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「最悪……まじで死んだ」
「どうした?」
「チャラ(推し)のいいね欄が見れなくなった」
「あー……エンジェル(主人の友達のドルオタ)も朝から騒いでたな。「推しちゃんのいいねが見れない。監視できない」って」
「いやこれ結構きついわ……。チャラ全然X動かさないからいいね欄で生存確認してたのに。毎日毎日いいね欄見て、「あ、生きてるな」って和んでたのに。見れなくなったらもう終わりじゃん。死んだも同じ。最悪」
「チャラ死亡」
「エンジェルの気持ち分かるわ。監視できないのきつい」
「ストーカーか。俺は全然影響ない」
「あんたは接触できるからだよ」
Xのいいね欄が非公開になって、朝からざわつくアイドル界隈。
わたしと同じXの使い方をしてる人がたくさんいることに驚いた。
「監視ってほどじゃないけどさ、生きてるかなぁってときどきチャラのXを覗きに行くのが好きだったのに」
「通知取ってるんだろ? ツイートしたときに見ればいいじゃん」
「それじゃ意味ないんだよ」
それじゃ意味ない。
好きな人の家の前を通るときに、部屋に灯りがついてるかどうかを確認するあの感覚。
「あ、今部屋にいるんだ」
「あ、消えてる。どこか出掛けてるのかな」
そうやってただ思いを寄せる瞬間が好きなんだ。
それなのに、家の前にシャッターがつけられて、何も見えなくなった。そんな気分。
「でもこれでさ、いいね欄見れなくなったから、いいね爆撃するアイドルさん増えそうだね」
「逆だろ。好きな奴にしかいいねしないようになるんじゃないか」
「やる気のないアイドルはそうだろうね。見られないんだったらやらなくていいやって。本気でやってる頭の良いアイドルなら、いいね営業しまくるようになるよ。同業者気にしなくていいし、いいねしたオタクにしか見られないし」
そのとき、主人のアップルウォッチが鳴った。
「あー……、推しちゃん病んでる」
アップルウォッチに出てきたアイドルさんの通知。
見ると、
【どうしたら上に行ける】
と、病みポスト。
「どうしたら上に行けるってさ、上に行く気あるのかなこの子」
「一応あるんじゃないか」
「わたし思うんだけどさ、魅力っていうか、パフォーマンスのレベルを上げるのと、売れるようにするのは別の能力なわけじゃん? そこ切り離して考えないとダメだよね」
「それはそうだな」
「パフォーマンスレベルを上げれば人が来るって思ってることがそもそも間違いでさ、全然別だよね。たいして魅力もないのに芸能人気取りでお高くとまっててさ、待ちの姿勢っていうの?
YouTubeとかTikTokばかりやってて、チラシ配りやいいね営業もしない奴が売れるわけないんだよね。売れてったアイドルとかバンドって、まじでコツコツ地道に営業してた人ばっかじゃん。白キャンの梓とか、桁違いのいいね数だよ」
「白キャンは確実に努力で上に行ったな」
「オタクなんてチョロいんだから、いいねしまくってればライブ来るのになんでやらないんだろうね」
「そんなチョロくない」
「いやチョロいよ。1回いいねするくらいじゃダメだよ。毎日X動かしてるようなオタクにさ、1ヶ月くらい毎日毎日いいねしまくるの。何人かは絶対ライブ来るよ。「そんなに俺のことが好きなのか」って勘違いしてさ。逆にそれで来ないなら、そもそもアイドルとしての魅力がないから辞めた方がいいよ」
「あんたはそれでライブ行く気になるの?」
「なるよ。わたしチョロいから」
「チョロいんか」
「1ヶ月張られたらさすがに行くでしょ。私いいねしてくれたアーティストさん全部メモしてるし」
「変態」
「このXの改変で、下剋上が起こると思うなー」
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良い面も悪い面もあるけど、流れに乗って、利用できるものは利用すれば、上に行けるだろう。
時代は変わっていくので、私も変わらなくちゃ。
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