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クソつまらないと言われて



「今度の舞台、あんた来なくていいよ」

「え、なんで?」

「クソつまらないから申し訳なくて来てほしくないみたい。来なくていいって言われた」

「なにそれ。逆に気になっちゃう」

定期的に観に行ってる役者さんの今度の舞台。

「クソつまらない」と役者本人に言わせるほど、クソつまらないらしい。


「あんた天邪鬼だからなー。価値観は人それぞれだから、俺は一回は観に行こうと思うけど、あんたは来なくていい」

舞台は、脚本、演出、役者と、いろんな人が関わってできる。
「クソつまらない」と思っても、仕事だから演じなければいけない役者さん。

「クソつまらないって言えるのすごいね。逆に信用できるわ」

小規模の舞台だと、舞台を観に行くというよりは、役者を観に行くお客さんが多く、チケットバックの関係で、役者本人に予約をする。

お金を払わせるからには、楽しいものを見せないと申し訳ないし、
残念なものだったら、もう二度と来てもらえないかもしれない。

役者にだってプライドがある。

商売をやってる人なら、仕入れは重要だ。

どんなに良い商品だとオススメされたところで、自分が気に入らなければ発注しない。
発注しないので、お店に並ぶことすらない。

「これはうちのお客さんには売れません」

もしかしたら気に入るお客さんもいるかもしれないけど、自分が気に入らないものを、
「オススメです!」と、嘘ついて売れない。

値段と価値。

「なんかさ、「とっても素敵なお話になってます!」って、そればっか言う役者いるけどさ、素敵かどうかは客が決めるんだから、ああやって役者本人が「素敵」って言っちゃうの、わたしあんまり好きじゃないんだよね」

「素敵って言わなきゃ誰も来ないだろ」

「たしかに」

それはたしかに。と頷く。

でもそれでクソつまらなかったら、「あなた本当に素敵って思ってる? 本当に? え、センスないでしょ」となるわけで、

自分のイメージや信頼を落としかねない。

「クソつまらないって言われたら、逆に面白いところ探しちゃいそう」

天邪鬼。

人それぞれ価値観の違いはあるけれど、

全ての舞台が面白いはずがなく、それは観る人の「面白く観よう」という努力のおかげ。

面白い舞台は、そんな努力しなくても面白い。
ストーリーがしっかりあって、オチもあって、笑うところもあって、役者の演技も迫力があって楽しい。

つまらない舞台があるから、面白い舞台が目立って、人気が出る。
だからつまらない舞台も必要。

「クソつまらないから来なくていい」

はっきりそう言える役者さん。
自分の軸がしっかりあって頼もしい。

「感想聞かせてね」

「わかった」

クソつまらないと言われると興味が湧く。
そういう天邪鬼な人もいるので、自分の軸はしっかり持っておいた方がいい。




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