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心の中で中指立てる時


父が亡くなった後、色んな手続きの件で
父の再婚相手と私の姉と3人で会った。

事務的な話が終わったあと
その再婚相手は一枚の紙と棺に入れて
焼いたと言う小銭を小さなジップロックに
入れて渡してきた。
この小銭は六文銭のつもりなのだと思う。

「渡せるものがあまりなくて‥
 これは棺に入れて焼いたお金なんだけど
 2人にもお渡ししようと思って」と
しおらしく悲しそうに言ってきた。

そんなに悲しそうに装ってるけど
全部わかってる。


一枚の紙は文章を書くのが好きだった
父のメモのような日記のようなものを
1ページコピーした物だった。

その内容は父が再婚相手が入院中に
献身的に世話をしてくれてる事を
ありがたいと書いてる内容だった。

父はパッと色々書く人だったので
入院中こうして毎日パラパラと
思い浮かんだ事を書いていたのは容易に
想像出来る。
そして何ページもあるはずのページの中で
父が自分を讃えてるページをわざわざ
その1ページだけをコピーして私と姉に
渡してきた。

読み終えた私は普通に聞いた。
「これはどうゆう気持ちであなたは
 私と姉に渡して来てるんですか?」

彼女は戸惑ってる風に見せて
「え?どうゆう気持ち‥?
 どうゆう気持ちって事もないけど、
 お父さんがこうゆうの書いてたから
 渡しただけだけど‥何か‥あ。
 気分悪くしたならごめんなさいね‥」


本当に嫌い。
嫌いも通り越して目の前でぶっ倒れても
正直、助ける気も失せる人。
彼女は私の父を手に入れる為に
色んな手段を使った人。
娘の私達にも女の敵意を剥き出しに
して来る人だった。
昭和のサスペンスドラマに
出て来るような嫌な人。
現実にいるの?いたわ。
しかも自分の父親が選んだ人。
本当さ。どうなのよ、その辺。


私は見逃さない。
この悲しそうに申し訳なそうに
話してるが口の端から笑みがほんのり
こぼれてる事。
それを見逃す程、私は幼くもないし
鈍感でもない。

私も長くホステスもして来たのもあって
本当に色んな女性に会って来た。
もちろん性格の良い人もいるように
性格の悪い人もいる。
「何、この女」と思う女性も会ってきた。


でもこの父の再婚相手ほど
性格悪く「何、この女」と思う女性に
出会った事ない。

父はこの人のどこが好きだったのだろうかと
考えずにはいられない。
でも姉曰く、父は生前再婚相手の事を
「あいつは嫌われるよなー
 好かれてるところ見た事ない」
 と言っていたそう。


俺だけは味方でいてあげようみたいな
心理だろうか。

娘からすると勘弁してくれの一言に尽きる。


父はこの人といて幸せだったのだろうか。

そんな事をふと思ったら
思い出した事があった。

父とある時、飲みに行った日。
日本酒と生牡蠣を交互に美味しそうに
食べながらこう話してた。

「今までの人生で1番幸せだなぁと
 思った時はお前達2人と(姉と私)
 レナ(その時飼っていた犬)と
 前の晩から朝まで雪が降って
 積もりに積もって、それでも朝に
 公園に行ったんだよ。
 まだ朝で誰もいなくて公園が真っ白でな。
 レナが走ろうとしても積もった雪に
 体半分が埋もれてな。
 それを見て大笑いして。
 お前達も雪に足を取られて転んで
 雪まみれでさ。
 お父さんが1番幸せだった時はいつかと
 聞かれたらあの雪の朝だ。
 間違いなくあの雪の朝だな。
 あの日笑ってるお前達をみて
 お父さん思ったんだよ。
 あぁ幸せだなぁって」

しみじみ噛み締めるように話してたのを
思い出す。
そんなに幸せなのに、女遊びが
やめられなったのは男性の本能でしょうか。
幼い時なら理解出来なかった事も
もうこの頃には納得はしてないけど
理解と想像は出来るという所までは
来ていた。
人間、成長するとわかる事が増えて
こうゆう時は成長は便利だ。
モヤモヤもイライラもしなくて済む。

あの雪の日。
私も覚えてる。
ベンチに座って眩しそうに
目を細めて笑ってる父の姿。


ごちゃごちゃした家族だったけど
父の幸せだった思う瞬間の中に
私と姉がいる事に胸がギュッとなるのは
嬉しいからなのか、それともその事を
私がギュッと抱えるからのか。

どちらかは今もわからないけど
その事を思い出すとふわっと
温かい気持ちになると同時に
父の再婚相手に心の中で
中指立てる。


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