幸せセンサー
「今月のチャラほんフェスどうすんだ?」
「チャラほんフェスってなんやねん」
推しのサポートギタリスト(チャラ)が出るフェスに行くかどうか迷っている。
「嫌いな奴いるからもう行かないんだっけ?」
「チャラの彼女モドキのアーティストがいるの。でも行きたいんだよねー。なぜかというと! 今回わたしのためのタイムテーブルになってるの」
「なにそれ」
「彼女モドキの女の順番がね、15組中3番目なの。1番目が初めて出る子で、2番目が地方から来てる人で、その後。普通人気ない人ほど出番早くなりがちじゃん?」
「まぁそうだな」
「そいつが前の方に出てれば後の人たち見れるじゃん? しかも私が1番好きな子がトリでね、2番目に好きな子がその前でね、他にも見たい人全部後ろに集中してるの。だから私のためのタイテなの。私に来てほしいって言ってるんだと思うんだ」
「それオタクがよく言うやつな。「俺のためのセトリだ!」とかって」
「おめでたい脳みそだね」
「あんただよ」
そうそう、私のこと分かってるわ! っていうタイムテーブルを組まれて、心が揺れる。
「でもチャラの彼女モドキを見たくないから行きたくないんだ。飲食店にいるゴキブリみたいなさ、視界に入るだけで飯が不味くなって外出たくなるじゃん。あの状態」
「よっぽど嫌いなんだな」
「嫌いっていうかさ。だって私どう見てもチャラのファンだって分かるようにポストしてあげてるのに、そいつのチャラへの好き好きアピールリプがすごいの。そんなことしたら私からどう思われるかなんて、ちょっと考えれば分かるじゃん? 他のアーティストは私にも自分のファンにも失礼だと思って距離感を気をつけてるのに、そいつだけベタベタ纏わりついて、チャラと至近距離でツーショット撮ったり、すんごいマウント取ってきててさ。分かっててマウント取ってるんだから、嫌われてもいいってことでしょ? だったらこっちも堂々と嫌うよ。嫌う権利くらいあるでしょ。私のチャラなのに」
「私のチャラ……」
「チャラはいつ見てもカッコよく完璧に仕上がってるのに、一緒に立つアーティストがダサいとダサくなるでしょ? そして、ダサくなったチャラを推してる私もダサくなる。だから、チャラをダサく見せるアーティストは絶対許さない。そのプロ意識がないアーティストを見るくらいなら、現地に行かないで配信の方がいいでしょ? 自分がいない環境なら、他人事のように「ダセェなぁ」って見てられるから。推しってそういうものでしょ。私の推しだから、ダサいと困る。恥ずかしいもん」
「……そうか」
「地下アイドルを推せる人とは感覚が違うんだろうけどね」
ライブも美意識もまだまだな地下アイドルを推せる主人とは、根本的に考え方が違う。
「でもね! チャラがね、私がポストしたライブのスクショを、自分のXに載せてたの。私が載せるチャラの写真はめちゃくちゃカッコいいのしかないからね! かっこいいなって思ったんだろうね! だからきっと私のこと好きなんだと思うんだ。照れるなもう〜」
「おめでたい脳みそだな」
推しは尊い。
近寄れない。
近寄れなくて、尊すぎるから、ときどき感じる「私のためにしてくれたのね! もしかしたら私のこと好きなのかも」という瞬間(勘違い)に、キューっと胸が締め付けられる。
あの瞬間がとっても気持ち良い。
おめでたい脳みそでいいじゃないか。
勘違いでも幸せならいいじゃないか。
幸せを感じるセンサーが、普通の人より敏感なんだ。
推しを推してる人たちって、そんなもの。
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