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淫魔屋敷・弐拾壱話

※気分が悪くなったら読むのをお止めください。

〜自宅〜

元妻の背中に描かれた単色の鯉のぼり。
これを彫るように命じた男は、背後からこの女を犯すとき、その躍動感にきっと満面の笑みを浮かべたことだろう。

自分の所有物にしたという満足感と共に、どこか達成感に裏打ちされる倦怠感も同時に感じたに違いない。

「飽きた…」

奴は俺にそう言った。

心底愛していた妻が
苦楽を共にした妻が
子の成長を共感した妻が
なりよりも大切だった俺の…

こんなにも容易く穢されてしまった。

そして、捨てられた。

「お初…湯でも浴びようか」梅吉

「そうだね…汗の一つも流そうかね」お初

俺たちは湯場へ二人で向かい、風呂に入ることにした。

「なんだか照れくさいね…二人で風呂なんてどれくらいぶりだろうね」お初

「そうだな…息子ができてからは別々だったからな」梅吉

お初は風呂桶の湯を確かめる。

「少しヌルいね…」お初

肉厚な尻肉の奥に見える卑猥な割れ目が、少し濡れているのが分かる。

お初は湯桶を持ち、湯を身体にかけた。
背中の入れ墨が濡れ光沢を帯び、美しく光って見えた。

俺は後ろからお初の束ねられた髪の毛を強く掴み、顔から湯船に力ずくで押し込んだ。

「…?!(ゴボッ!…ゴボッ)」お初

慌てふためき暴れるお初を押さえ込む。

背中の鯉が湯船を泳いでいる。

どんな気持ちで彫師に身体を託したのだろう

どんな想いでアイツに身体を許したのだろう

お初の身体から発せられる汗の匂いは、ほのかに甘い独特の薬物の香りがした。

「ずっと一緒に暮らしたかったよ、お前のこと誰よりも大切にしてたから。本気で好きになって、本気で愛して、お前だけいれば幸せだった。だから、互いに寄り添って過ごせると信じてた。心からお前のこと愛してた…」梅吉

湯船で暴れていた身体の動きが段々と小さくなってくる。

「お前はどう思ってたのかな…貧乏暮らしに子供こさえて大変な思いさせちまってたよな。不安だったんだよな、きっと…」梅吉

お初の身体が湯船に沈み、小刻みに痙攣を起こしはじめた。

俺は掴んだ髪の毛を湯船から上げ、お初の顔を覗き込んだ。
目つきは虚ろになり、唇は震え、口はしまりなく開けっ放しになり、なんとも言い難い呆けた顔つきになっていた。

正気にさせるため、身体を持ち上げ腹に膝蹴りを入れ、頬を腫れ上がるまで叩き続ける。

「ごぶっ…ゴェー!…ゴボボボッ…」お初

お初は口から湯と吐瀉物を吐き出し、ゲホゲホと苦しんでいる。

「全て吐き出せ、身体に染み込んだ毒気抜かないとな…もう一度、湯に顔つけろ。イイ女が台無しだ…」梅吉

俺に髪を鷲掴みにされ、力なくぬるま湯に沈んでゆく鯉女房。

「お初よ…この鯉な…俺には落書きにしかみえねぇよ…」梅吉

俺は軽石を手に持ち、鯉の顔の部分から強く削っていった。

「(ボボッブッ!ゴボッ!ゴボボ…)」お初

痛みに耐えかね、たまらず身体をおこす。

「ウ゛ギェーー〜!グガガガッ…」お初

削られた肌は血が滲み、単色だった鯉が色味を帯びていく。

まだ気力の残っているお初のしなやかで柔らかな身体を体重をかけて押さえつけ、軽石で背中を全体的に削り落とす。

「ギャーー!イヅッ…ア゛ア゛ァー…」お初

「色々と余計なもの背負って来ちまったみたいだからな、一つずつ落としていかないと……」梅吉

お初の白いはずだった背中が真っ赤に染まっていく…
俺の大好きだった白い肌、肩から背中と豊満な尻まで伸びる滑らかな曲線も、乱雑に消された落書きと傷口で見る影もない。

「だ…すけ…で……たず…げて……」お初

「今、助けてるよ。あの糞坊主に侵されたお前の心と身体を戻そうとしているのさ…俺もお前もこのままじゃ、息子に顔向けできないぞ。三人でやり直したいんだろ?だから、穢れはココで落とす。痛みも辛さも受け入れろ、例え苦しくて息絶えても、今のままより清く死ねるだろうよ」梅吉

「じにだぐない!…死にだくない…」お初

お初の首を持ち上げ、顔を引き寄せる。
口の中に軽石を入れ、顎に思いきり拳を突き上げる。

「グゲェーー!…ア゛ガッガガ……」お初

口の中の軽石は砕け、壊れた前歯と共に口から出てきた。

「お初…お前に聞きたいことがあったんだ。あの後、どうしたんだ?」梅吉

俺は先程の阿闍梨から離れた後の事を、お初に聞いた。

「アイツの叫び声が聞こえたが…お前、何かやったのか?」梅吉

俺は湯桶で湯をすくい、お初の口の中に流し込みゆすがせた。

「ガフッ…ガラガラ…ぺっ!ぺっ…」お初

「もっと流し込むか?」梅吉

「だ…だいじょ…ぶ、ごべん…な…さ…い」お初

「あの後、どうかしたのか?」梅吉

「……さし…た」お初

「え?」梅吉

「刺し…まし…た」お初

「どこを?」梅吉

「マラ…を…」お初

「刃物でか?」梅吉

「…は…い」お初

「そうか……」梅吉

俺は湯場を上がり、台所へ行って包丁と塩を持ち出した。

その包丁をお初に向けて差し出す。

「俺も同じようにしろ。アイツにやったように」梅吉

うつむき顔を伏せるお初。

「でき…な…い」お初

「なんでだ?俺にも禊が必要だろ」梅吉

「ごめん……な…さ…い、できません…」お初

俺は湿らせた手ぬぐいをお初の口に噛ませ、背中に塩を振り投げた。

「ムグゥッーー!オォ……オゥゥ〜…」お初

塩がついた手で背中を擦ってやる。
傷口に塩が擦り込まれ、熱くなった身体をビクつかせるお初。

「なぜ出来ない?俺が哀れだからか?」梅吉

自分を卑下した俺に、お初は首を振りこう言った。

「…ち…がう…、あい……して…る…から…」お初

俺に殴られた頬は紫色に腫れ上がり、目は充血し、鼻からは絶えず鼻水を流し、歯は欠け、口からは血が混じった唾液を垂れ流し、身体は打ち震えて、美しかった後ろ姿は見るも無惨な状態になりながも、苦痛に耐える元愛妻の姿に、俺はこの上ない失意を感じた。

「愛してる?クソ女が…」梅吉

俺はお初の身体を起こし、股を開かせた。

「お初…俺の顔を見てろ」梅吉

「は…はい…」お初

できる限りの勢いをつけ、右足を大きく後方へ振る。
剃毛された肉の割れ目へ照準を合わせ、思いきり蹴り上げる。

(ガツーンッ!)

「ア゛ァギャーーッ!ア゛ーア゛ー!」お初

狭い風呂場にのたうち回り、うずくまって股を抑えるお初。

気絶してないだけ大したものだと思う。

「落ち着いたら寝床に来い」梅吉

俺は大きめの手ぬぐいを、お初の身体にかけ寝床に戻った。

キセルに葉を詰め、行燈の火をかりる。

久しぶりに煙を燻らせ、これからのことを考える。

もう、元に戻ることは出来ない。

一度、心を殺された俺は今のお初を庭で生き埋めにしても癒やされることはないだろう。

だが、それでは俺自身が前に進めない。

あの時、全てを奪われ朽ち果てた俺の心が戻ってくる事はもう無いが、屋敷の皆んなのおかげで新しい生き方を垣間見る事が出来た。

「どうするかな……」梅吉

お初が風呂場から半裸の姿で出てくる。
身体をおさえ、俺のところに這いずりながら近づいてくる。

「アンタにはこうされても仕方のない事をしてしまった。アタシのこと気が済むまで、好きなように痛めつけてください…」お初

ボロボロにされてもなお、元旦那の俺にひれ伏してくる。

「なぁ、お初よ…もう俺は、お前のこと愛せそうにないよ」梅吉

「………」お初

「でもよ、俺たちは生み落とした責任ってのがある。それだけは果たさないとな…」梅吉

「……はい」お初

「お前は章坊の、たった一人の母親だ。どんれだけ殺したいって思っても、父親として子から母親を奪うわけにいかんだろ。」梅吉

「ごめんなさい……」お初

頭を下げるお初の髪の毛は乱れにみだれ、隠してたであろう白髪がたくさん目についた。

「お前も苦労したな…」梅吉

嫌な思いしても、我慢を重ね耐えてきたことだろう。
俺と息子を裏切ったことにかわりはないが、目の前の女が酷く不憫に思え、可哀想なグシャグシャの頭を手で撫でてやった。

「ぐっ……わぁ…あ〜ん!うわぁーん…」お初

お初は堰を切ったように泣き出した。
抑えていたものが溢れ出すかのように、全身を震わせ嗚咽混じりに泣きわめいた。

「泣け…涙は女の特権だ。そうやって女達は自分を取り戻すんだろ。男には真似できない、あまりに稚拙なやり方だよ。俺たち男も泣いて喚いて立ち直ることが出来れば、どんなに楽だろうな…」梅吉

俺がそう言うと、お初は無理やり泣くことを我慢し始めた。

「ごめ…ん…(グスっ…)」お初

「お前は実家に戻れ、ちゃんと息子と一緒に過ごせ。謝って抱きしめて、絶対にもう離れるな。さもなくば、今お前の命をたつ」梅吉

「わ…わかりました。アナタは…」お初

「しばらくしたら、息子の顔見に行く。俺も謝る、抱きしめてやる。」梅吉

「ありがとう……待ってます」お初

お初と俺は目を合わせる…
自分でしたことだがヒドイ面になった元女房は、きっとどんな男が見ても抱くことは出来ないだろう。
目は腫れ、顔はボコボコ、身体は傷だらけ、これじゃ裸で近づいてきても男は逃げる。

「その顔、息子が見たら泣くかな…」梅吉

「はぁ…なんとかなだめるようにしないとね。阿闍梨にやられたってことに…」お初

「俺にされたって言えよ」梅吉

「あの子の大事な父親のこと、悪くは言わない…」お初

…………でも、こうして素直になった分、以前の女房より少しだけ愛しく感じる俺がいた。

一生このままならいいのに…

「身支度整えたら、帰れよ。」梅吉

俺はお初に、そう告げ屋敷へと向かった。

続く…














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