見知らぬおばあちゃんと手つなぎ散歩

神戸に住んでいた頃、ふと思い立ち姫路城に行ったことがあった。

城へと続く坂を登っていこうとすると、坂道の下でぼっーっと上を見上げているおばあちゃんが目に留まった。

いったん登りかけたが、なぜか気になって戻り「どうかしたんですか?」と声をかけた。普段はあまりそんなことしないのだけど。

どうやら坂の上にお参りしたいお墓があって、でも疲れてしまってどうしたらいいかわからなくなっていたらしい。

「じゃあ手を貸しますから一緒にそこまで行きませんか?」となぜか自然に手を差し出した。普段はあまりしないことなのに。

おばあさんも「お願いできますか?」と素直に手を差し出したのでその手を握り、一緒に坂道を登った。

お墓参りを終えた後も、なぜか手を繋いで一緒に姫路城を散歩した。おばあさんの半生を聴いたり、僕の仕事のことを話したり。

不思議な時間だった。

帰り際、お礼がしたいと住所を訪ねられた。

「そんなお礼なんて」と伝えたが、どうしてもと言うので教えたら後日丁寧なお礼の手紙が来た。

「怪しまれるかな」「かえって迷惑かな」という疑念や危惧に邪魔されることなく、自然に生まれた善意が、ごく自然に受け取られ、最後にまたこちらに帰ってくる善意のループ。

「ありふれた奇跡」という言葉を思い出した。

できればこんなありふれた奇跡が多い人生だといいな。


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