アンチをつける
「いやいや、さすがに最前は……。初見なので……、曲とか全然聴いてないので……」
ファンの方に招待されて行った、アイドルさんのワンマンライブ。
BAND-MAID同様、男性客が多い現場なので、色気をなくしたTシャツとジーパンで参戦。
メンバーに認知してほしくてフリフリの可愛い服で参戦する女性もいるけど、私にその度胸はない。
フロアは想像していたよりも女性客がいた。おそらく1割くらい。
「せっかくなので前で見てください。初めての人に見てほしいんです。女性がいたらみんな全力で守るので大丈夫です」
私を誘ってくれたファンの方に言われ、「本当にいいんだろうか」と思いながら最前の柵に手をかける。
押し潰されたり蹴飛ばされたり人が降ってきたりはBAND-MAIDで慣れているけど、「初見のくせに最前で見やがって」と恨まれたりしないだろうかと、そっちの方が心配で気が引ける。
初見というのもあり、ライブの感想を書けるほど、曲やパフォーマンスは印象に残らなかった。
印象に残ったのは、
1人、ずば抜けて可愛い子がいたということ。
最前なのに、誰からも突撃されなかったということ。
フロア中央では、激しく人が上げられたりしていたこと。
総合的に見て、とても良かった。
ライブ後にやってきた、私を誘ってくれたファンの方。
「どうでした?」
「すごく楽しかったです。全然押されなかったし」
「感想とか、思ったこと書いちゃっていいですから。どこが悪いかとか、そういうのも見たいので」
これが言える人はすごいなと思う。
批判的な意見。人気者になればなるほど、アンチがつく。
でも、アンチも含めて客だ。
アンチをうまくつけられないせいで、人気にならないアーティストやアイドルもいる。
なぜアンチを大切にしなきゃいけないのかというと、アンチの意見を見て、ライブに行きたくなる人がいるからだ。
いるんだよ。
「ここのラーメン美味しかったよ」と言われて行く人よりは少ないけど、
「ここのラーメンめっちゃ不味かった」って言われて、心動かされるタイプが。
そういう変態というか、天邪鬼というか、悪い意見に敏感な人種がいる。
そういう人は、実際にまずいラーメン屋に行って、思ったより不味くなかったら、
「あいつは不味いって言ってたけど、俺はそう思わなかった」
と、言いふらす。
自分独自の価値観を発見しましたくらいの気持ちでそれをアピールして、そのラーメンの虜になり、執着したりする。
もともとマイナスイメージから入ってる分、プラスになりやすい。
だから、アンチの存在は貴重なんだ。
普通のファンは、アイドルさんに嫌われたくないから、親しくなればなるほどマイナス意見を
言わなくなる。
ファンの方からの招待でチケット代はかからなかったので、「なにかお金を落とさないと申し訳ない」と思い、チェキに並ぶ。
1000円でサインなしチェキ。
2000円でサイン入りチェキ。
サインなしなら接触時間少なくて済むかなと思い、サインなしチェキを選択。
演者さんとは適度な距離でいたいタイプのわたし。仲良くなりすぎると、嫌われたくなくて思ったことを言えなくなる。
思ったことを言って嫌われるくらいなら、最初から認知されない方が良い。
もともとは二次元オタ。
「推しは見たいけど、会いたくはない」
なかなか理解されないこの気持ち。
推しが大好きで、本当に本当に大好きで、推しの幸せを願い、そして、推しが誰かを幸せにできる人間になることを願ってる。
会いたいと、見たいは違う。
わたしにとって「推し」とは、
妄想の100%を受け止めてくれる対象だ。
見たいけど、会わなくていい。存在してくれているだけで感謝している。
わたしの番が回ってきた。
「ソロでお願いしていいですか?」
「ソロでですね!」
ツーショットを撮るファンが多いけど、ありえないくらい細くて、顔も小さくて、しかも初対面で、そんな可愛い子の隣にわたしは立てない。
撮られたチェキをさっさと受け取って帰りたかったけど、1000円のチェキなのにおしゃべりの時間は設けられているようでした。
「あ! 前で見てくれてましたよね!」
「あ、はい」
「ありがとうございますー! ○○さんに誘われたんですよね! さっき○○さん言ってました!」
「あ、言ってたんですか!」
きっちり認知されててドキドキしました。
可愛かった。ほんとに。
帰宅して主人に報告。
「招待されてタダだったんだけどさ、チケ代2000円でチェキ1000円から撮れるの。なかなか真っ当な商売だよね。チェキ1枚撮ってきた」
「タダで行ってんだったらもっとチェキ撮って金落とせよ。失礼だろ」
さすが地下ドルオタ主人です。
「一応プレミアチケットが2万であるけど、グッズついたりリハーサル見学もついてたりで、ガチ勢にとっては嬉しいよね。一般は2000円だから集客しやすいし。久しぶりにまともなアイドルさん見た」
「まともってなんだよ」
「チケット1枚で写メ1枚無料でさ。チケ代2000円じゃ、チェキと変わらないじゃん。そりゃオタク複数枚買うよね。で、買った分のチケットが無駄にならないように配って、オタクが新規客を招待するの。
オタクが集客するパターンだよ。めちゃめちゃ集客路線のアイドルで、ライブも楽しいし、めっちゃよかった」
「そうか」
「金集め路線が多かったからなぁ最近。チャラの界隈のアーティストさん今度ワンマンやるんだけど、わざわざ2部制にして、通しチケット
8000円で売りつけてるよ」
「チケ代8000円ってどんなメジャーさんだ?」
「2部制だから、どんだけ長くやるのかなぁって思ったら1部40分で2部1時間。たったの1時間40分で8000円。やばくない?」
「人集まるのかそれ?」
「内部で集める感じかな。いつものフェスがさ、客の半分は演者側の関係者で、残りの半分はスポンサー客って感じなの。全員お友達を呼びましたって感じのフロアだから、まじで重い。まぁ、そういう路線だから仕方ないんだけど、わたしには合わない」
「あんた接触ある現場嫌いだもんな」
「金集め路線はさ、いつまでも好きなアーティストを同じ場所で近くで見ていたい客にとっては、すごく良いんだと思うよ。アーティストの収入も安定するし。あれだね、キャバクラとかホストクラブみたいなもんだね」
「チャラホストな」
「でもチャラは見たいんだよね。会いたいわけじゃないけどねー。見たいだけだよ。チャラがいるなら行きたいなーって。でも現場が肌に合わないんだー。チャラは最高だけど現場がなぁー」
「もういいか」
昨日見たアイドルさんは、OMGと言います。
台湾遠征が決まったそうです。
「ついてきてください!」
と言うからには、色んなとこに行ってください。
色んなところに、連れてってほしい。
集客路線で頑張ってるアイドルさん。
今後がとても楽しみです。
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