『名探偵は見下さない』:企画

キャッチコピー

ミステリ史と犯罪史に名を残す名犯人vs名探偵、虚実入り混じった戦いの火蓋がここに切って落とされる!

あらすじ

 小学六年生の志嶋緑は頭がよくて少し高飛車。推理小説を好きになってからは拍車が掛かっている。それでも同好の士がいて友達に恵まれていた。そんな彼女らを襲った異常事態――推理小説の結末がすべて「探偵が犯人」に変えられてしまった! エドガー・ランボーと称する異形の者の仕業で、元に戻すには三名の“名犯人”による三つの謎を解かねばならない。緑達はホームズ、明智といった推理小説の名探偵の力を借りつつ、これに挑む。

第1話のストーリー

 志嶋緑しじまみどりは最近探偵小説を愛読するようになった小学六年生。賢くて見た目も愛らしいが、口の利き方がややきついことでプラマイゼロとよく言われる。特に、自分より知識のない子に、「そんなことも知らないの?」「常識だよ」と言ってしまいがち。名探偵に憧れるようになってからは、拍車が掛かっていた。同レベルで話ができるのは同じ趣味を持つ畠山敬介はたけやまけいすけ高木快たかぎかいぐらいだと思っている始末。
 運動会の終わった翌日(代休)、十月十四日を迎えると、妙な事態になっていた。読むミステリのどれもこれもが最後に探偵が犯人でした、で終わるようになっていたのだ。最初はそういう筋書きもアリかなと思ったものの、こうも立て続けだとおかしいと気付く。畠山と高木に伝えると、彼らも気が付いていた。三人が集まって、よそでも同じことが起きているのか、ネット検索などで調べようとすると、世界が一変する。他から切り離されたような空間世界で、三人の前に現れた国籍不明の男は、エドガー・ランボーと名乗り、異変は自分の仕業だと宣言する。
 何でこんなことを起こすのか訳を尋ねると、名探偵がほぼ完璧で毎回謎を解くという形式に飽き飽きしたため、一度すべてをご破算にするのだと答えたランボー。ミステリを愛読するようになってまだまだ日が浅い三人は猛反対。するとランボーは条件を出してきた。こちらでミステリ史に残る名犯人三名を呼び集め、それぞれ完全犯罪を起こす。それら三つの事件を一週間以内に解き明かせたら、今起きている異変と破壊はなかったものにしてあげると。ただし、検索など機械に頼るのは禁止。代わりに、志嶋達も一人ずつ、名探偵を召喚し、一つの事件につき一つずつアドバイスを受けてかまわないと言われた。他に選択肢はなく、条件を飲む三人。
 相手が誰なのか分からないまま、三人は組みたい名探偵の検討を始める。話し合った結果選んだのは、日本における名探偵の代名詞的存在のハーロック・ホームズ、明智天海あけちてんかい金田一太郎かねだいちたろうというそうそうたる面々になった。
 メンバーが決まると、早速事件が起きた。演出する名犯人は怪人二百面相。明智天海の宿敵である。


第2話以降のストーリー

 二百面相に対し、その犯罪を常に看破し、頭脳で上回ってきたとの自負がある明智は余裕を見せる。一方のに百面相も、仮に捕まってもその都度、逃走に成功しているのだからと負けていない。
 二百面相が出してきたのは、あるダイイングメッセージの問題だった。暗い部屋で起き抜けに後頭部を殴打された女性が、血文字を残して絶命する。
 一見単純そうだが難解な暗号に、初っ端から苦戦する志嶋達だったが、明智の「そもそもそのダイイングメッセージ、信頼できるかな」のアドバイスで、閃きを得る。暗がりの中、起き抜けに襲われて死んでしまったのなら、被害者自身も犯人が誰だか分からなかったのではないだろうか。それなのに、どうして犯人を指し示すメッセージが残せるんだ?という疑問が浮かぶ。そこを突破口にして、解決に成功する。真相を指摘すると、怪人二百面相は荒っぽい言葉遣いで負け惜しみを口にしながら、消滅していった。

 二つ目の事件を受け持つ名犯人はアラン・セルパン。フランス生まれとされる稀代の大泥棒だ。これには、何度かやり合ったことのあるホームズが受けて立つと名乗りを上げる。
 セルパンの用意した謎はアリバイ。と言っても人のアリバイではなく、凶器のアリバイでだというからちょっと変わっている。あるお屋敷で殺人が発生し、凶器は屋敷に元からあった宝剣と分かる。しかし、犯行推定時刻を含めた丸一日以上に渡って、その宝剣は鍵の掛かった箱に仕舞われ、厳重に保管されていた。これは、凶器のアリバイトリックであると同時に、凶器をいかにして密閉状態の箱から持ち出し、また戻したのかという密室トリックでもあると言えた。
 箱の鍵のすり替えや箱そのもののすり替え、あるいは宝剣自体、偽物が作られていた可能性など、色んな仮説が議論されたがどれも決め手に欠ける。「実際には別の凶器が用いられ、宝剣には箱の隙間から注射器か何かで被害者の血液を降り注いだんじゃないか」といった推理も出され、実際に箱にはわずかな隙間があったが、中が見えない状態で刃にのみ血を付着させることはほぼ不可能だと分かる。
 悪い意味で煮詰まる中、ハーロック・ホームズがアドバイスする。「箱の鍵の動きに目を向けるのもいいかもしれない。そしてセルパンは変装の名人であることも忘れないように」と。
 これを受けて三人が話し合う内に、事件の発生前後に鍵に触れる機会のあった男女二人の関係者がもし共犯なら可能だと気付く。ただし、その二人は反目しており、動機の面で矛盾するため、協力するとは思えない。だがその男女が実は同一人物だった、ともにセルパンの変装術によるものだった可能性に思い当たり、見事解決できた。
 真相を突き付けられたアラン・セルパンは変装を解くと、完敗を認め、静かに消え去った。

 最後の事件を画策したのはリドルー・レイン。その名を聞いて、志嶋達のアドバイザーである名探偵三人はどよめいた。レインは耳が不自由ながら俳優にして、難事件を解決してきた名探偵だったからだ。そんなレインが名犯人として出て来る理由はただ一つ、最後の事件においてある理由から犯罪者の命を奪い、その行為を秘密にしたからにほかならない。
 俳優の気質故か、レインはかつて実在した殺人鬼、切り裂きジャック(本名は不明)に扮した上で、孤島の館にて殺人を起こす。一日に一人ずつ、犠牲が増えていく。しかもその全てが不可能犯罪と称されるもので謎に満ちていた。志嶋達は手掛かりを得られず大苦戦。頼みの名探偵達はレインの“反乱”の理由を調査するためと言って、姿を見せない。このまま期限の七日を迎えてしまうのか……。

 最終日、追い込まれたところへ、金田一太郎が駆け付ける。彼のアドバイスにより、不可能犯罪のトリックを次々に切り崩していく志嶋達三人。そうしてついには、耳の聞こえないレインがこの犯罪を起こすのは実際には無理だと指摘し、切り裂きジャックがレインの扮装ではなく、切り裂きジャック当人であることも見破った。
 現実世界の犯罪者である切り裂きジャックは、消滅することなく逃走を図り、行方をくらました。

 エドガー・ランボーは二段構えの仕掛けを見抜かれ、敗北を認める。そして自分が飽き飽きするほど読んできたからと言ってミステリの基本となる古典的作品を貶めず、尊重していくことを約束した。
 その上で、今度の出来事を起こしたのは本意ではなかったと吐露する。ある人物に脅されて、仕方がなく起こしたのだという。しかも三人の名犯人達とは一切関わりがなく、誰が現れるのかすら知らなかったとまで証言した。
 ランボーを脅した人物の名は、エラリー・キング。リドルー・レインとつながりのある、ミステリ作家にして名探偵の男が一体なぜ、このようなことを起こしたのか。よくよく思い返してみると、あの切り裂きジャックが、不可能犯罪に拘ったのも、どこかちぐはぐだ。影に、トリックを授けた者がいるのではないか。
 残った謎を解き明かすために、志嶋緑ら三人の小学生とハーロック・ホームズ、明智天海、金田一太郎の冒険はまだ終わりそうにない。

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