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どんどん綺麗になっていく
「ビッグニュースビッグニュース!!」
寝ている主人を叩き起こす。
「なに……?」
「白キャン解散だって!」
「え…………いつ?」
「11月」
「あー、7周年で解散か……」
バタっと力尽きる主人。
推しの解散は精神的ダメージがすごいらしい。
真っ白なキャンバス。通称:白キャン
そのグループ1番人気の小野寺梓が小野寺梓になる前から主人は推していた。
アイドルが、ちゃんとアイドルとして成功する過程を、主人もわたしも見てきた。
最初は顔もぽっちゃりで、どこか芋っぽさがあった小野寺梓さん。
「確実に努力したよねこの子」
見違えるほど綺麗になった。
顔はシュッとして、足のラインがスッと綺麗に。とくに、うち太ももが綺麗。
ライブ後の、マメなチラシ配り。
SNSは、今でも続けているマメないいね配り。
7年間。上へ上へ駆け上がりながら、どんどん綺麗になっていった。
推しのギタリストのライブ動画を主人と見ていた。
「わたしこの女性アーティスト嫌いなんだー」
嫌いなアーティストのところを飛ばして見る。
「なんで嫌いなの?」と、主人が言う。
「え、見る? 逆に好きになる要素ある? って感じだよ」
数秒見る。
「ないな。俺デブ嫌いだし」
アイドル好きの主人はデブが嫌い。とくに、モタモタしたデブが大嫌い。
「デブでもいい人っていると思うんだよね。女子プロとか芸人とか」
「女子プロはデブじゃない。筋肉だろ」
「いや、そうなんだけど、ぱっと見デブじゃん。あとマツコデラックスみたいな、デブをキャラにして堂々としてたり、スーザンボイルみたいな圧倒的歌唱力があったりする人は、デブで良いと思うの」
「俺はデブならみんな嫌い」
「でもこの人さ、歌ってるの恋愛ソングで、しかもか細い声っていうね。折れそうなくらい細くて可愛くて若い子が歌ってるなら似合うのに、こんなデブで30オーバーで全然モテなさそうな女が歌ったって似合うわけないじゃん。せめて痩せろよデブ」
「めちゃめちゃ嫌いなんだな」
「うん。めちゃめちゃ嫌いだからどうでもいい。しかもチャラのこと大好きみたいだからウザい。わたしのファン歴なめてんのか知らんけど、デブのくせにベタベタくっついて汚さないでほしい。喧嘩売ってんのかなまじで」
「嫉妬か」
「右手を上げて、左手上げて、中指立てて、Fuck you! Fuck you!」
「何それ」
「くたばれってこと。まじ最高の歌作った人がいるんだよねー」
嫌いなアーティストはサクッと飛ばす。
「わたしが好きなのはこの子ね」
画面には細くて可愛い女の子。
顎のラインで切り揃えた短い髪に、白いワンピース。
「さっきのデブと髪型一緒だな」
「そうなの。同じ髪型で同じような白い服でここまで差があるとさ、もう引き立て役にしかならんよねさっきのは」
「デブ枠必要なんだよ。アイドルでもいる」
「アイドルはみんな若いじゃん。だから良いんだよ。若いだけで「頑張ってるね」って周りが思ってくれるから」
高校生がバイトしてるってだけで、頑張ってるって思われる。
20代前半くらいまでなら、それが続く。
20代後半でまだバイトしていたら、
「何やってるんだろう」
「就職しないのかな」
「結婚は?」
30代なら
「いつまでもバイトじゃダメでしょう」
「結婚してないの?」
「将来どうするの」
世間の目は、どんどん厳しくなる。
「30代のアーティストなら、もうちょっとまともに歌えよって思うわ。子供じゃないんだから。見ていて痛々しい」
7年で解散する白キャン。
若いと言われる時期を過ぎ、これからは世間の目はちょっと厳しくなる。
けど、積み重ねたものがあれば、きっと大丈夫。
「分かるよね。周りの優しい人に甘えて、何も積み重ねてこなかった人と、積み重ねがきちんとある人ってさ。ライブ見てて思う」
「チャラ男は?」
「んー、遅刻と体調不良はなくなったんじゃない? 責任重大な仕事してるし」
責任を背負える人が上に行く。
仕事で重大なポジションを任されたり、人によっては結婚だったり、子供だったり。
責任を背負うことから逃げるから、いつまでも下にいる。
若いときはバレなくても、年齢が上がるとバレてくる。
「何も積み重ねてこなかったんですね」「責任を背負うことから逃げてきた人ですね」って。
「ステージに立つ人は、努力してれば身なりに表れてくるよ。どんどん綺麗になっていくの。だからどんどん綺麗になる人を応援した方がいいと思うの」
どんどん綺麗になるのは誰だろーなーと思いながら、ライブに通う。
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