チート転生したけど転生先はテラだったseason2-4(最終回)
○これまでの話
主人公はある日倒れ、転生の女神によってアークナイツの世界に転生してしまった。
それは、極東の南朝側、那古市に拠点を置く天鳳会の若き組長、稲葉みおとして。
町奉行の里中詩子や組の仲間と共に、敵対するヤクザと守護人奉行の陰謀と戦い、一応の決着が付いた。
話は変って、濱藤市の剣術道場師範である矢代孝四郎は、親友を訪ねて那古市にやって来る。
そこで亡くなっていた親友に一振りの刀を授かる。
同時に、彼は鉱石病に感染してしまい、ヤクザの世界へと身を投じる。
みおが目を掛けている作家先生や、弟子の問題から、刀剣の密輸問題へと繋がっていく。
○本編
ユカリさんから「動きがあった」と言う連絡があったのは一週間近く経ってからだった。
名取史久が秘密の通路から、那古市に入ったと言う。
移動都市というのは複雑なモノで、改造を施していく間に、さまざまな秘密のルートが生まれるものである。
政府が行う場合もあれば、何らかの権力者が行う場合もある。
いつぞの"赤備え"に関してもこういうルートを使って侵入している。
或いは意図せず忘れ去られるルートだってある。それを見つけ出して売りつける商売だってあるぐらいだ。
どんな都市でも、そう言うガバガバさ具合はいくらでもあるのだ。
さて、そんな迷宮のあるルートを使って、名取史久と幾人かの北朝の人間が入ってきているそうだ。
それを聞いて組長は膝を叩く。
「よし、行こう!」
とは言え、ヤクザがこぞって下層部へ向かえばいくらなんでも目立つ。
私と組長、三倉先生、サユリで向かう事になった。
「まぁ、相手も目立ちたくないだろうし大勢はいないでしょう」
組長は楽観的だった。
「例の事件って、マジどうやって中継したの? 隠しカメラなんかあったらすぐバレちゃうでしょう?」
「だから秘密だってば」
三倉先生と組長がじゃれついている。
「しかしナンだねぇ。剣術のお師匠さんが密売人狩りに行くとか面白い世の中だねぇ」
サユリさんが突っかかってくる。
「自分もこんなことになるだなんて思ってもなかったよ」
感染者になるとも思ってなかったが、様々な縁が絡み合っているものだなと、世の不可思議に畏れる。
下層の倉庫エリアまでは車で入れる。そこから作業用エレベーターを降りたり、階段を伝ったりしながら目的のエリアまで辿り着く。
「監視カメラとかあるんじゃないのか?」
「そう言うのは大丈夫だから気にしないで」
組長はやけに自信満々である。
そういう訳で、密売人のいるところまで扉一つという所までやってきた。
息を殺して会話を聞く。
きっちり録音までしている。
話は刀や弓について得々と語る商人がいて、名取史久と北朝の商人がそれを値踏みしたり、褒め称えたりしている。
北朝の話題も度々出ていて、証拠としてはなかなかのものが手に入った。
録音したモノはそのまま"匿名の情報提供"として町奉行へと流し込まれている。
さてどうしたものか、躍り出て捕縛という手もあるが――その時、がらりと扉が開いた。
それは向こうからではなく、こちら側から。
目を向けると、いつだったかのヴァルポの少女である。
「やぁやぁ、密売人諸君!」
何やってるんだ! と言うのと同時に、何故気付かなかったのか!? と言う思いが胆を冷やした。
「面倒だ、殺せ」
名取史久の指示で何人かが動く。
流石に子供が殺されるままにされる訳にはいかない。
我々も飛び出ていく。
「殺されるのは君たちの方じゃよ」
何を見得を切ってるんだ、このガキは!?
刀を抜いた一人が幼女に斬りかかる。しかし手品を見ているように後ろに回り込まれ、短刀で背中を一撃したのだ。
「おい何やってる!」
名取史久が号令すると、他の連中も動き始めた。
彼等は当然私達にも襲いかかり、組長とサユリは三倉先生を庇いつつ戦い、私は名取史久に迫ろうとしていた。
名取史久と北朝の売人はその場から逃げようとしている。
私は邪魔するものをなぎ倒し、幼女はするすると避けつつそれを追っていく。
「お前は何者だ!」
幼女に声を掛けると「なかなかの腕じゃの」と笑うだけだった。
そんな我々を阻む者が現れた。
「おまえ!」
絶対に見間違えることのない我が愛弟子。
「先生、こんな所で会いたくありませんでした」
彼は刀の柄に手を掛けた。
その時、例の幼女が「あとは妾に任せよ!」と叫び、立ちはだかる弟子をするりと避けて、名取史久の方向へと走っていった。
「お前、その刀を抜いたらどういうことになるか分かっているか?」
「覚悟の上です。然もなくば娘の命はないので」
食いしばっている彼は微かに震えている。
「逆賊の娘として生きることがどういうことを意味するか分かっているのか?」
「死んだら何もありません!」
泣き叫ぶように訴える姿は痛々しい。
「他に道はなかったのか?」
呟くように口にした私の言葉は、彼には届かない。
「よし、わかった」
私は刀を握り直す。
彼も刀を抜いた。
精神を研ぎ澄ます。
"その瞬間"こそが全てである。
相手の息づかい、心臓の鼓動。
全てが噛み合った瞬間、全ては決着が付いている。
私の刀の切っ先から血が滴る。
「妻と娘をよろしくお願いします」
彼はその場で倒れた。
後味が悪い。それだけだった。
例の幼女は、三人の売人を捕縛し、それを一人で引っ張って来たのだ。
「済まぬな。本命を取り逃した」
大人びた表情とあどけない笑顔のコントラストが激しい。
ひと段落した所でお奉行が部下を引き連れやってきた。
気付けば幼女はいない。
お奉行は上手くやってくれた。
シマを荒らしたヤクザとの抗争がうっかり密売を引き当てたという結論を引き出したのだ。
死んだ連中は、先に斬りかかってきたということで正当防衛扱いされた。
名取史久はどうなったか?
濱藤まではユカリさんが追跡してくれた。
自分の屋敷に逃げ込んだそうだ。
そして、その直後、名取家は名取史久が事故死したと発表した。葬儀では遺体が確認されているから、偽装ではなさそうだ。
名取史久が事件に関与したという事実は未だに伏せられている。
恐らく、当主が決着を着けたのだろう。
それにしてもあの幼女は何だったのだろう?
三倉先生が答えらしいものを持っていた。
「露霧衆って知ってる? って知らないか……」
帝直属の特殊部隊だという。
実力も顔も一切不明。細かい情報が漏れることはない。
露霧衆と言う言葉自体、正しいかどうか怪しいレベルだという。
「一説には不老不死の人間が動いているとかなんとか」
そんな馬鹿な事はあるかよと思ったが、組長は何かしら心当たりがあるような顔をしている。
弟子の娘はどうなっただろうか?
みな落ち着き、元の生活に戻った頃、一人の老人が組事務所に訪れた。
守護人奉行、名取彰久氏である。
これは流石に平伏せざるを得ない。
「此度の件、迷惑を掛けてしまった。
詫びと言ってはナンだが、道場は再び君に任せられないだろうか?」
「滅相もない事でございます! 感染者、それもヤクザモノが師範では皆に迷惑が掛かります。それよりも、私の愛弟子の娘を助けてください! それだけで何も言うことはありません!」
必死だった。
こんな失礼な要望が通るとは思えなかったが、言わないではいられなかった。
名取様は「その事なら気にするな。すでに手術が決まっているからな」と笑った。
「お主の心意気はあっぱれと言わざるを得まい。
道場のことも任せるといい。
もう一度礼を言わせてくれ。
君たちのお陰で家が守られたのだから」
それから定期的に娘から手紙が届く。
彼に手を下したのが私だと知ったらどう思うだろうか。その点は心苦しいが、回復していく姿を喜ばないではいられない。
三倉先生は「あんたたちといたら楽しそう」と居候を続行中である。
サユリ、ユカリ親子は、稲葉家のお抱え忍者として働いている。
そして私は――相変わらず組長のボディガードである。
「さぁ、今日も一日頑張りましょう。
こんな世界だけど、少しはよくできるよ。きっとね」
組長の明るさも今まで通りだ。
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