Web小説発掘記 その278 20年前、ダンジョンは異常空間と呼ばれていた 作者 玄野久三郎様

本編URL

https://kakuyomu.jp/works/16818093073767236134

前書き

この記事は作品のネタバレを含みますのでご注意。
こちらの記事はあくまでも筆者の個人的意見です。
評価の基準としては200円~700円前後の書籍を購入し、読んだものとして付けさせていただきます。そのため基本的には厳しめとなります。
※こちらは『第1部4章 最後の聖夜』までを読んでの感想、レビューとなります。

あらすじ

「目を覚ますと、私はダンジョンの中にいた――。」

謎の女子高生ルカは、目覚めたときすべての記憶を失っていた。
自分が何者なのか、ここがどこなのかもわからないままで、少女は自らを導く相棒の神凪セイジと出会い、「ダンジョン」の攻略を開始する。

「ダンジョン」が日常として当たり前の世界で、彼女は記憶を取り戻すことができるのか。

そして、彼女の記憶の先にある「20年前」の真実。
それを知るとき、最大の不幸が訪れる……。

ストーリーと見所

一人の少女がダンジョン内で記憶を失って目覚めるところから始まる、現代ダンジョンものの小説……の、皮を被ったバディ物?

いや、ジャンル的にはダンジョンものではあるのだけど、物語の内容的には(取り敢えず一章の段階では)舞台装置的な意味合いの方が強く、二人の関係ややり取りの方に焦点が当てられている。

ストーリーは記憶喪失の少女が、少しぶっきらぼうな男性に拾われ一緒にダンジョンを脱出するといった始まり。
文章はとても読みやすく、物語のテンポもいい。

特に最序盤の僅かな間に謎を散りばめつつ戦闘をこなし、その上で相棒となる男性キャラクターの強さや格好良さをしっかりと見せることができている。

その後も伏線を張りつつ、適度に二人のやり取りを交えながら世界観を語り……とこの辺りの仕事がかなりスムーズ。これは作者さんの高い技量が伺えると言うもの。

あらすじにバッドエンドと書いてあるのは個人的には如何なものかと思ったのだが、逆にWebで連載する分にはこれはこれでいいのかも知れない。
そういった作品が好みの人をピンポイントで狙えるし、苦手な人も覚悟しつつ読むことができる。

またそうすることによってバッドエンドにしても、ちゃんとそこまでの道筋を丁寧に書いているということが読者に伝わるというのも作品としてはプラスなのだろう。

実際、当たり前ではあるが作品としての作りは実に丁寧で、本当にバッドエンドを迎えるとして相応の衝撃を読者に与えようという気概が見て取れる。

決して物語自体は暗いわけではなく、一章の時点ではちょっとしたコメディ的な描写もあったりと、読者にこの二人を好きになってもらおうという仕掛けの数々も読んでいて好感が持てる。

特に感受性が強い読者なら、この辺りで二人の結末にハラハラしつつも、読む手が止まらなくなってしまうのではないだろうか。

作者さんがやりたいことをしっかりと形にできている良作小説。

キャラクター

ルカ

物語の主人公。
記憶喪失の少女。

明るく元気な少女で、だからこそ物語の中に漂う不穏な空気とのギャップがいい味を出している。

一章の終盤で衝撃の事実が明らかになる。

神凪セイジ

主人公の相棒。
実質的にはもう一人の主人公。

ぶっきらぼうな性格だが、面倒見はいい。
お金を稼いでいる割にはケチだったりと、面白いキャラ付けがされているのも特徴。

最初はちょっととっつきにくいところから、少しずつ人間味を出していく描写がとても秀逸。

総評

評価点

読みやすくテンポがいい。

ダンジョンパートや戦闘部分がかなり手早く進み、二人の関係に焦点が当てられているので物語を見失いにくい。

またちょっとしたコメディパートと、シリアスパートの書き分けも上手く、その辺りのバランスもとれているので読んでいて飽きない。

問題点

Web小説である以上仕方がないことではあるが、少しばかりテンポが良すぎる気がしないでもない。

特にダンジョンパートは良くも悪くもあっさり気味。

最終評価 55点(Web小説としては充分な良作)

テンポの良さも含めた読みやすさは一級品。

その上で物語に手抜きはなく、二人の関係を上手く縮めながらも不穏な気配を漂わせるバランス感は実にお見事。

総じてレベルの高い作品であり、メインとなるキャラクター二人の関係性や今後が気になるような物語として上手く作られている。

バッドエンドと先に書いておく斬新な手法も、Webならではの面白い要素といっていいだろう。

所要時間は『第6節 12■■再臨』までで凡そ30分ほど。

極めて個人的な感想

とてもテンポよく、やりたいこともちゃんとできている。
かなりの優良作品。

ただ個人的には、ダンジョン探索や二人の関係の深め方はもうちょっと丁寧でもよかったのかなとも。
勿論、その辺りは二章以降で回収されていく可能性もあるので、あくまでも一章を読んでの感想ではあるけど。

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