裏の顔を見抜く

「そういえばさ、チャラと飲んだときに手ニギニギされたんだけどさ、ああいうのってさ、お酒の勢いで日頃やりたいと思ってることをやっちゃったのか、それとも、手ニギニギすればわたしが喜ぶと思って、喜ばせたくてやったのか、どっちなんだろうなってふと思った」

「ちょっとまて。手ニギニギってなんだ？　聞いてねぇぞ」

「うん。怒ると思ったから言ってなかった」

「あいつ人妻に手出したのか！！　ぶち殺す」

「まってまって。【手を出した】の意味が飛躍しすぎてる。手は出したけど、唇も下半身も出してないから」

下半身出したら変態だ。

「やっぱりクソホストだな。酒入ると手が出るんだよ」

「とりあえず話戻すんだけどさ、人妻の手をニギニギするなんて、常識のある男はしないわけじゃん？　酒入って酔っ払ってやったとしたら、普段からそうしたいと思っていたか、そうすればわたしが喜ぶと思ったかのどちらかなわけじゃん？　ブサイクな男だったら、単純に酒で理性飛んで手ニギニギしちゃったって思うんだけど、チャラくらいカッコいいと「俺が手をニギニギすればこの子は喜ぶ」っていうナルシストさがある可能性もあるよね。もしそうだったらキモいなーって思っただけ。だからイケメンって損なんだよね。女の子が行動の裏を読んじゃうから」

「あんたそれで喜んで握り返したのか？」

「そんなわけないじゃん、わたし肌の接触嫌いだし。どんなに酔ってても、嫌いなことをやろうとは思わないよ」

すごくスムーズに手をニギニギしてきたチャラを、何してるんだろうなーと、冴えた目で見てた。

「でもさ、5年もレッスン通ってて、わたしの肌接触嫌いを見抜けなかったんだから、わたしも相当演技派だと思うよ。わたしの勝ちだね。あいつホスト失格やな」

「5年もレッスン通ってて、ホストだって見抜けなかったあんたの負けだよ」

「あちゃー」

「俺は最初から「あいつヤバいから気をつけろ」って言ったろ。あんたが聞かなかったんだよ」

たしかに言ってた。
「写真見たけどあいつチャラいな。ホストとかじゃないだろうな」って。

「いや、なんかやってるなとは思ったよ。全然ギターの仕事なさそうなのに、昼間フリーで動けるし。親の脛齧りか、見た目が良いからせいぜいモデルとかかなぁって。でも着てるもんもおかしかったんだよね、バレンシアガのTシャツに、ヴィトンのネックレスに、グッチのカバンみたいな。ゴテゴテ」

「どこの田舎もんファッションだそれ」

「田舎もんというか、引き算を知らないんだろうね」

「よくヴィトンのネックレスって分かったな」

「あれだよ、Vのやつ。ヴィトンのネックレスで一番安いやつ。あれをつけるくらいなら300円のネックレスを高見えさせたほうがかっこいいのにって思った」

「300円はないだろ」

「え？　わたしのこのネックレスはヴィトンだから12万だけど、出かけるときにつけてるイヤリング300円だよ」

「あんた300円のイヤリングしてんのか！？」

「そうよ。良い女だから何つけても高く見えるでしょ？」

「……」

「ツッコミないと恥ずかしいんだけど」

一つ高価な物を身につけていれば、あとは引き算なのだよ。

「だからさー、わたしは5年間気付かなかったけど、勘のいい人はすぐにホストだって見抜くんだよね。なんかその危機管理大事だよね。ギター講師選びマジで大事。チャラくらいやる気ないホストでよかったわ」

「よかったんかい」

「いやだって、趣味でギターレッスンに通うような人って、そこそこ裕福でお金に余裕があるわけじゃん？　それでいて水商売に耐性ない人もいるから、ホストにとっては結構良いカモじゃん。仲良くなって、あわよくば自分の店に連れて行こうとか考えてるギター講師も絶対いるよね。怖いよねまじで」

「チャラ男も人妻に手を出すギター講師だからな」

「【同伴でドタキャンしまくるギター講師】から
【人妻に手を出すギター講師】にレベルアップだね」

「笑い事じゃない。気をつけろ」

「はい」

ギター講師選びは重要です。
まず、ライブ予定が少ない人は危険です（しっかり教室構えてレッスン専門でやってる人は除く）

見た目がチャラい人も危険です。

身につけてるブランドに統一性がない人も危険です。

ドタキャンが多い人も危険です（ホストの同伴です）

危険危険危険。

「ちゃんとホストを見抜く力があったらなぁ。違うギター講師に習ってたら今でもギターやってたかもなぁ」

「違うギター講師だったら、あんた5年も続いてないよ」

「じゃあ結果オーライだね。チャラに感謝！」

もう騙されないぞー！