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性的マイノリティ
「朝井リョウさんの正欲って本があるじゃないですか。あれほんとすごいですよね。マイノリティをすごくよく描いてて」
あの本を、普通の人が読むのと、マイノリティ側にいる人が読むのとでは、感想が結構分かれる。
「めちゃめちゃ好きな本です。あの本に、「水」に性的興奮を抱く夫婦が出てくるじゃないですか。セックスなんてしたことないのに、この世の中を生きていくために2人で協力して、結婚して、なんとか「普通」になろうとしてるみたいな。わたしあれ、すごく理想です」
「あの……なんていうか、聞いていいのか分からないんですけど、どんなマイノリティなんですか?」
「え」
「マイノリティ側ですよね?」
「あー……」
同性愛とか、幼児性愛とか、愛する対象が普通ではない人のことを性的マイノリティと言うのでしょう。
正欲に出てくる夫婦は、その対象が「水」なだけ。
水を見て自慰行為ができてしまう異常な性癖。
「わたしの場合は……。マイノリティというか……。ないんです」
「ない?」
「性欲が」
「え!?」
「何かおかしいんじゃないかって、高校生ぐらいのときに気づいて。でも好きな人はできるんですよ。普通に好きで、付き合うんですけど、すぐダメになって別れちゃうんです。男の人ってヤリたくて付き合うみたいなところあるじゃないですか。ハグしてキスしてその先へって。でもわたし、ヤリたくないんですよ。何がいいのか分からなくて。会ってお喋りするだけでなんでダメなのかなって」
「それ、相手に伝えるんですか? ヤリたくないって」
「今だったら伝えられますけど、そのときは絶対言えなかったですね。可哀想じゃないですか。相手はわたしのこと好きでいてくれてるのに。だからだんだん会わないようにするんですよ。デートしても夕方で切り上げたりして」
「それで相手の人もちますか?」
「もたないですよー。もって3ヶ月。早いと1ヶ月で、「俺のこと好きじゃないよね」って言われてフラれます。好きなんだけどなーって思いながら、受け入れるしかない」
「男の自分からすると、それ結構キツイです」
「ですよねー。性行為が嫌いな女性って、キスやハグは好きだったりするんですけど、わたしの場合キスもハグも無理なんですよ」
「え!? まじですか」
「キスは、口周りについた相手の唾液臭で吐いちゃうし、ハグも体温が気持ち悪くて。手を繋ぐのは好きなんですけど、1分くらいで嫌になります。意味わからないですよね。なんでなのか自分でも分からないですけど。でも将来のことを考えたらそれなりにできないとダメじゃないですか。だから1回だけヤッたことあるんです」
「それで」
「痛いし気持ち悪いだけでした。でも男の人って頑張るじゃないですか。なんとか気持ち良くなってもらおうって。それがつらいんですよ。自分の性欲の無さが異常だって言われているみたいで。3分で終わらせてほしいし、あなたのためにわたしは嫌なのを我慢してるのに、まるで「俺のテクニックでおまえを気持ち良くさせてやるんだ」っていう使命感みたいな感じで、ずーっとヤられるわけですよ。耐えられない。終わって風呂場で吐きました」
「……」
「だからわたし、付き合った男の人には浮気してほしいって思うんですよ。わたしを求められるくらいなら、他の女の人で済ませてきてほしい。その方が気楽。でも世の中はマイノリティに合わせてできてないから、浮気や不倫は100%悪じゃないですか。パートナーの男性に浮気してほしいって思う女がいるなんて、みんな考えない」
「それはまぁ……考えませんよね。」
「一応、慣れれば好きになるんじゃないかなって、頑張って練習したりしたんですよ」
「練習?」
「なんか売ってるじゃないですか。ディルド?」
「言わなくていいです」
「でも、無理なものは無理でした。ないんですもん、性欲が」
「あれ、でも結婚してますよね?」
「そうなんです。それはもう奇跡ですよ。本当に奇跡」
「旦那さんは理解してくれているんですか?」
「んー。思うところは色々あるのかもしれませんけど、理解はしてくれてます。本当に、ありがたいです。別れたらわたし、2度と結婚できないと思います。本当に良い人と出会いました」
「正欲に出てくる夫婦みたいですね」
「そうそう。なんか多目的トイレ不倫した渡部さんいたじゃないですか。すごく叩かれてましたけど、奥さんの佐々木さんは許したじゃないですか。あのニュースを見て、普通の人は「佐々木希すごい」って、不倫を許した佐々木さんのこと愛の力だとか、器が大きいとか褒めてますけど、わたしみたいなマイノリティ側の人間は思うことが違いますよ。どんなマイノリティなのかなって考えます。わたしが佐々木さんの立場だったら許すもなにも、わたし以外の女で性欲処理をしてくれてありがとうって思いますもん。他人には絶対に理解されない夫婦の形って存在するんですよ」
「想像できないなー。不倫を許せるなんて」
「旦那はわたしが不倫したら許さないと思いますけど、性欲が無いの知ってるので、体の関係には絶対にならないっていう安心感はあるみたいです」
性欲がない女を愛せる男も、マイノリティ(少数派)でしょう。
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