近所のたこ焼き屋の話(名古屋で商売するということ)

 もう開店から一ヶ月ぐらいなので、雑感をつらつら書く。

立地

 先ず立地だけど、浄心駅の地下鉄出口目の前と言う好立地。場所は狭いが作って売ると言う流れには十分な広さだ。
 だがここ、今の建屋になって、パン屋、たこ焼き屋、海鮮丼屋とあって、みな二、三年で店を畳んでいる。
 以前、たこ焼き屋やってて、そこも割と短期間で畳んでいる。
 そこはまぁ美味かったし、値段も普通ぐらいだったけどという感じだったのだけど。

 事情は色々あるが、先ず浄心という土地がどんなところかという話だ。
 浄心界隈とはどういう土地かと言うのにも触れておこう。
 名古屋駅までバスで10分ちょい、オフィス街の伏見は地下鉄で5分。栄もバスで行ける。地下鉄でも乗り継ぎよければ10分程度だ。まぁ交通の便がいい土地と言える。
 バスの車庫もあるので始発のバスも多い。一番早い電車と遅い電車はここが始発で終点だ。
 表通りを歩けばマンションが目につく。実際、転勤組や単身赴任が多い。ただ、一本奥に入ると割と住宅街だ。
 しかも、そこそこのデカイ屋敷が点在してて、何と言うか、古い街である。
 近くに高校や中学校はある。これはアドバンテージかも知れない(が、それが期待できない理由は後述する)

客層

 浄心で続いている店を調べれば分かるが、大抵は地元密着系か然もなくば、本体がデカめのチェーンかのどっちかだ。それが街としてアリかどうかは兎も角、店をやっている人はかなり横の繋がりを気にしている。
 これは浄心の居酒屋に入れば空気感が見えてくる。かなりディープな個人情報がやり取りされている。
 そういう辺りで店の価値が決められていくところがある。

 先に言ったとおり、転勤組や単身赴任が多いので、そう言う人だけターゲットにしているなら、そう言う繋がりは不要だ。
 だが考えて欲しい。そういう商売は、常に新規獲得が必須で、その上、普通の方法では目立てない。
 飲食店なんて、あちこち巡って美味い店を見つける人間というのは少なくて、ネットにせよリアルにせよ合法的な商売で、特別な立地でもなければ口コミはかなりのボリュームになる。(何処の店でも入れば同じクォリティと言う安心感のあるチェーンなら話は別だが)
 どこで店を出すにもそうだが、飲食店って、飲食店の繋がりがあるからこそ継続できるし、そこを適当にやって失敗してる人の話はよく聞く。

 例外は確かにある。
 肉屋が自分の所の牛肉でハンバーグ作るとか、魚屋が寿司屋始めるとか、明確なアドバンテージがある場合だ。
 この店は、後述するがその可能性がほぼない。

 先に述べたが、同じ場所でたこ焼き屋をやっていたが続かなかった。
 これも後述するが、恐らく先の店の方がたこ焼き屋としてやってきた経験はあるし、味やボリュームもよかったと言える。
 それでも潰れたのは何故か? 勿論、店側の事情や大家がどうこうと言う可能性は否定しない。とは言え、フラットに考えて、大きな需要がなかったと言える。
 何故だろうか?

動線

 浄心という土地は、そこを目的地にする用事がなければ、とりわけ行く用事のない土地である。目立った歓楽街も遊べる施設はない。
 先に述べたように、名古屋駅や栄、大須へのアクセスが良いので、地元の人間も通勤通学してくる人も、浄心で遊ぶことをしないのだ。
 中高生なら名駅も栄も大須も、自転車ですぐの距離だ。
 また、とりわけ乗り換えとしての需要は多くない。
 名古屋駅からバスで来る人は、そのまま浄心を通り越して、西区の北の方や北区の方へと抜ける。地下鉄でも通り過ぎるばかりだ。
 栄からのバスは、西区をグルグルして栄に戻る。
 要するに、地下鉄からバスに乗り換えるのに都合のいいルートが全く設定されていない。
 つまり、浄心は何処かへ行くには便利だが、経由地としての価値はほぼ皆無だ。
 浄心終着の終電は0030を過ぎていて、意味があるのはタクシー運転手ぐらいだ。朝まで飲むなら浄心じゃなくても良い。

 じゃぁ、高校生はどうなのだろうか?
 それは浄心駅という構造が問題になる。
 浄心駅はホーム直で改札があるので、連絡通路で上り下りするのを苦にするなら、交差点を渡って行き交いする必要がある。
 お店は浄心の交差点の東にあり、浄心から北へ行く路線は西にある。
 そして重要なのは、浄心は名古屋の中心部の外れ、北西部にある。
 浄心界隈の高校生の生徒について、正確な情報を持っていないが、格別の理由がない限り、南東方面から通う人は多くあるまい。
 市街地を突っ切って遠くに行くより、同レベルで近くの高校ならありそうだからだ。(流石に中心部に高校と言えば通信制ぐらいしかない)
 また、先に述べたとおり名駅がバスで便利に行ける。そしてそのバス停は西側に集中している。
 先の高校生が学校帰りに東側の入り口を使う可能性は多くない。
 実際、交差点東側のセブンイレブンよりも、西側のファミリーマートの前で屯してる高校生の方がよく見掛ける。

お店

 そうして漸く店の感想について述べる。

 開業当初、前に3人ぐらい待ちの状態で20分待ちとか言われた。時間は平日の16時過ぎ。そんなに混み合うような時間ではない。

 流石に7月のあっつい日差しの中20分も待てないし、時間を潰すような場所もない。浄心にはちょこっと遊ぶと言うのに適した施設がないからだ。
 なので、20分待ちとか言われたらみんな諦める。僕も諦めた。
 仕舞いには、何トライかしたとき、「何分待つ?」と聞いてガン無視された。
 店の前で待ってるじぃさんに「自分で20分ぐらいだからもっと掛かるよ」とフォローされたぐらいだ。
 そういう訳で、半月放置した。
 半月放置したら、誰も並んでないのよね。本当に誰もいない。
 そう、半月でこの周辺、「あそこは待たされる」と言う噂が蔓延したのである。
 態々遠くから来る土地でもないし、そう言う種類の店でもない。
 地元の人間が行かないと、もう、そこから行く人はいないのだ。

 オペレーション面について述べよう。
 この店の商品はたこ焼きと一挺焼きの鯛焼き。あとハイボールとかジュースだ。恐らく冗談だが、売り切れ商品にドンペリ3万円がある――券売機が千円札と硬貨だけなので、これを真面目に買おうとするなら大変な目に遭うだろう。
 間口は狭い店ではないが、保温器と券売機、それと鯛焼きのお陰でメインのたこ焼き器のスペースが信じられないぐらい狭い。
 近頃は一人でオペレーションしてるが、20分待ちと言われた時でも2人でやっていた。
 並のたこ焼き屋に行けば分かるが、梅田地下にあるワンオペでやってるようなちっこいたこ焼き屋でも、あちらで焼き、こちらで仕込みと、多数のたこ焼き器を活用している。そうやって回す事ですぐに焼きたてを提供する仕組みを作り上げている。
 注文されてから焼き始めて……なんてスローフードをたこ焼きに求める人間などほぼいない。

 流石にマズイと思ったのか、途中から焼き置きをする様になったのだけど、ソース掛けたりマヨネーズ掛けたりするのがすんげぇまどろっこしくて、見ていてヒヤヒヤするレベルだった。
 焼き置きの買っても五分ぐらい待たされた。

 さて、たこ焼きは小ぶりの玉が8個で500円。
 微妙な感じである。
 大きさが所謂名古屋風たこ焼きの大きさで、味は普通のたこ焼きと言うちぐはぐな存在だ。
 名古屋風たこ焼きは、源流は大阪らしいのだが、醤油が混ざった液で焼いているので何も掛けなくても上手い。全体的に小ぶりで安価という感じだ。
 このお店のたこ焼きは、マヨネーズたっぷりで、まあ美味しいは美味しかったし、信号一つ前がコンビニなので、すぐ帰るならコンビニでビール買って、たこ焼き買って帰るルーチンというのはアリだったのだろうけど……

 お値段感なのだけど、結構小ぶりなので、2パック買わないと物足りない。酒飲み前提で話してしまうが、コンビニでビール買ってたこ焼き2パックなら1500円弱なのだが……近くの立ち飲み屋で中瓶一本と串モノ何本かと同じ値段だ。浄心には立ち飲み屋が二つあるので、ちょっと引っかける方ならそっちの需要があるだろうし。

種明かし

 後々になって知った事だが、某大学の経営学部だかなんだかの実習らしい。

 ちょっと待って! 俺みたいに、前線そっち側の素養がない人間でもこれぐらい分析できるのに、なんでそういう分析もせずに始めたの!?
 賃料と駅前ってだけで場所選んだだろ!?
 店始めるなら、周辺の店と嫌でも顔を合わせるんだから、少しは話したら? ちょっと飲み食いして話聞くだけで色々分かるよ? なんでそれしないの?

 作業の効率化、立地の研究、業態の研究。
 経営学として、店を経営する前に沢山教えるべきコトがあったのではないか?
 恐らく学期が終わる来年までやるのだろうけど、そんなコトに付き合わされた学生が可哀想だ。
 経営学を教えていると言うなら、きちんと店を出せるほどの知識を教えてやれ。お前は本当に経営をした事があるのか? 経営学だけで経営してないとかないよな!?

 しかも遅ればせながら登場した公式サイトと公式Twitterアカウント……なんか低評価に病みツイしてるし、マジ大丈夫か?

 君らは大変な思いしてるかもしれんが、客はいっぺん無視されたら延々それ覚えてるからな。
 大須の古参喫茶店、おめーもだからな!

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