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【検証】国際環境NGO FoEJapanのALPS処理水に関する批判記事は正しいか


概要

認定特定非営利活動法人FoEJapanはALPS処理水の海洋放出に反対している団体ですが、同団体の記事「【Q&A】ALPS処理汚染水、押さえておきたい14のポイント」の内容が正しいかどうかを検証します。
以下のリンク先の記載順に沿って、上から順に検証していきます。

検証

検証1 処理水の定義

福島第一原発のサイトでは、燃料デブリの冷却水と原子炉建屋およびタービン建屋内に流入した地下水や雨水が混ざり合うことで発生した汚染水を、多核種除去装置(ALPS)で処理し、タンクに貯蔵しています(図1)。その量は、134万m3(2023年7月現在)。政府・東電は、この水を「ALPS処理水」と呼んでいます。

【Q&A】ALPS処理汚染水、押さえておきたい14のポイント Q:「処理水」?「汚染水」?

→ミスリード
ALPS処理水は「トリチウム以外の放射性物質を規制基準以下まで浄化処理した水」のことであり、タンクに貯蔵されているかどうかは関係ありません。(※1)
記事には政府が示すALPS処理水の定義も記載されていますが、図ではタンクに貯蔵されている水がALPS処理水とされており、読む人に誤解を与えます。

この図だけを見るとタンクに貯蔵されている水が「ALPS処理水」であると勘違いしてしまう

検証2 ALPSは改良されている

2018年8月に開かれた説明公聴会の資料(図2)では、基準を満たしているデータのみが示されていました。ところが、共同通信をはじめとしたメディアの報道により、トリチウム以外の放射性物質も基準を超えて残留していることが明らかになりました。

【Q&A】ALPS処理汚染水、押さえておきたい14のポイント Q:何が含まれている?

その後の東電の発表により、現在タンクにためられている水の7割弱で、トリチウム以外の62の放射性核種の濃度が全体として排出基準を上回っており、最大で基準の2万倍近く(注4)となっていることが明らかになりました

Q:何が含まれている?

→ ミスリード
基準を超えて残留した際に使用されたALPSは原子力規制委員会の検査に合格していないものです。海洋放出される処理水は、同委員会の検査に合格した後のALPSを使用したものになります。(※2)記事では検査合格前のALPSがそのまま使用されるように読めるため、誤解を与えます。
 IAEAは検査合格後のALPSを使用した処理水に対して安全性を確認しています。(※3)また、現在タンクに貯められている排出基準を超えている水は検査合格後のALPSで二次処理が行われます。(※4)

検証3 放射線物質の量

問題なのは、タンクに残留するこれらの放射性物質の総量が示されていないことです。また、二次処理した結果、どのくらい残留するかもわかっていません。全体の水の量が膨大であるため、濃度を下げたとしても放出される放射性物質の量はそれなりに大きいでしょう。

Q:何が含まれている?

→誤り
 「ALPS 処理水」を希釈して海洋に放出した場合の1年間の放射線影響は、1年間に日本人が自然界から受ける放射線の影響の約12万分の1~約1千分の1となると評価されている(※5)ため、「放射性物質の量がそれなりに多い」とは言えません。

検証4 タンク内の水と処理水の違い

東電は「放射線影響評価」を行い、これをもとに政府は処理汚染水の海洋放出の人や環境への影響は無視できるくらい小さいとしています。しかし、東電がソースターム(放出する放射性物質の種類と量)として示しているのは、3つのタンク群(合計3.6万m3)のみ。タンクの水全体の3%弱にすぎません。64の放射性物質(ALPS除去対象の62核種、トリチウム、炭素14)のデータがそろっているのは、この3つのタンク群だけであったためです

【Q&A】ALPS処理汚染水、押さえておきたい14のポイント 
Q:東電はすべてのタンクについて放射性物質を測っている?

東電は、ほかのタンク群については、放出する前に順次30核種を測定するとしています。放出が完了するのには30年以上かかるとみられますが、それまでまたないと、結局、どのような放射性物質が、どのくらい放出されたか、わからないということになります。

Q:東電はすべてのタンクについて放射性物質を測っている?

→ミスリード
 ALPS処理水は、放出前に、含まれる放射性物質の濃度測定を行い、安全基準を下回っていることを必ず確認してから放出されます。(※6)
 当たり前ですが、海洋放出の影響を調査するにあたって、処理水ですらないタンク内の水と、実際に処理される直前の処理水のどちらを検証すべきかは誰でも容易に理解できるはずです。
 記事では放出前の測定について一応記載してはいるものの、タンクの測定についてことさら強調しており、読者に誤解を与える恐れがあります。

検証5 トリチウム以外の放射性物質

今回の処理汚染水の放出が、いままでの原発からの排水と大きく違う点は、処理されているとはいえ、デブリ(核燃料が溶け落ちたもの)に触れた水の放出であるということです。これは、トリチウム以外にも、さまざまな放射性物質を含んでいることを意味します。

【Q&A】ALPS処理汚染水、押さえておきたい14のポイント 
Q:トリチウムは世界中の原発から排出されているから問題ないのでは? なぜ、今回の放出だけ問題にされるの?

→ミスリード
 
処理水はALPSで処理されたものであり、トリチウム以外も規制基準未満であることが確認されるまで繰り返し処理されてから放出されます。(※7)記事には嘘が書かれているわけではありませんが、処理後の数値が規制基準未満であるという事実を意図的に隠しているのであれば、ミスリードを目的としたものであると言われても仕方ないでしょう。

検証6 モルタル固化案

「モルタル固化処分案」は、アメリカのサバンナリバー核施設の汚染水処分でも用いられた手法で、汚染水をセメントと砂でモルタル化し、半地下の状態で保管するというものです。
利点としては、安定的に保管でき、放射性物質の海洋流出リスクを遮断できます。こうした利点により、原子力市民委員会としては、大型タンク保管よりは、モルタル固化を推奨しています。しかし、東電・政府は、「水和熱が発生し、水が蒸発する」としていますが、これについても、提案を行った原子力市民委員会は「分割固化、水和熱抑制剤投入で容易に対応できる」としています。

【Q&A】ALPS処理汚染水、押さえておきたい14のポイント
Q:「大型タンク貯蔵案」と「モルタル固化案」は検討された?

→誤り
 モルタル固化について、政府はPIF専門家及び事務局との対話で「ALPS処理水を用いたコンクリートは放射性廃棄物と国内法上分類される点、現在貯蔵されているALPS処理水を更に希釈した上でコンクリート固化することで質量が膨大になるという点から、技術、法律的側面で困難である」と述べており(※8)、「水和熱が発生し、水が蒸発する」からではありません。

検証7 IAEAレビュー

しかし、IAEAのレビューは、基本的に日本政府・東電から提供された情報に基づくものであり、たとえば、海洋放出以外の代替案についてはレビュー対象となっていません。また、前述の通り、東電が「放射線影響評価」の元となるソースターム(放出する放射性物質の種類と量)として示しているのは、わずか3つのタンク群のデータ(タンク水全体の3%弱)にすぎませんが、それをよしとしてしまっています。

【Q&A】ALPS処理汚染水、押さえておきたい14のポイント
Q:IAEA(国際原子力機関)の「お墨付き」をどう考える?

→ミスリード
 IAEAは処理水採取の際に立会いを行なっており(※9)、政府・東電が都合の良いデータを提出したという事実はありません。
 また、IAEAはALPS処理水の海洋放出へのアプローチが国際的な安全基準に適合すると指摘しています。(※10)これは、「ALPS処理水は、放出前に、含まれる放射性物質の濃度測定を行い、安全基準を下回っていることを必ず確認してから放出される(※6)」という政府・東電のアプローチが妥当であると判断しているということです。先にも述べた通り、タンク群の数値にこだわるのは合理性がありません。

検証8 IAEA以外の第三者分析機関

IAEAは原子力の利用を促進する立場の機関であり、中立とは言えません。 また、IAEAの安全基準と照らしてみても、少なくとも「正当化(justification)」、「幅広い関係者との意見交換」に適合していないはずなのですが、日本政府の見解を繰り返すような結論となっています。

Q:IAEA(国際原子力機関)の「お墨付き」をどう考える?

→ミスリード
 IAEAは国連保護下の国際機関であり、中立ではないとの主張は根拠に欠けます。
また、ALPS処理水の検証にあたってはIAEA以外の第三者分析機関も含まれている(※11)ことにも留意する必要があります。

結論

「【Q&A】ALPS処理汚染水、押さえておきたい14のポイント」には多くのミスリードと何点かの誤りがあり、同記事だけでALPS処理水の情報を得た場合、正確な情報を得られずに判断してしまう可能性があります。
 処理水問題を検討するには不適当な記事であると言えるでしょう。

根拠資料

※1〜※11は以下のとおり。上から順番に記載しています。


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