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一回のライブでいくらかかるのか



「またチャラ男見てんのか」

「今日はチャラじゃない人見てんの」

夕食のときにいつもテレビでYouTubeを再生する。
わたしの推しのギタリストが出てるフェスの動画だ。

「この女性アーティスト、いつも出てるのにいつもバンドサポートつけないんだよね」

わたしの推しのギタリストが出てるフェスは、月に1回あり、10組から15組のアーティストが出演する。
サポートメンバーは固定で、わたしの推しはギター担当。
だいたい出演者の半分くらいはバンドサポートをつけて歌うのに、いつも出てるのに毎回サポートをつけない女性アーティストがいる。

派手な髪色をしていて、首がシュッと長く、細くてスラリとした体型。
声質は個性があってすごく良く、ビブラートがとても綺麗で、人に聴かせるための声をしている。

「めっちゃ声綺麗でしょ。これは下手なパフォーマンスいらないよ。ベースの弾き語りとかしてるんだけどね、オケで聞こえないからあんまり意味ないし。歌に集中したほうがいいのにな。バンドサポートつけて、真っ直ぐ立って前見て歌ったほうが映えるのに、なんでサポートつけないんだろうね」

「サポートつけんのに金かかるからだろ。集客ないと赤字」

「いくらかかんの?」

「知らん」

いくらだろう。全く想像できない。

「いくらかかると思う? 予想は」

「1人5000円とかか?」

ギター、ドラム、ベースで3人いるから15000円。

「30分のステージで15000円ってこと? 高すぎない?」

「それ以外にもチケットノルマあるだろ。何枚だ?」

「あー、この前15分の枠でやった人が、「チケットノルマ3枚なんです」って赤裸々にポストしてたから、30分だと6枚とかじゃないかな」

来場チケット5000円で、6枚だと3万円。それにバンドサポートが15000円だとしたら、30分のステージに立つだけで45000円かかるわけか。あくまで想像だけど。

「客がつくまではサポートつけられないんじゃないか」

それが現実なのか。アーティストの懐事情は分からない。

「えー、もったいないよ。この声、中毒性あってめっちゃ良いのに。毎回出てるんだからサポートくらいタダでやってあげればいいのにね。どうせ楽屋で暇してるだけなんだから」

「タダはないだろ」

「じゃああれだよ。初回無料!」

「初回無料……」

「身分証提示で初回無料! 60分缶物飲み放題! いつもやってんじゃん」

推しが酒飲んで酔っ払って女とデレデレしてる姿なんか、無料どころかお金貰っても絶対見たくないと思う。
そんなダサい姿は見せびらかすくせに、
なんでギター弾いてるカッコいい姿をもっと見せようとしないのだろうか。

「サポート初回無料にすればさ、アーティストも意識変わると思うんだ。またサポートつけられるようにしようって、頑張ると思うんだ。そしたらチャラもたくさんステージに立てるし、良い経験にもなるし、わたしもチャラのライブをたくさん見れる。一石三鳥だな!」

「あんた自分がチャラ男見たいだけだろ」

ええそうよ。当たり前だ。
サポートギタリストの推しを見るためにはアーティストの協力が必要不可欠なんだ。

「なんかすごい難しいんだよね。「ライブして!」って言って1人でできる人じゃないからさ。かといって、ダサいアーティストと接待ライブしてんのもムカつくし」

「接待ならチャラ男の得意分野だな」

「いやほんとそれ。勘弁してほしい。クラファンのリターンとかでもあるじゃん。ダサいからやめてほしい」

金積んだ客に「あなただけのためにライブします」っていうあれ。
スタジオライブとか言ってるけど、通称:接待ライブである。

「ああいうのってさ、他の客が「キッー!! 悔しい!! わたしも金積んでやるんだ!」って羨ましがるとでも思ってんのかね。普通にライト客はつかなくなるし、ダサいから紹介もしなくなる。ヘビー客だけ集めたいならホストでもやってろバカやろう」

「ホストだろ」

むむむ。

接待ライブは、接待ライブを受けられる客がすごい。アーティストじゃなくて、客がすごい。
目の前で大迫力でライブされたら、普通の人は恥ずかしくて耐えられない。

客1人しかいない地下アイドル現場に主人と行ったとき(合計3人になった)
先に来ていた客は、大手企業の社長だった。

「次はいつ見られるんだろうなぁ……」

わたしの推しは、簡単には見れない人だ。

一回のライブにいくらかかるのか。
客であるわたしには分からない。

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