモアをま

      • 生者の特権

         同級生の訃報を知らせるメールを、受け取ったおよそ一か月後に開いて考えたことは弔問をしようかどうかだった。 挨拶をしたい気持ちと対面したくない気持ちとが半々。 否定的な感情が混じっていたのは、故人にとって私は対面したい人間ではなかったから。  面識ができたのは中学校から。でもあの頃って、制服の中に自分の実存そのものが押し込められているようで、誰にとっても難しい時期じゃない。 例にもれず私もそんな具合だったというか、もっとひどくて、とにかく自分に自信がなかった。 いじめられて

        • 映画 『アデル、ブルーは熱い色』と『Hermano』

           上映当時に友人と見に行った時はいささか妙な映画だと思ったけど、もう一度観てみると印象が変わる。 中でも楽曲との組み合わせが非常に効果的に使われているところが目についた。 まず冒頭、文学の講義が運命的出会いについて語る。 アデルがエマと交差点で出会う際に、ずっとメロディーを奏でているスティールドラム?がエンディングの前でも流れていて、前半と対峙するような関係になっている。 アデルとエマは出会ったけど、ラストでアデルを追ったけど見失ったアラブ系の俳優との差異はつまるところそ

        『逃亡くそたわけ』と逃亡くそたわけごっこ

          「ドラムス、澤”sweets"ミキヒコ」

          琴線を揺らす何かを摂取しながら、あまりよろしくない行為に耽ることが好きだ。 私はそれを虚無への供物と呼んでいる。 『虚無への供物』とは元々、中井英夫のミステリー小説のタイトルだが、「これもまた虚無への供物かカンバスに氷沼蒼司の頬を殺ぎつつ」という短歌を見つけて以来、身勝手な解釈が離れなくなってしまったためだ。 本に漫画に映画と、心を揺さぶる媒体は幾つもあるけれど、行為をしながらの摂取となるので必然的に手と目の空きやすい音楽がいつも供物となる。 生きることに苦痛を感じがちな私

          「ドラムス、澤”sweets"ミキヒコ」