見出し画像

降水確率0%の通り雨4《君の雷雲 僕の離脱性体質》13

嵐のような夏が終わり、いまはもう、春が見えかけた冬の終わりの2月末。僕の卒論もあいすの卒業制作も提出し終えて、あとは卒業を待つのみ。
僕らは、この数ヶ月間まったく会わなかったわけではない。同じ家に住んでいたし、生活パターンが、そう変わったわけでもなかった。挨拶もするし、一緒に食事もする。でも、気持ち的にはすれ違っていた。少なくとも僕はそう感じている。聞かなきゃならないことを聞けないまま、ただ忙しさを理由に、自分のことだけに没頭していたという感じだ。
たけるや門脇ついでに、冨田ともなんだか会えない日々が続いていた。あんなにずっと一緒にいたのに、大学への電車通学でさえ、僕は1人になった。絶対に僕を1人にしなかったたけるが、そばにいない。変化が、僕に変化が訪れようとしていた。

今日こそ聞かなきゃ、でも、もしも、僕はあいすの部屋の前で動けずにいた。ノックしてそして
「なにしてんの」
「ぎゃっ」
「ずっと部屋の前で、どうしたのさ」
あいすはくすくす笑っている。
「あ、話があって」
「入りなよ」
洋裁の材料がたくさんある部屋、だけど、カラフルでおしゃれな部屋。僕の部屋とは全然違う。
「話って何」
聞かなきゃ、
「もうすぐ卒業だね」
「そうだね」
「僕は院に進学するけど、あいすはどうするの」
あいすを見ることができずに、僕は下を向いたまま、質問する。
「まだ、決定ではないんだけど、いくつか俺を誘ってくれてるとこがあるから、そのうちのどこかに勤めようと思ってる」
どくんっ
「この家から近いとこ?通えるとこ?」
拳を握りしめる。
「あきら、俺は、ここを」
「いやだ!!」
いやだいやだ!出て行くなんていやだ!離れるなんていやだ!変わってしまうなんていやだ!
「出ていっちゃ嫌だ、そばにいて!ずっと一緒って言ったじゃないか!あいす!約束したじゃないか!ぼくは!」
こんなのだめだ、ただの、わがままだ、なのに
いやだ、感情が止まらない!
時空が歪んでいく。思いが渦となって、どんどん侵食していく、そして
「落ち着け」
背中から腕が回される。
なんだよ、きみ、そんな声出せたんだ
昔はさ、もっと感情的で、、
でも、この深い声が僕を落ち着かせる。
背中のぬくもりが、背中から回された腕が僕を安心させるんだ。
だから
「何の用だよ、ずっとほったらかしにしたくせに」
そう、悪態をつく。
「形になるまで待ってくれと言っただろう」
「できたの?」
「だいたいはな」
「それで、君もどこかへいくの?あいすと同じように」
そう言いながらも、僕にはさっきアイスにぶつけてしまったような絶望感は襲ってこなかった。背中から回された腕にしがみついていたら、ただ安堵する自分がいた。
「ああ」
「そう」
腕をきつく抱きしめる
「じゃあ、あの時言えなかった言葉をいってあげるよ、たける、いってらっしゃ、」
「お前もいくんだ」

「、、へ?」
なんの冗談だ
「あいすも、あきらをからかうのはよせ」
「だって、卒論でほとんど構ってくれなかったからさ、いつも上の空だったから寂しくて、」
いや、寂しかったのは僕の方です!
「どういうこと?あいすとたけるで、なんかたくらんでいたの?」
「たくらんでいたのは、たけると門脇。俺は進捗状況を聞いていただけ」
「だから、なんの?」
「会社を立ち上げたんだ」
「かいしゃ?」
「いや、会社というのとも少し違うな。単に、互いの得意なものを持ち寄って、それで、企業として成り立てばいいなと思ってる。複業施設のようなものだ、したいことをするだけ」
「そんなことできるの?」
「そのために、ずっと動いてきた。あとは仕上げだ」
「仕上げ?」
「お前の許可を取ること」
「なんだ、よ、それ」
「これは、お前の嫌いな"変化"だ。苦手な"変化"だ。さっき、あいすが、離れて行くと思っただけで、時止めが発動しかかった。お前が誘拐というきっかけがあったとは言え、記憶消失の事態を起こしたのは、環境の変化についていけないお前の弱さもあったのだと思う。そこは、受け入れろ。そして、自分を支配しろ。そんなことに、ずっと怯えるほどお前は弱くはない。訓練すればどんな変化にも、耐性がつくと思っている。この会社で訓練する気はあるか、あきら」
「えっと、そこって会社っていうより、リハビリ施設なの?僕の?」
「一応利益も追求する」
「一応ってなんだよ!で、僕が拒否した場合」
「強制的に俺の支配下契約だ。どっちでもかまわん」
「「いいわけないだろーーー」」

結局、院への進学は諦めた。綺麗なビルの広い一室に、僕らのオフィスはすでに整えられている。各自のスペースに分けられているが、互いの行き来も容易だった。
そこは、
「なんだか、ねえさまの船みたい」
「わかるか、彼女たちの船を参考にしているんだ」
「どうりで、すぐに飛び立てそうな計器だよ」
「よくわかったな」
冗談だよね?

降水確率0%の通り雨4
《君の雷雲 僕の離脱性体質》 了


ここまで、お目通しいただいた方、心からの感謝です。
これで、降水確率は一応 FIN となります
やっとだ
広げたエピの取りこぼしは、いつか、(そんな日が来るかな〜)外伝(あこがれ!)みたいなので描けたら嬉しいなっと思います。
ほんとにほんとに
ありがとうございました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?