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魅力がありすぎると引いてしまう



「なんだ。ライブ行かなかったのか」

仕事から帰ってくるなり、家にいるわたしに向かって主人は言った。
その言葉にプチッとキレる。

「行かなかったんじゃなくて行けなかったんだけど、あきらかに仕事のせいで行けなくなったんだけど」

「ダッシュすれば間に合っただろ」

そう。たしかにダッシュすれば間に合った。でも違う。わたしがBAND-MAIDのライブに行くのは年に1、2回だ。この1、2回に合わせてどれだけ準備すると思ってる。

「BAND-MAIDはあんたが行ってるしょーもないライブじゃねぇんだよ。バカ」

「しょーもない言うな」

オールスタンディングで9割男性客の中に飛び込むので、体力がないと無理だ。1ヶ月前から筋トレ多めのジムメニューにして体を鍛える。
声が出せるようにカラオケに通う。着ていく服にアイロンをかけて、靴は踏まれても良いように安全靴を。

遠征組は前日には現地入り。
海外組は1週間も前に現地入り。
みんなこの日に合わせて気持ちを上げていく。

「体力必要だし、ライブ前のルーチンもあるし、仕事後に慌ててライブに行けるようなバンドじゃねぇんだよ!」

今日は最悪な一日だった。
5月10日はメイドの日。BAND-MAIDのためにあるような日で、毎年この日はだいたいライブがある。

仕事がどうしても休めなくて、午前中だけと仕方なく妥協。
早く起きてライブの準備をしようとしていたのに、6時に起きるなり電話が。

「緊急事態。なるべく早く来て」

準備も全然できず慌てて職場へ。
仕事もなかなか終わらず、Xで物販列に並ぶファンのポストを見ていたら涙が出てきて、心が折れた。


「服着て、メイクも濃くして、髪もアップにして、物販開始に間に合うように家を出るまで、爆音で曲聴きながらゆっくり過ごすのが、BAND-MAIDのときの私のルーチンなの! 仕事してたらできねぇだろ。死ねハゲ」

「ハゲって言うな」
死ねはいいのか。


推しが尊い。

何ヶ月も前から準備している推しに合わせて、こちらも何ヶ月も前から準備する。

ジャニオタさんの一部の女子は、そのへんにいるアイドルよりよっぽど可愛いし、美意識も高い。
推しを推すことで、自分を綺麗に保っている。

推しに魅力があればあるほど、こちらもそれに合わせて魅力を上げられなければ、心がポッキリ折れてしまう。

今日はダメ。ついて行けない。推しがダメなんじゃなくて、私がダメだから。

「こんな中途半端な気持ちでライブには行けない」
って。

わたしにとってBAND-MAIDは、「仕事終わったら行きますね〜」なんて、駅前の日高屋のように行けるバンドではなく、
恵比寿ガーデンプレイスの中にある叙々苑である。
準備がすごく必要なのだ。

「もうわたし、BAND-MAIDある日は絶対仕事しないから。絶対休むから。ちなみに明日チャラライブある」

「なに、行くんか? 夕方?」

「夕方っていうか、夜」

「わかった。代わるから行ってきな」


BAND-MAIDを行かなかったのはこれで2回目。
前回はZepp東京だったか、チケ番1桁だったのに今日と同じようなことがあって行けなくなった。

体調管理より気持ちの管理が大変。

自分のレベルを上げていかないと、いつかついて行けなくなってしまうから。




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