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アーティストの水商売化



「この前さ、推しにライブハウスで「こんにちはー」って声かけられたんだけどさ、フルシカトしちゃったー」

「なんで?」

「今回その人のチケット買ってなかったから」

「どういうこと?」

「別の人のチケット買ってたからさ、私は推しに話しかける権利ないわけでしょ? ああいう人たちって、グッズとかチェキとか買って初めて話せる対象だからさ、私は今回その人のチケットも買ってなくて、1円もその人にお金を払ってないから、話しかけちゃいけないなって思って」

「挨拶ぐらいするだろ普通」

「いやだってさ、「こんにちはー」って言われて、「こんにちは〜」って返しちゃったら、私からの「こんにちは〜」を聞かなければいけない数秒間、その人を拘束してしまうわけでしょ? 1円も払ってないのに。そんな権利わたしにないもん。その人のチケット買ってたなら、話しかけられたら答えるぐらいの権利はあるのかな? そういうオプションがどこまでチケットに含まれてるのか分からないから、アーティストとの距離感って迷うんだよね」

「そこまで考えないって普通」

「私は考えるの! ギター講師とかもさ、ギター講師でないときにギターの話しとかできないでしょ。だってギターを教えることでお金を得てる人なんだから。ギター講師にプライベートでギターの話をするってことは、風俗嬢に「ちょっとやらせて」って言ってるようなもんでしょ?」

「まぁそれはそうだけど」

「だからギター講師と飲みに行ったとき会話に困ったなー。何も話せないって。なんかさ、人との関わりでお金を稼ぐ人ってさ、逆に言えば、金銭のやり取りがない相手に話しかける権利を失うってことじゃん? だからホストとかキャバ嬢ってやばいよね、人と関わることでお金を得てるんだから。LINEしたりも、お金を貰えるからやってるわけでしょ? じゃあさ、プライベートのときに私がそういう人たちと話したりLINEしたりはできないわけでしょ、お金払ってないから。だからそういう人の友達って、同業者か、お金を払わなくても喋れてしまう図々しくて遠慮のない人たちなんだろうなって思うの。虚しいよねー。アイドルさんとかもさ、昔CD1枚で3秒とかやってたじゃん」

「AKB商法な」

「昔はーって言っちゃうとババ臭くなるけどさ、昔はCDを売るために特典としてチェキを撮ってたのに、接触目当てのオタクが増えたせいでチェキ単体として売り出すようになったじゃん? それが発展して、今度はCDを作るためにクラウドファンディング。CDすら客から金を集めないと作れないっていうね、アーティストの貧困やばいよね。でもさ、そもそもだよ? 接触目当てとか認知目当てでCDを買ってるんだから、アーティストにおけるCDの価値ってゴミなわけじゃん? そのゴミを作るためのクラウドファンディングって、もうやってることなんだかよく分からないよね。純粋にCD1枚買って大切に聴いてる客が何人いると思ってるんだろうね。部屋の隅にゴミとして積まれて埃まみれになってるの想像してないのかな。この部屋みたいに」

見渡すと、背の高さまで積まれた同じCDがたくさんある。

私の部屋にも、未開封のCDが何枚もある。

「そのうち体売り出すアーティストが現れるかもね」

「それ、もうアイドルの一部はやってるよ」

「あぁ、カナちゃんだっけ? 風俗やってるのオタクにバレて大炎上だったね」

曲を売りたいのか、客を集めたいのか、金を稼ぎたいのか、アーティストの水商売化が止まらない。

「ホストのシャンパンタワーみたいなもんだよね。あれに何百万の価値はないけど、あれをやれば周りも巻き込んで楽しめるし、なによりも担当が喜んでくれて、担当に好かれて、担当に執着されるから、お金を出してやってるわけでしょ? ホストはそれが商売だから良いけどさ、曲を売るアーティストがクラウドファンディングとかやって、客から金巻き上げてお祭り気分で楽しみましょうみたいなの、すっげーダサいなって思う。お前ら何売ってんの? 曲売れよ曲、歌とライブで感動させろよってさ。ロックバンドでサーフとかしてるおじさんのほうがよっぽどカッコいいよ。純粋にライブ楽しんでる人たちだもん。「チケット20枚でサシ飲み!」とかやってる奴いたけどさ、パパ活かって思った」

「地下アイドルはそういうところだから」

「地下アイドルはそうだけどさ、ここ最近、アーティストも水商売化してるよね。まぁもともと水商売ではあるんだけどさ。そんなに「お金欲しいお金欲しい」って客に媚び売ってる姿を見るの、結構きついんだよね。わたしはライブ見たくてチケット買って行ってるんだからさ、ライブが見れればいいのに、推しのホストみたいな姿見るの結構きつい。だから、1円も払わないから話しかけてもらわなくて結構ですって感じで、シカトしちゃうんだー。接触目当てだと思われたくないもん」

AKB商法。
彼女らがしたことの代償は大きい。アーティスト自身が、アーティストとしての価値を自ら下げてしまった。
曲やCD、ライブには何の価値もない。 

「メンズ地下アイドルとかもひどいよね。ライブ30分で、物販2時間だってさ。ライブはおまけ。客はアイドルに性風俗的な要素を求めてるの、笑っちゃうわ」

アイドルやアーティストが性風俗的な営業をかければ、それを本業としてやっているキャバ嬢やホストの地位も危うくなる。

「グラビアアイドルとかもう絶滅危惧種になってるらしいね。ただのアイドルが簡単に脱ぐから。AV女優ほど露骨にはできないし、立ち位置微妙なんだろうね」

市場はどんどん変化していく。

「私が好きなBAND-MAIDはさ、周りがAKB商法ばかりしてた時代に、チェキ物販を廃止したからね。それで客層変わってどどーんと上に行ったの。だからさ、クラウドファンディングが流行ってる今の時代に、何か別のことをやり出すアーティストが、次の時代の勝者になると思うんだ。なんだろうね、楽しみだなぁ」

時代は、インディアン座が頂点に立つ2025年にガラリと変わる。

新しい風を吹かせるのは、どのアーティストだろう。
少しずつ吹いている。

風向きをしっかり見定めて飛べるように、アンテナを張っておくといい。

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