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赤ちゃんを抱いた少年

あれはジョブズと2人でフィリピンのセブを旅した時のこと。

セブ島と言えば、美しいビーチで観光地としても日本では人気があるが、ここ最近は留学先としても人気が高まっている。

ジョブズと小娘はアウトドアスポーツを楽しむためにセブ島やその周りの小さな島々を転々としていた。

セブシティには、セブ島民の簡素で風が吹いたら壊れてしまいそうなトタンでできた住宅地の中に、観光客向けの綺麗で頑丈なショッピングモールがドーンとあり、格差を見せつけられる場所がある。
今回もそんなショッピングモールを出たすぐのタクシー乗り場で起きた。

ジョブズと小娘はマリンスポーツやリバーアクティビティを楽しむべく、ラッシュガードを現地で入手するためにショッピングモールへ向かった。一通りの買い物が終わり、Airbnbに帰ろうとタクシーの列に並んだ。

すると5歳くらいの男の子が、私たち2人に寄ってきた。何かを抱えながら、私たちをずっと見つめている。

無言で、お金を恵んでくれと圧をかけてくる。

ジョブズも小娘も答えはノーだ。
渡すお金がないと伝える理由はただ一つ。何の解決にもならない。この少年を本当の意味で助ける事ができないから。

お金をもらえないとわかるとその少年は他のタクシーの列に並ぶ人のもとに行き始めた。
だが他の人たちも答えは同じ。みんな首を横に振っていた。

するとその少年はまた我々のところに戻ってきた。
そして今度は秘密兵器と言わんばかりに、自分が抱えていたものを見せてきた。

それは、血の気がなく、口元がカピカピに乾き切り、最後に食事をしたのはいつなのかわからないぐらい痩せ細った赤ちゃんだった。寝ているわけでもなく、起きているわけでもなく、赤ちゃん得意の泣くでもなく、生きているのかも定かではない、そんな憔悴状態の赤ちゃんだった。

思わず口元を手で覆い、驚きを必死に隠そうとした。
小娘はそこで自分の気持ちが揺らいだ。これはお金を与えないとまずいのではないかと…
そしてジョブズの顔を見ると、ジョブズも辛そうに、でも毅然とした態度でまた首を横に振った。

するとその男の子はジョブズのリュックを指差した。
何を訴えているのかと不思議に思っていると、どうやらジョブズのリュック横に入っている水の入ったペットボトルをくれと言っている。

ジョブズはペットボトルを取り出し、これかと差し出すと、少年は勢いよく水の入ったペットボトルを取り、足早に去ってしまった。

今までも旅先でお金を求められることは多々あった。しかし、今回の少年は今までと違った。今までの人たちは、代わりに食べ物や飲み物を渡そうとしても、絶対に受け取らず、お金が欲しいと主張してきた。しかし、あの少年だけは違った。頼むから水だけでもくれ。そんな切迫感さえ受け取れた。

私は急に自分の行動が恥ずかしくなった。
あんなにもお金を渡すことを拒絶したのはなぜだろう。周りで困っている人がいれば、助けるのが普通なのに、私は少年を拒絶し、手を差し伸べなかった。

正しい行動ってなんなのだろう。

私の行動には賛否両論あると思う。
私もいまだに何が正解だったのかはわからない。

ただ、今私が願うことはただ一つ。

あの少年が元気に生きていること。
そしてあの赤ちゃんが満足のいく食事を摂り、我々が考える普通の暮らしをできていること。


写真はセブシティにある布教のシンボル、マゼランの十字架✝️

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