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ちょっと変わってる人



もう3年くらい指名している整体師さんは、40代くらいの男性で、ちょっと変わってます。

まず、とっても早口。
普通の人の1.5倍くらいのスピードで話す。

着替えて案内されるなり、

「今日は右肩ですか、首ですか、腰ですか。あ、腰ですか今日は。どうしました?」

毎回毎回「右肩が痛くて」と言っていたので、「右肩ですか?」と1番に聞かれる。
そして、たまたま腰に手を当ててただけで、「腰ですか今日は」と聞かれる。

「あー……、腰かもしれないです。右肩も痛いです。首も……」

「分かりました、見ますのでうつ伏せでお願いします」

うつ伏せになる。

「あー、酷いなこれ結構ためましたね。腰がここだからここでこうで……あー、こっちかな、よし、腰から行くか。はい押しますよー」

そして独り言が多い。
それを無言で聞き流すわたし。

早口で、独り言が多くて、どこか機械的で感情がこもっていないような人。

整体師を選ぶとき、技術と同じくらい、心の距離感は重要です。
体が密着するので、生理的に無理な人は無理。
べらべら話しかけてくる人も無理。

以前、整体師にキスされたことがあるので、距離をとってくれる人だと安心する。

シカトしてくれる人が好き。
わたしのことは、シカトしてください。
無言でいても、気にならない距離感。

必要な会話以外は一切しないので、いつものように痛みに耐えながらじっとしていると、

「体バキボキやられるの嫌いでしたっけ?」

と、珍しく声をかけられました。

「え、いや、大丈夫だと思います」

「やってもいいですか? 痛かったり怖かったりしたらやめますので言ってください」

3年も指名していれば、わたしがよほどのことがない限り「痛い」と言わないことを知っているのでしょう。

わたしの体のことも知っているし。

ちょっと進んだ距離感にドキドキ。

仰向けで腕をクロスしたわたしの体に、覆い被さるようにして整体師さんがのしかかる。

「力抜いてくださいねー、リラックスー」

次の瞬間、グッと体が捻じ曲がるように上から押されて、

バキボキッ!!

背中が鳴った。

「おおぅ……」変な声出た。

「痛いですか怖いですか大丈夫ですか?」

「大丈夫です」

「次横向いてください」

横を向く。
「力抜いてくださいねー」

肩と腰に手を当てられたかと思うと、体がまた捻じ曲がるようにグッと押され、

バキボキッ!!

「うぅ……」

「痛いですか怖いですか大丈夫ですか?」

「はい」

あまりに大きな音がしたので、思わず笑う。

「次は首いきますね」

目隠しされて、頭をフラフラとゆすられながら、

「怖かったらやめますからね、言ってくださいね、大丈夫ですか、力抜いてくださいね」

もはや何に返事をしたらいいのか分からず黙っていると、
首がいきなり横に曲げられ

バキボキッ!!

「あ……」掠れた声が出た。

「痛くない? 怖くない? 大丈夫?」

ん?

なぜか突然タメ口になった整体師さん。

「大丈夫です」

なんだかその一瞬、ときめいた。
お客さんではなく、女性として見られたような、なんとも言えない心地よさ。

なんだこれ、なんだこれ。

考えて、気づく。

あぁ、あれか。

「痛くない?」
「怖くない?」
「大丈夫?」

この3つ。
女性なら、聞かれる瞬間があるじゃないか。

自分の想像力の豊かさに、ニヤケが止まらない。

その後は淡々と施術を受け、終わってサクッと帰りました。

整体師いえど、男性ですから。
女性の体を扱うときは、心配したり、それなりに緊張するのかなと。

ちょっと変わっている整体師さん。

もしかしたら、ちょっと変わって見えるように、仕事中は演技しているのかもしれないなと。

一つの仕事を長くやっている人ほど、仕事中は演技する。本当の自分なんて、仕事中は必要ない。
役者である。

ふと垣間見えた優しさに、キュンとしました。







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