チート転生したけど転生先はテラだったseason2-3

○これまでの話

 主人公はある日倒れ、転生の女神によってアークナイツの世界に転生してしまった。
 それは、極東の南朝側、那古市に拠点を置く天鳳会の若き組長、稲葉みおとして。
 町奉行の里中詩子や組の仲間と共に、敵対するヤクザと守護人奉行の陰謀と戦い、一応の決着が付いた。
 話は変って、濱藤市の剣術道場師範である矢代孝四郎は、親友を訪ねて那古市にやって来る。
 そこで亡くなっていた親友に一振りの刀を授かる。
 同時に、彼は鉱石病に感染してしまい、ヤクザの世界へと身を投じる。
 みおの旅行に同行して、かつての弟子に再会した矢代だが……

○本編

 帰りの車内は賑やかだった。
 いつの間にか二人は打ち解けている。
 アヴドーチャ・レザーペンの話で盛り上がっているのだ。
「え!? なんでそんなこと知ってるの?」
 と、組長がしばしば突っ込まれているけど、本当に組長は謎の情報網があるから侮れない。

 三倉先生は組長の屋敷にそのまま居候してしまった。
 書き物の方は順調らしく、それと平行して密輸のことも調べている。

 私はと言えば、弟子のことがずっと引っかかっている。
 那古市に戻って暫くした頃、一通の手紙が舞い込んだ。
 弟子――の弟子からの手紙だ。
 どうやら彼の娘は重篤な病気になっているそうだ。
 手術が必要らしいが、その費用がとても払える金額ではないそうなのだ――そして、金策に関してどうもよくない仕事をしていそうだとも言うのである。

 「カネは用意するから早まらないように」と伝え、私は親友から託されたあの刀を手に持ち街に出た。
 古物商を巡るのだ。

 しかし、思ったほどの値段にならない。
 足りない、それでは足りない。
 言葉を尽くして刀の魅力を語るが、「南朝ではあまり高く売れないよ」と言われるのがオチだった。

 ここが最後と入ったのは怪しい古物商だ。
 少なくとも町奉行に届けのないので、まぁ色々とお察しである。
「ほぉ……"邦政"ですかぁ。普通の商人なら渋いでしょうな」
 男はニヤリとした。
「普通に売るつもりでしたら、そりゃぁ他と同じだけしか出せませんな」
 と勿体付けて、「普通に売るつもりならね?」と顔を近づける。

「お客さん、"邦政"作の刀はね……曰く付きなんだよ。
 北朝に愛用者が多いんで、南朝じゃ態々欲しがる人はいない。
 しかも、作者が隠居しちまってここ数年、見つかってないんだよ。
 この意味がお分かりか?」
「つまり、その……」
 言葉に詰まりながら訊ねる。
「皆まで言わなくていい。こっちも仲介しかできないしね。ただ一つだけ約束できるのは、こっちの取り分を含めても、お客さんの言い値ぐらいは出るってことだよ」
 男はニコニコしている。
「また連絡するよ。その時にまでハラを決めて貰えればいい」

 店を出た。
 誰かにつけられていやしないかずっと気になった。
 弟子に「道を踏み外すな」と言っていながら、自分もその提案に乗ってしまいそうだ。
 駄目だ駄目だ! ボディガードが北朝に刀剣を売っていたなんてバレたら組長にも迷惑が掛かる!

 相談するなら今すぐだ! 今すぐにだ!
 その日の夜、組長は三倉先生、それと部屋住みの子と談笑していた。
「組長、お話しがあります!」
「何? 人払いした方がいい?」
「隠す事はないので大丈夫です!」
 自分が思い切りが悪い方であるとは思ってないが、それを差し引いても思い切りのいい話だ。

 組長に事の経緯を話してすっきりしたかった。
 勿論、組長に金を出してくれという事は口が裂けても言えない。
「面白そうな話ね」
 話に乗っかったのは三倉先生である。
 そして組長も「じゃぁ、矢代先生、紫苑ちゃんの取材手伝ってよ」と笑っている。
「刀剣の密売ですよ?」
「ヤクザが密売なんかにビビってどうするの?」
 正論とは思えない正論だった。

 それから準備に取りかかる。
 組長の義理の弟が電子的な小細工が得意らしく、柄の中に発信器を詰め込んだ。
 サユリの娘のユカリと言う忍者が渡した刀を追跡してくれる。

 話が決まると町奉行が呼ばれる。
「また面倒なことするつもりなの?」
 お奉行は流石に嫌そうな顔をしている。
「囮捜査はできないんでしょ?」
 あくまでも文民警察なのだから突飛なことはできまい。
「できないけどさ、あんたらがしたら私、逮捕しなきゃいけなくならない?」
「その辺は上手くやってよ!」
 組長が無茶を言っている。

 お奉行は真剣な顔をして言うのだ。
「少し前、濱藤で大規模な手入れがあったの。でも情報が漏れたのかもぬけの殻だったそうなのよね」
 更に名取家に潜伏した隠密廻り同心によると、どうも名取家が関わっているという。
 濱藤の守護人奉行、名取彰久氏は名君の誉れの高い人である。実際、彼の倅の剣術指南をしていたときの彼の印象は威厳もあり、自分に厳しく民に優しい人である。
 そして、名取家の話が出てきて思ったのは、その息子の――つまり私が剣術指南していた方だ。

 名取史久。
 何かと問題を起こす男だった。
 小悪党とよく連み、様々な事件を起こした。
 殺人だって本当は幾つもしていただろう。
 私が剣術指南役を辞める事になった事件は、カネや権力でもみ消すのが難しい相手だったのだ。
 勿論、守護人奉行という役職故に、父親に頼れば出来るだろう。それを父親が許さなかった。それだけである。
 私が身を引いたのは、これ以上彼の悪行に手を貸したくなかったからだ。
 だから思い出したくない事は多い。

 組長のことだから私が剣術指南役をしていた事ぐらい分かっているだろう。
 組長はその事には触れず「大丈夫?」とだけ聞いて来てくれた。
「大丈夫です。何れ決着をつけなければならない過去ですから」
 そこまで言うと、「ヤクザらしくなってきたねぇ」と笑った。

「はぁ、やっぱり名取家に行き着いちゃうのね……」
 三倉先生は嘆息した。
「私の方でも怪しいと思ってたというか、それっぽい証拠持ってるんだよね。
 やっぱりアレは名取家の跡取りかぁ……」
 濱藤にいて名取史久の悪行は知らぬものはいない。だが同時に、刀剣密売に手を染めている証拠なんてもの、目の前にあって掴むつもりの人間なんて三倉先生ぐらいなものだろう。

「ある物流企業の荷動きなんだけど、定期的に行方不明になっている。
 例えば濱藤と都はトラックで二日。天候不順とかあっても三日ぐらいで荷物を運べる。
 それが五日間もかかっている。
 しかも、移動都市を出た時と入る時の重量が違う。
 毎回荷崩れを起こした為と言ってるけど、そんな運送屋誰が使うと思う?
 でも使っている。それが名取家の資産管理会社の名取商事」

 そりゃぁこんな情報を持っていたら、命も狙われるだろう。
「真っ黒じゃない!」
 組長が楽しそうだ。
 お奉行は「そういうのきちんと太政官に伝えてよ……」と頭を抱える。
 それを聞いて三倉先生は「えー。だって、私が都に送った忍者、結局行方不明だよ」とむくれていた。
 その忍者が寝返ったのか、それとも殺されてしまったのかは判断が付かない。
 しかし、それぐらいのことはあるだろうなと思った。

 なにはともあれ全員の腹は決まった。
 程なく売人から連絡が来た。
 しかし、それにしてもどうやって三倉先生を連れて行くものか?
「一人だけ連れて行きたいヤツがいる。俺の娘なんだが……元を言えば娘の作った借金を返したいんだ。
 自分の責任ぐらい自分に負わせたいだろ?」
 売人は渋っていたが"邦政"の未発見作ともなれば大変な値段になるのは分かっていた。
「仕方ねぇな。おかしな動きをしたら殺すぞ」
 と脅された。

 指示された場所に行くと、分かりにくいところにメッセージが残されている。
 指示に従うと別の指示が。
 何巡かそう言うやり取りをしてうんざりした。
 だが腐ってはいられない。

 最後の指定場所に行くところで一人の変な子供に出くわした。
 ヴァルポの小学生で「おじさんたちどこ行くの?」と訊ねてくる。
「関係ないよ。危ないからどっかいきなさい」
「危なくないよー」
 あぁ、面倒くさいガキだな。
 そう思っていたら三倉先生は「お願いだからね」と飴を渡して追い払った。

「厄介だな」
 私がため息を吐くと「でも可愛い子だった」と三倉先生は笑っている。
「わかっているのか? これからアレだぞ?」
「分かってるよ!」
 三倉先生は口を尖らせた。

 指定場所は座敷のある茶屋である。
 人の気配がしてないので貸し切りなのだろう。
 そこにいたのは用心棒らしい男とヤクザ風の男が二人だ。
 刀と脇差しを床に置き、合い言葉を交わし、こちらは刀を見せる。
 すると相手は龍門幣の詰まったアタッシュケースを見せた。

「刀を見せて貰おう」
 私は戸惑いなく渡す。
「エラく肝が据わっているな」
 ヤクザ風の男の偉そうなヤツが顎を撫でつつこちらを値踏みしていた。
「今更ガタガタできねぇだろう」
「そりゃそうだな!」
 もう一人の若いヤクザが笑っている。そして三倉先生に視線を移すと「そこの女、借金こさえて頸がまわらないそうだな。なんだ、男か?」と嘲笑っている。

「それで刀の方はどうなんだ?」
 私が促すと、偉そうな方が刀を袋から出して中身を吟味する。
「ほぉ。これがそれか……"邦政"らしい美しさ」
 男は目釘抜きを取りだし、刀をバラしていく。
 刀身の茎に切られた銘を確認して「確かに邦政の作だな」と頷く。
 そして「取引成立だ」とアタッシュケースを手渡してきた。

 何処で手に入れたのかなど、余計な事は聞かれなかった。まぁそんなことを聞いてトラブルになっても笑えないからな。
 とにかくまぁ、アタッシュケースいっぱいの龍門幣を手に入れた。
 別に"南朝円"が使えない訳ではない。だが、足が付くのを嫌がる連中は龍門幣を使うのだ。
 明け透けなことを言うなら、北朝と南朝の境界で、下手に南朝円だの北朝円だのが出てくるのは、何かあった時にマズい。だからこその龍門幣なのである。

 ユカリさんは何処に潜んでいたのだろう? 一切姿は現さなかった。
 まぁ忍者だからそんなものだろうが。
 兎にも角にも取引の後、刀がどうなるかと言うのが一番のキモである。

 商談が終わり茶屋を出ると、再びあのヴァルポの子供がいる。
「あ、おじさん! 荷物変ったね?」
 めざといガキである。
「おじさんは大切なことをしてるんだよ」
「ほんとにぃ?」
「本当だよ!」
 そう言って聞かせようとした。
 子供は「その鞄、大切にしておいた方がいいと思うよ!」と捨て台詞のように言うと、笑いながら走り去っていった。
 なんなんだあれは。

 その後、ユカリさんからは定期的に連絡が入るが、那古市下層部の倉庫に入ったままだという。
 いつ運び出すのだろうか?
 それとも"秘密の通路"的なもので出し入れしているのだろうか?

 相手の出方が分からない以上、どうしようもなかった。

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