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降水確率0%の通り雨3《君の遠雷 僕の健忘性体質》9

「あそこに、私たちが初めて会った場所に舟の残骸と私の盾が落ちているはず」
盾を取り戻さないと、とあまねがいうので、あきつたちはあまねと最初に出会った海岸に来ていた。
「吸収の国の軍も集結していますね」
「でも、私の舟や盾のことなど彼らは知らないはず」
「長老と通じているなら、そんな情報ももらっているでしょうね」
「・・長老」
「どうしますか」
「行きます」
「あまね!」
「ある程度近づけば、盾は私に反応します。そうすれば操ることができる」
「そうか、じゃ、私が正面突破するね」
「一緒に行く」
「よし、行こう」
「後ろから補助しますね」
「ありがとうねえさん!って、おわっ」
どんっ、正面の兵士がいっせいにふっとぶ。
「これって、補助レベル?」
「あはは、あずさねえさん素敵」
「いくよ」
「うん」
風を操り、水を支配し、鬼神のごとく駆ける2人に敵うものなどない。
「あーあ、補助なんていりませんでしたね、ふふ」
「よし、ここね」
あまねは、大きく息を吸い、手を上にかざす。
「逢魔、我に従え!」
中空に大きな円盤が現れる。満月のごとき光、光を受けて輝く白銀の髪。
「絶対、我に従え、眠」
兵士たちが一斉に倒れる。海の波までもが静かになる。
「えっと、これは?」
「あきつー、こんなのでいい?」
いつの間にか盾は消えている。
「こいつらは?」
「盾があれば操れるって言ったよ?」
あまねが、何でもないことのように言う。
「操るって人のこと!?すごい!やるじゃない、あまね」
「えへへ」
「そんなにすごい力を自分の為には使わないんですね」
「長老!何でここにいるの!」
あまねを背にかばい、あきつは、戦闘態勢をとる。長老はかまわず続ける。
「あなたを舟に乗せようとする人たちを眠らせ、逃れることもできたはず。どうして、そうされなかったのか」
あまねは何も言わない。
「そして、なぜ今、この世界が滅びようとしているときに戻られたのか」
「滅び?」
「あきつ、ねえさんたちは知っているよ」
「止めて見せるわ」
ありさが、こちらへやってきて長老に対峙する。
「そう、そして、この姫も同じ目的でここにおられるのだとわしは推測している。遙か昔にこの地を離れた姫がなぜ、この時にここに帰ってきたのか。それは、あらかじめこうなることを予見していたから。わが身を犠牲とするために。違いますかな」
あまねは、下を向き、肩を震わせている。泣いているのか、長老は思う。
「しかし、わしはあなたに引導を渡す。あなたの犠牲など何の意味もないと。あなたに人生をもらったわしだから言えるのです。
あの時、あなたはわしを、あなたの供をするよう言いつかったわしを、来るなと言って押し返した。普通の人生を生きよと。だが、その時わしはもう死んだものとされていた。帰る場所も家族も何もなかった。」
「それは、」
「それに、あなたに押し戻されたとき、あなたの力が流れ込んだのでしょう。長命の体質になっていた。0の生活、あなたにその生活が想像できますか」
「あ、私、」
「わしは、」
あまねが目をぎゅっとつむる。
「わしは、楽しかったですよ」
「え、」
「たのしかったです。色々なことがあった、いろいろな経験をした、そりゃ、苦しいことも悲しいこともあったが、総じて楽しいという想いが勝ちます。あなたがくれた人生です。時の止まった空間では得られなかった経験だ。だから、あなたに再び会うことがあったなら、お礼が言いたかった」
あまねは右手で左腕をぎゅっと押さえている。なにかに耐えるかのように。
「だが、そのせいであなたは一人で漂うことになった。寂しい旅をさせてしまった。だからこそ、今度はわしはあなたを助けたい、そう思うのですよ」
「ごめんじーさん、私じーさんのこと、とんでも変態だと思ってた」
「その言葉で十分傷ついてますよ、あきつ、ほっほっ」
「だったら、私を時のー」
「時の隙間に連れて行けというのでしたら、お断りします」
「だけど、時はすでに落ち込み始めている」
「それでも、お断りします、私はあなたにそうさせないためにここにいるのです。他の手を考えてください」
「だけど、」
「今のあなたには相談できる相手がいるでしょう。知恵を借りるのです。あの時とは違う」
「そうね、考えましょう、今日明日で事態が急激に変わるわけでもありませんからね」
「そのとおりよ、あずさ。あきつ、あまね、船に戻って食事して、一杯考えよう」
「ねえさんたち、よーし、飛び切りの作戦ねりまっしょい、あまね、いくよ」
「うん、でもひとつだけ、長老がこの戦争を仕掛けたわけは何?吸収国とくんだわけは」
「とても馬鹿馬鹿しくて泣けてきますよ。それでも聞きたい?」
「回顧録にでも残しておいて、では」
4人は去っていった。
(いわせてほしかったなあ、ただ、あなたに会って話がしたかっただけなのですよ、と。ま、叶ったからいいか)

う~さぶい!さぶいぼが止まらない、なんなのあのじーさま、想像力が暴走しすぎよ!
ひたすら腕をさするあまねに、大丈夫?と心配げにあきつが声をかけていた。

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