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身内を広げる



「そのリュック、ジュエティでしょ? あたしもジュエティ好きなんだー!」

BAND-MAIDのメンバーに、まだ普通に接触できた時代。ドラムの茜さんに言われたこの一言で、恋に落ちた。

特典会に並ぶのはあまり好きではなく、でも買ったCDにサインしてほしかったので、彩姫さんやミクさんに人気が集まる中、わたしはいつもMISAを指名して並んでいた。

茜さんと話したことはなかった。

ライブが終わり、特典会も終わり、そろそろ帰るかなぁとフロアを出ようとしたときに、

「そのリュック、ジュエティでしょ? あたしもジュエティ好きなんだー!」

ジュエティは二十代前半にハマっていたアパレルブランドで、メルカリで安く買ったりして集めてた。

まるで友達のような声の掛け方に、嬉しくなって少しお喋り。

演者さんと話していいのだろうか?
わたしなんかに時間を使って大丈夫なんだろうか?

そんな不安を吹き飛ばすくらい、明るく話しかけてくれた茜さん。

話しかけてくれたお礼に、ジュエティ好きな茜さんに何かプレゼントしたいなと思い、帰宅後にメルカリで、ジュエティの缶バッジをポチった。

今思えば大変安っぽいプレゼントで、失礼極まりなかったとも思うけど、後日行ったライブで、茜さんに缶バッジを渡した。

「え!? いいの?! かわいーー!! ありがとう!!」

テンションの高さと、人を惹きつける明るさと愛嬌。持って生まれたような、人に好かれる素質。

バンドに1人でもこういう人がいると、伸びていくのかなぁと思う。

だってこの瞬間、演者と客という商売的な括りを超えた何かでちょっと繋がったような気がして、とても嬉しくなる。

「推し」という言葉がまだ世間に浸透していなかった頃に、ここでわたしは「BAND-MAIDを推そう」と、気持ちのどこかで思ったのかもしれない。


共通のフォロワーがいるというだけで、何も関わった人ことのない人から、

「堀江さん、今度ライブあります。よかったら来てください」

と、いきなりDMで言われる。

新手の詐欺かと思う。

あまりにも強欲で雑な誘い方に、音楽を聴くまでもなく、嫌いになる。

数打ちゃ当たるみたいな感覚なのか、相手への配慮がまるでない。



役者さんが2人いて、1人はフォロワー数千人。もう1人はフォロワー数十人。

同じような小劇場での舞台があり、数千人のフォロワーがいる人は集客7人。
対して、数十人のフォロワーしかいない人は集客20人。その舞台に出る役者の中で、2番目に集客が多かった。

ちょっと個人的な関わりがある人だったので話を聞いた。

「結構集客したって聞いたけど、すごいね」

「いやいや全然ですよー。全部身内です! 友達とか、職場の人とか」

友達や職場の人は、身内ではないと思う。

それを「身内」というのであれば、身内すら呼べない人がほとんどだ。

まず、信用がなければ人は来ない。
身内を呼べるだけ、信用がある。

その人は、家族をはじめ、職場の同僚、部下、上司、それから友達と、その家族。身内の輪をどんどん広げていって、フォロワーなんか少なくても、集客をどんどん伸ばしていた。

SNS上での活動も大事だけど、やっぱり現実の活動の方が確実で、
現実で出会って、知り合って、信頼を得て、ファンになる。
そのファンが、新たなファンを広げていく。


あのとき渡したジュエティの缶バッジ。
もう捨てられてしまってると思うけど、渡せたなぁって思い出だけで、身内感に浸れます。

人気が出てしまってからは、音楽だけを聞いて好きになるファンが増えるのだろうけど、

人気が出るまでは、コツコツと、いかにたくさんの「身内」を広げられるかどうかなのかなぁと思いました。

身内を呼べるだけ、信用がある。











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