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性欲がなくて



「何の本読んでるんだー?」

主人がニヤニヤしながら話しかけてくる。
わたしが今読んでる本のタイトルを知ってるくせに。

「うっさいわ! ハゲ!」

今読んでる本のタイトルは「夫のちんぽが入らない」
よほどわたしに「ちんぽ」という単語を言わせたいらしい。

「夫のちんぽが入らない」は、タイトル通り、夫のちんぽが入らないことを悩む女性の心の葛藤が描かれている。

好きなのに。結婚してるのに。ちんぽが入らない。
セックスに問題があるだけで、男女交際が上手くいかなくなることをわたしは知っているだけに、共感しまくりの本だった。

わたしには性欲がない。皆無だ。もうずっと悩んできた。

「性欲がなくても穴があればできるだろう」なんて下品なことを言ってくる奴もいたけど、

例えば体調が悪かったり、食べすぎたりして食欲がないときに、「穴があれば食えるだろう」と言われて食べ物を口の中に押し込まれるような感覚だ。

想像すれば分かるだろう。
苦しいし、無理だし、吐く。
「性欲がない」は、それと同じなんだ。まず臭いが無理で、吐き気が凄まじい。我慢してできるものではない。

どうして普通にできないんだろう。何かおかしいんじゃないか。
普通でない人間は「普通」がどういうものかを調べまくるので、普通の人間より「普通」に詳しくなる。

AVを見まくって、「この女性たちは本当に気持ちよくて声を上げてるのか、それとも演技なのか」と、表情ひとつひとつを確認して、「全員嘘つきだバカやろう」と結論づける。人の顔を凝視するクセがついた。

セックスが好きで気持ちいいなんて言う女は全員嘘つきだと思う。
そんな女いるわけない。全員演技してる決まってる。今でもずっとそう思っている。

性に関する知識だけは人並み以上に増えたけど、経験はほぼない。

20代半ばで全ての性活動を終了させた。
わたしには無理。開き直って諦めたのだ。

この本にこんな文章があった。

「夫が風俗に行くのを私は快く送り出さなければいけない。私には、やめさせる権利はない」

そうなんだよなー。

世の中には彼氏や夫が風俗に行くのをやめさせたがる女性が多いけど、その女性たちは自分のセックスに自信があって、当たり前に相手を満足させられると思っているのだろう。

もし自分が欠陥品で、セックスが無理だと分かったら、そんな風には思わない。自己肯定感なんて皆無。

「どうか他の女で済ませてきてください」と、むしろパートナーを性的に幸せにさせられる他の女に感謝するようになる。

そして、そんな欠陥品の自分と付き合ってくれる男性に心の底から感謝する。

ごめんね。無理なの。わたしには無理だから。

受け入れてくれる男性は希少だからこそ、その男性を大切にする。

感謝感謝感謝。感謝し続けられる関係。素敵じゃないか。

「子供はまだか?」
と、周りに言われ、「ちんぽが入らないのです」と言えるわけもなく、周りは病院を勧める。

まだ大丈夫よ。若いから。
40でも産む人いるんだから。焦らないで。

あー、うっざ。


自分が普通と違ってて、受け入れられないと知っている。

知っているから、人とは適度な距離をとる。
わたしはあなた方には共感できないし、わたしも共感してほしいなんて思わない。

「夫のちんぽが入らない」
とてもとても素晴らしい本だった。



「今度の周平くんのライブ行くのか?」

「なんで周平くんって呼んでるの」

「周平くんって書いてあるだろ」

指さす先には、壁に飾られた推しのうちわ。

わたしの推しのギタリストのことをいつも「チャラ男」と呼んでいた主人は、「周平くん」うちわを作ってからは、「周平くん」と呼ぶようになった。

「ライブは気が向いたら行く」

「周平くんに会いたいんじゃないのか?」

「周平くんは見てるだけでいいの」

推しは推しているだけで幸せだ。
わたしの心の内側には入れない。入れさせない。絶対に共感させない。

推しと、家族は全く違う。

改めて「ちんぽが入らない」ってすごいなと思う。
そんな女を受け入れる男もすごいと思う。

セックスで繋がれなければ、精神的な部分で繋がればいい。

「ちんぽが入らない」なんて言えるわけがない。

仲良く見えても問題を抱えてる。
その問題を振り切って仲良くしてる場合もある。

他人には言えない夫婦の形ってあるのだ。

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