どんなに好きでも嫌いな部分はある
洗濯物を畳みながら、ひっくり返った靴下を直す。
ひっくり返ったTシャツも、ひっくり返ったパンツも直す。
今はもう当たり前になったので、イライラすることもない。
好きな人の全てを好きになるわけではない。嫌いなところがあっても、「まぁ、そんなこともあるか」と受け入れる。
結婚してる人としてない人で、この差は結構大きいように思う。
結婚当初はよくイライラしていた。
「またひっくり返ってるんだけど! 洗濯機に入れる前に直してって何回も言ってるでしょ!」
主人はひっくり返った洋服を洗濯機に入れるクセがある。
「違うよ。洗濯してる間にひっくり返ったんだよ」
くだらない言い訳も鬱陶しい。
そもそも、脱ぐときに気をつければいい話。
Tシャツなら、胴体からガバッと捲るとひっくり返るから、片方ずつ腕から抜き、最後に首を抜けばいい。
靴下なら半分くらい脱いだ後に、爪先から引っ張ればいい。
なぜそれができないのだ。
何回言っても直らないので、ムカついてそのまま畳んでやった。
翌日。
朝起きて主人を見ると、Tシャツも靴下も、ひっくり返ったまま着ていた。
わたしへの当てつけではなく、本当に気付いていないみたいだった。
主人にとっては、服がひっくり返っていようがいまいがどうでもいい。
それを見たら、イライラしているこっちがアホらしくなり、「この人はこういう人なんだな」と受け入れざる得なかった。
この前誘われて行った初見のアイドル現場。
誘ってくれた方から、
「この人もお盟主様なんですよー」
と、一緒にいたファンの方を紹介された。
お盟主様とは、BAND-MAIDのファンクラブに入ってる人のことをいう。
「こんにちはー」
と挨拶しながら後ろめたさを感じる。
実はわたし、お盟主様ではないんですよ。
10年も追ってるバンドなのに、ファンクラブには入ってない。
BAND-MAIDのファンクラブには、いわゆるプライベート動画のようなものが投稿される。
音楽から離れた、彼女たちの普段の様子。
わたしにとってBAND-MAIDは、同性で、同年代で活躍する憧れの対象である。
絶対的な存在である。
プライベート動画というものは、どうも好きじゃない。
いくら月々500円といえど、お金を払って見たくないものを見るのはおかしいだろうと思い、先行チケットを買うとき以外は退会している。
大好きなバンドだけど、最近はライブもときどきしか行かない。
以前はMCほぼなしで、アンコールもせずに、90分を突っ切るように曲をやるスタイルだったのが、
ここ最近のライブはMCが無駄に長い。体が冷えてくる。
どうでもいいプライベートな話も多い。
それが、どうも好きじゃない。
10年も追ってると、バンドの変化をたくさん見てきたけど、今はちょっと気持ちが離れている時期。
でも、新曲が出れば買うし、グッズもかっこいいから買うし、曲も毎日聴いている。
「あーあ、このアーティストさん好きだったのにクラファン始めちゃった」
曲もパフォーマンスも顔も好きだったアーティストが、クラウドファンディングを始めた。
「金ないんだよ。仕方ないだろ」
「じゃあわたしは一旦離れるね」
「離れるのか?」
クラファンは「クラファンに参加しない人はファンじゃない」と言われているみたいなので、突っぱねられた気分になる。
普通に曲聞いてライブ行ってるだけじゃだめなのかと。
「クラファンしなくても大丈夫なくらい客ついて、大きいところでやるようになるまで待つわ。クラファン中は初期支え隊が頑張るよ」
「初期支え隊……」
わたしが勝手に名付けた「初期支え隊」
地下や地底には、初期を支えたいオタクがいる。
その人たちは、パフォーマンスどうこうではなく、初期のアイドルやアーティストを支えるのが目的でお金を出す。ライブではなく、物販目当て。
そして、そのアイドルやアーティストが人気になって地上に出てきたときに、その人たちは自然と去っていく。
それが「初期支え隊」である。
「初期支え隊が去ったあとからが本番だからね。わたしはそこから推すわ。だからそれまで待機。頑張れって感じ」
「何様」
ほんとそれな。
推しがいる人の方がメンタルが安定するのは、推しを推すかどうかを常に自分主体で決められるからだ。
推される側は大変だ。
推されるか推されないか、自分のやってることは正しいのか、客はついてくるのか、いつも不安にさらされる。
「客って入れ替わるんだよ。全員ついてくるわけじゃないからね。その時々で支えて、去っていくの。BAND-MAIDで散々見てきた」
「周平くんは?」
「周平くんはずっと推す。ライブ行かないのにチケット買っちゃった。喜ぶかなーって。だめだねー、貢いじゃって」
「チケット買ってライブ行かないの、散々バカにしてたくせに」
「たしかに。まぁそんなときもあるよ」
どんなに好きでも、嫌いな部分はある。
好きは、総合力。
嫌いな部分は受け入れたり、目を瞑ったりする。
なんだかんだ言いながらも、つかず離れずの関係が、1番長続きするのだろう。
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