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鉄道150年特集バックステージ④・「世界戦略商品」の元祖は蒸気機関車だった

月刊『東京人』2022年月号「鉄道をつくった人びと」特集に寄せて

世界的に半導体不足が叫ばれています。特に自動車用半導体の不足は深刻で、新車が計画通り生産できず、中古車価格が高騰するなどの影響が出ています。コロナ禍で東南アジア諸国の半導体工場の稼働停止が相次ぎ、国際的なサプライチェーン(調達網)が寸断されることで、世界の産業に影響を与えているのです。

かつてわが国では「半導体は産業のコメ」と言われました。競争力の強い戦略商品を生産できれば、サプライチェーンで優位が保てる。1980年代に唱えられた「電子立国」で唱えられ、日本経済を押し上げる原動力となりましたが、その前に産業のコメと言われていたのは鉄鋼でした。現在60代〜50代の読者のみなさんも小学生の頃、社会科の教科書や資料集でそういった記述を読まれたことがあるのではないでしょうか。

日本が明治維新を迎えた19世紀なかば、蒸気船の登場で世界的に航路が確立され、グローバル市場が生まれました。そこでの「最初の工業製品における戦略商品は蒸気機関車だった」ことを明らかにされたのが東京大学社会科学研究所の中村尚史教授の研究で、『海をわたる機関車 近代日本の鉄道発展とグローバル化』(吉川弘文館)にまとめられています。

最初のグローバル市場を制したのは、やはり産業革命が起きたイギリスでした。次いでアメリカ製、さらに1900年に近くなると、技術力でドイツ製機関車が市場で台頭してきます。世界の機関車市場は英・米・独の競争状態になったというのです。

日本の鉄道開業時に用意された10両の蒸気機関車は、御雇い外国人を派遣し、鉄道システム全般とセットで売り込んだイギリス製。やや遅れて北海道官営鉄道や関西鉄道、官設鉄道にアメリカ製蒸気機関車が、そして日露戦争前後から、ドイツ製機関車が日本に輸入されるようになります。蒸気機関車や鉄道史に興味のある方の頭には入っている知識だと思うのですが、それがどんな意味を持つのか、原稿を書いていただきたいと考えたのです。「第一次グローバル経済と機関車市場」で、グローバル経済という観点から紐解いていく中村先生の筆致は大変刺激的です。

そして、急速に技術を吸収して国産化を果たした日本(写真は京都鉄道博物館のエントランスに展示されている、初の国産機関車230形233号〔明治36年製〕)も、明治後期から車輌製造会社が立ち上げ、機関車市場に参入していきます。その先は朝鮮と大陸中国でした。それによって機関車グローバル市場がどう影響を受けたのか、中村先生は結論部分で示されています。その「レールの先」には、おぼろげに世界戦争の影が見え隠れしていました。(偽)

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