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下手な舞台




明日から6月。
わたしが仕事で使っているカレンダーをめくると、ある日にちに「ブタイ」という文字が書き込まれていた。

「なにこれ? また舞台見に行くの? わたしもう行かないよあそこの界隈の。飽きたもん」

前回見た舞台はクソつまらなくてうんざりだった。ライブと違って舞台は、一度始まったら終わるまで出られない。足を組むのは役者さんに失礼だから、お尻が痛いのを我慢しながら2時間。金も時間も無駄にした舞台。

「いや違うんだよ。前回のとこじゃなくて、全然別のところだから。脚本もたぶんしっかりしてるし、有名な役者も出るから」

推しのために何がなんでも動員稼ぎでわたしを行かせたい主人。

「ならいいんだけどさー。ど素人が経験のために出るような舞台はもう行かないからね。時間がもったいない」


前回見た舞台は、4、5回は行ってる劇団のところのだった。
内容は「またかよ」と思うくらい頻繁にある異世界転生モノ。
前回に至っては登場人物さえも使い回し。

役者も脚本のレベルも非常に低く、客を馬鹿にしてんのかとすら思った。

異世界に何人かいて、1人ずつ現実世界に戻っていくストーリーで、戻っていった人のことは、異世界にいる人の記憶から消されるという設定。

それまで仲良くしていた仲間が、現実世界に戻って行った瞬間、残された仲間はなにも覚えてない。

「あれ? ここに今誰かいた気がするんだけど。弟のような存在と遊んでいた気がするんだけど」

という下手くそな役者の「忘れた演技」で、わたしは完全に萎えてしまった。

小説だったら登場人物の中に入り込めるけど、舞台だったらあくまで客は「外から見てる」側なのだ。

「あんたらが勝手に忘れてるだけで、こっちはバリバリ覚えてるんだけど」
という話で、その設定でやるならもう少し迫真の演技しろよと思った。

「あんたはど素人が経験のためにやってる舞台とかライブが好きかもしれないけど、わたしは違うからね。普通に上手い人のが見たいし、プロの演技が見たいの」

推しの演技は上手くても、周りが下手くそだと見栄えが悪くなる。
とんだ茶番劇。見てるこっちが恥ずかしい。

「あのレベルの舞台はもう行かない方が良いよ。そこに居座っちゃうと全然成長しなくなるから」

「今度のは別のところだからさ」

何がなんでもわたしを行かせたい主人。

「行くけどさー」

どの商売でもだいたい同じ。

客は飽きる。

飽きるというより、一旦離れる。

タネを埋めたアサガオを、張り付いて一日中見続けたってなかなか芽が出ない。

2日に1回、3日に1回、4日に1回。
どのペースで見れば、成長が感じられて面白いのか調整する。

見続けると飽きてしまう。


この曲はこんな気持ちで作りまして〜
素敵な作品になりまして〜
毎日毎日死に物狂いで頑張って〜

ど素人ほど自分のことばかり話す。


その曲を聞いた人がどう思うかが全てで、
素敵な作品かどうかは客が決めることで、
頑張ることは当たり前なのでどうでもよくて、作品が良いか悪いかが全てです。

推しの次の舞台を見ると、たしかに、テレビにも出てる芸人さんが役者として出ていた。

ど素人が経験のために出る舞台やライブを楽しむ人もいるけど、

普通に良いものが見たいわたしにとっては、推しはきっかけにすぎない。

応援ってなんだよ。

普通に、良いと思えば行くし、ダセェと思えば行かない。

お店を作ったら、周辺にどんな人が住んでいるのか徹底的に調べる。

市場調査。
マーケティング。

どんなものが求められるのか。
どんな人が来てくれているのか。
飽きさせない工夫も必要。

サービスなのか、商品力なのか。

もっとやれることあるんじゃないの?
もっと頑張れよ。

下手な役者、下手な舞台、下手なライブ。

下手だと思うものにはヒントがある。

全部、反面教師。




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